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41話「本当に顔出さなきゃ駄目なんだろうか」
しおりを挟む「改めて自己紹介しようかなっ!!
ユークリア王国騎士団長っ!! オウカちゃんの婚約者っ!!
コダマレンジュだよっ!! みんなよろしくねっ!!」
婚約者は自称じゃなかったか、確か。
それともオウカとの仲は進展したんだろうか。
つっこみ入れたら何が帰ってくるか分からない怖さがあるから黙っておくけど。
て言うか、訓練で疲れ果てて身動き一つ取れん。
「おおお!? 本物ですかライさん!? 本物のコダマレンジュですか!?」
「本物だよ。姿絵くらい見たことあるだろ?」
子どものような小柄な体に長い黒髪、今は猫のように細められている黒い眼。
そして王国騎士団の服を着ている彼女を見間違える人はほとんどいないだろう。
七年前、魔王を倒し戦争を終わらせた、異世界から召喚された十人の英雄たち。
その中でも最強と呼ばれる人物が二人いる。
魔王とタイマンして殴り勝った勇者、『神魔滅殺』のトオノツカサ。
そしてもう一人が『韋駄天』のコダマレンジュ。
つまり、この人だ。
『韋駄天』
地を蹴る度に加速し、任意の摩擦を無くす能力。
その最大戦速は光を置き去りにし、あらゆるものを斬り裂くと言われている。
普段はただのハイテンションな人なんだけどな、この人。
「……凄い。生きた伝説がここにいる」
「まさかお会い出来る日が来るとは思いませんでしたね。ライさんの交友関係って凄いですね」
「……うっわぁ。なんかもう、ボクの理解を超えてるんだけど」
うん。まぁ、そういう反応になるよな。
下手したら国王陛下より有名だもんな、この人。
「いやいやっ!! 馬鹿弟子がお世話になっておりまするっ!! いつもありがとうねっ!!」
全力で頭を下げるレンジュさんに、うちの仲間たちはどうしたらいいか分からずに戸惑っていた。
うん。何て言うか、まともに相手しない方が良いぞー。
疲れるだけだからなー。
「そだそだっ!! 村の人達っ!! 木を切って建材を用意してるあるからねっ!! 村はそれで復興してほしいなっ!!」
「あ……ありがとうございます!」
レンジュさんは、俺たちを遠巻きに見ていた村人にそんな事を伝えた。
いつの間に、とすら思わない。
この人はマジで何でもありだからなー。
「ところでっ!! セイはこんな所で何をしてるのかなっ!?」
「あー。竜の牙は抜けたんですよ。今は田舎目指して旅してる所です」
「おっと!? ついに抜けちゃったんだねっ!!」
「俺みたいな凡人には身の丈に合いませんからね。戦いとか怖いんで」
半分ほどはこの人のせいだが。
訓練と称して毎回フルボッコにされてたからなぁ……
見えない攻撃をどう対処しろって言うんだよ。
無茶振り過ぎるだろ。
「という事はっ!! この子達が今の仲間なのかなっ!?」
「ですね。今はみんなで王都を目指してます」
「王都に来るならみんなに会っておかないとねっ!!」
「それは勘弁してください、マジで」
みんな良い人だけど癖が強すぎるんだよな、英雄って。
ちなみにオウカの紹介で十英雄中の九人は知り合いだったりする。
出来れば関わり合いになりたくないんだけどな。目立つし。
「て言うか王都に行くなら運んであげよっかっ!?」
「あぁ、お願いできますか? できるだけ急ぎたいので」
「りょーかいっ!! さあさあ馬車に乗り込みたまえっ!!」
促されるまま馬車の幌に乗り込む。
と、同時に。
「到着っ!!」
言われ、馬車を降りると、先程まで居た街道では無く。
そこにはそびえ立つ雄大な街門が広がっていた。
奥に見えるのは威光を示すかのように巨大な王城。
周りにはたくさんの人達が立ち入り許可を求めて並んでいる。
王都ユークリア。国の名前にもなっている大都市。
俺たちの目的地が目の前にあった。
「えええ!? ライさん! なんですかこれ!?」
「ん? レンジュさんに引っ張ってもらっただけだが」
光を超える速さに、任意の摩擦を無くす能力。
つまり、一瞬でどこにでも行ける能力でもある訳だ。
彼女に頼めば世界中のあらゆる場所に即座に移動する事が出来る。
ただ、レンジュさん自身が非常に目立つから普段なら絶対断ってたけど。
「……さすが英雄。凄い」
「この人は特別だからなぁ」
感心するサウレ。そして驚きのあまり言葉を失っている他のメンバー。
うん。これが普通の反応だよな。
「んじゃ私はみんなに知らせて来るからねっ!! また後でっ!!」
言うが早いか、目を向けると既にレンジュさんの姿は無かった。
相変わらずせっかちな人だ。
「とりあえず……俺達も並ぶか」
周りの注目を浴びながら、長々と続く列の最後尾に馬車を移動させ、一息ついた。
しかし、あぁ。怖かった。
何も確証は無かった。
もしあそこでレンジュさんが来てくれ無かったら、俺たちは容易く死んでいただろう。
それを思い、改めて背筋が凍りついた。
久しぶりに見た災害級の化け物。
俺みたいな凡人では到底敵わない相手を前に、それでも心が折れなかった理由は二つ。
レンジュさんなら来てくれるという信頼。
そして、仲間が居たから。
コイツらが居なかったら、俺は諦めていたかもしれない。
けれど、守りたいものがあったから。だからこそ、折れずに行動することができた。
どうやら俺が思っていた以上に、このメンバーは俺の中で大切なものになっていたようだ。
その事に思わず笑みが浮かびそうになり、慌てて口元を隠す。
「……ライ。ありがとう」
「ん? 何がだ?」
「……また、助けてくれた」
「いや、俺は何もしてないんだが」
ただレンジュさんを呼んだだけだしな。
「……ライは私たちが危なくないように、一人であの村に行った」
……あー。バレてたか。
大丈夫だとは思ったけど、万が一を考えて皆には馬車に残ってもらった。
そうすれば、サウレ達に危害が及ばないかもしれないから。
確率的には低かったが、どちらにせよレンジュさんが来てくれたから問題はなかった訳だが。
「……今夜、部屋に行くから準備しといて」
「何の準備だ。怖いことを言うな」
「……今日こそは、頑張る」
「頑張るな」
そんないつものやり取りをしながら、先程までとは違う、平穏な時間を送ることができた。
それはさておき。レンジュさんに言われたものの。
本当に顔出さなきゃ駄目なんだろうか。
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