50 / 101
49話「相変わらず素直じゃない奴だ」
しおりを挟む治療院での仕事を終える頃には、既に日が沈みかけていた。
キョウスケさんに報酬を貰ったあと、俺たちはその足でオウカ食堂の職員寮、と言うか冒険者ギルドの職員寮に向かった。
元々身寄りの無い孤児の住む場所としてギルドの寮を何部屋か借りていたらしいが、今ではギルド職員より数が多くなっている。
何せ百人近くいるからな、オウカ食堂の店員。
ちなみにこの建物の最上階は元々オウカの部屋だったらしい。
今でもたまに王城と行き来しているらしく、稀に空から出入りする姿を見ることが出来るんだとか。
オウカ食堂に現れる『魔法使い』と合わせて王都の名物扱いになっているようだ。
それはさておき。
王都の中で王城の次に巨大な職員寮に入ると、そこは子ども達で溢れかえっていた。
容姿も種族も様々だが、みんな笑顔で忙しそうにしているのが特徴的だ。
その中で一人、見覚えのある顔を見つけたので手を上げて挨拶する。
鮮やかな緑色の髪をした少女はすぐにこちらに気付き。
「……はぁっ!? え、セイ!? あんた今まで何処に居たのよっ!?」
絶叫しながら駆け寄ってきた。
あ、やっぱり怒られるのか。
予想通りではあったけど、やっぱり怖ぇな。
「て言うか本物!? ちゃんと生きてる!?」
「おう。本物だし生きてるぞ」
「良かったぁ……」
彼女は胸を撫で下ろし、そして次の瞬間。
「どっせぇい!!」
「ぐはぁっ!?」
彼女の華麗なドロップキックによって俺は吹っ飛ばされた。
見た目によらず肉体派なのは相変わらずで何よりだが、せめて加減はしてほしかった。
「……ライ。敵?」
「げほ……いや、身内だよ。大丈夫だ」
かなりダメージを負ったが、心配かけたからなー。
これは仕方ないと言うか、俺が悪いし。
「あら? セイ、こっちはお客さん?」
「今の仲間だよ。で、こいつがフローラ。食堂ギルドの統括ギルド長で、オウカ食堂王都本店の店長だ」
「オウカさんに押し付けられただけなんだけどね……」
俺の紹介にフローラは苦笑いを返す。
昔はオウカが店の管理を全くやらなかったから、仕方なく店長代理をやってたんだけどな。
あいつが女王になったせいで、食堂ギルドもオウカ食堂も責任者の肩書きをぶん投げられた形である。
不幸なのが、フローラが優秀すぎた事だろう。
誰の目から見ても膨大すぎる仕事量なのに、彼女はそれを軽々とこなしてしまっているのだ。
そのせいで周りからは現状で問題無いと判断されている。
百年に一人と言われるほどの天才少女。
それがこのフローラだ。
「でさ。みんな元気でやってるか?」
「元気すぎて困ってるわよ。未だに悪い風習が抜けないし」
「まーた自主的な時間外労働してんのか」
オウカ食堂の店員はみんな、元孤児だ。
王都どころか国中から集められた孤児達は仕事がもらえた事に感謝しており、より恩返しが出来るようにと夜な夜な自主的に勉強会を行っている。
厄介な事に、オウカやフローラにはバレないように。
「してんのよ。一応現行犯には罰則を与えてるんだけどね」
「罰則? なんだ?」
「一週間デザート禁止」
「それはまた……」
オウカ直伝のレシピだからなあ。
王都の高級菓子店で売られているのと同じレシピで作られたデザート、美味いもんな。
ちなみにこの店、ネーヴェ菓子店だが、これもオウカの店だったりする。
どこまで行ってもオウカの手が伸びてる状態だからな、この国。
「で、夕飯はどうすんの? 食べていく?」
「いや、今日は家に戻るわ。あっちの家も掃除してくれてんだろ?」
「一応、定期的にはね。感謝しなさいよ?」
「してるしてる。マジで助かるわ」
家主がいない間にチビ達が掃除やら草むしりやらしてくれてるからな。
急に帰ってきてもそのまま使えるのはありがたい話だ。
また今度、土産に何か持ってこなきゃな。
「あ、でもさー」
「どうした?」
「夕飯。今日はオウカさんが新作出すらしいわよ」
「食っていくわ」
その情報を聞いて即答する。
あいつの料理腕前は王都一だからな。
美味いものを食い逃す手は無い。
「という訳なんだが……」
「私は美味しいものが食べたいです!」
「……私はいつでもライの傍に居る」
「私もご一緒出来るのなら、是非お願いします」
「もちろんボクは食べていく! 何ならお手伝いする!」
「……だそうだ。五人分追加で頼む」
手を開いて突き出すと、フローラはそこにぺちっと軽くパンチを当ててきた。
「自分で言いなさいよ。私は忙しいんだから」
「それもそうだな。て言うかもうギルドの厨房にいるのか?」
「いると思うわよ。オウカさんだし」
「……だろうなあ。オウカだし」
二人して苦笑い。
あいつ、一応この国の女王陛下なんだがなあ。
食堂の厨房で飯作ってる方が自然に思えるのは何なんだろうか。
どうせ今も楽しそうに炒め鍋振ってるんだろうなー。
「んじゃ、引き止めて悪かったな。仕事頑張ってくれ」
「あーもう……あんたさ、いい加減私と変わってくんない?」
「やだよ、めんどくさい」
俺は悠々自適なスローライフを送りたいんだよ。
そんな大層な肩書きなんていらんわ。
「まあ、手伝いくらいはしてやるから。頑張れ」
「うう……なんで私がー」
「さっさと諦めた方が楽だぞー」
ぽふんと頭を撫でてやり、そのまますれ違う。
その時、かすれた小さな呟き声。
「……おかえり」
「……おう。ただいま」
誰にも聞こえないようなやり取りを残して、俺たちはそのまま厨房へ向かった。
相変わらず素直じゃない奴だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる