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50話「厄介な事にならなきゃいいけど」
しおりを挟む冒険者ギルドの厨房はやはり子どもだらけだった。
慌ただしく駆け回り、材料を切り、鍋を振るい。
それぞれ担当の持ち場で割り振られた仕事をしている。
大人は一人もおらず、数十人の子ども達だけという異様な光景に思わず苦笑する。
ここもオウカに侵食されてるなー。
やりたい放題だな、あの女王陛下。
そのオウカはどこに、と視線を巡らせていると、子ども達に混ざってニコニコと楽しそうに炒め鍋を振るう小柄な姿があった。
なんと言うか、うん。
帽子被ってると周りの子達と見分け付かないなあいつ。
ただ、手にしたそこの浅い炒め鍋は通常の三倍の大きさだし、それを二つ同時に見ながら深鍋の様子も見ているのは異常だけど。
運び込まれた食材を素早く炒め鍋に投入すると、合わせ調味料らしきものを回し入れる。
じゅわぁと心地よい音と、オーク肉の焼ける香り。
そこにニンニクと醤油の匂いが交ざり、食欲をそそる。
いかん、腹が減った。さっさと要件伝えて戻るとしよう。
「オウカ! 悪いが五人分追加で頼む!」
「お、セイじゃん! りょーかい!」
朗らかな返事をもらい、すぐにギルドに戻る事にした。
しかしあれ、いったい何人分作ってるんだろうか。
中々に半端じゃない量だったんだが。
……なんだか考えたらいけない気がする。
「さて、どうしたもんかね」
少しばかり時間が出来てしまった。
ただ待つには長く、かといって出掛けるほどの時間は無い。
どうしたものかと考えていると、アルが元気よく手を挙げた。
「はい! 稽古を付けてください!」
「あー。そう言えばそんな話もあったな」
前に言われた時は命の危険を感じたからやらなかったけど、今ならアルも加減が出来るだろうし。
何より、前に約束しちゃったしな。
「うっし。んじゃちょっとギルドの裏の広場借りるか」
受付カウンターへ向い、美人と評判の受付嬢さんに許可を貰いに行くと。
「ちょっと訓練したいんで場所借りて良いですか?」
「構いませんけど……あの子、大剣使いですよね? 大丈夫ですか?」
当たり前だが、俺の心配をされてしまった。
うん。そりゃそうだよなぁ。
大剣は見ての通り巨大で重く、適当に振り回しただけでも非常に威力が高い。
大して鍛えているように見えない俺が相手だと、かすっただけで大怪我する可能性がある。
俺も出来れば遠慮したいところだが、約束したものは仕方ない。
肩を竦めて苦笑いすると、不意に横手から声を掛けられた。
「おう、なんなら俺が相手してやろうか?」
壁際に寄りかかっている筋骨隆々なおっさんがニヤリと笑う。
歴戦の戦士のような雰囲気だが、顔がめちゃくちゃ怖い。
それはもう、子どもが見たら泣き出してしまいそうなくらいに。
「どうもです。相変わらず顔怖いですね、ゴードンさん」
しかし実はこの人――ゴードンさんは古株の冒険者で、人一倍面倒見が良い人だ。
新人冒険者はかならずと言って良いほど世話になってるし、俺も実際色々と助けてもらった。
顔は怖いが優しくて頼りになる、みんなの兄貴分的な存在だ。
「喧しい。で、嬢ちゃんの大剣でも俺なら受けきれると思うぜ」
「……うーん。それは確かにそうですけど」
ほぼ素人のアルと熟練冒険者のゴードンさん。
力量差は明白なんだが、アルだしなあ。
何やらかすか分からないのが怖いんだよな、こいつ。
「任せとけ。こういうのは慣れてるからよ」
「じゃあ、お願いします」
「ライさん! ぶっ殺しても大丈夫な人ですが!?」
「大丈夫な訳無いだろ」
物騒な事を言うアルの頭をペチン叩くと。
「えへへー」
何やら嬉しそうに両手で頭を抑えながら笑いだした。
こいつ、実は構ってほしいだけじゃないか?
最近は半分くらいそれがあるような気がするんだよなあ。
前ほど殺気を放たなくなって来たし。
いや、俺が慣れただけかも知れないけど。
「ゴードンさん、お願いしても良いですか?」
「おう、任せとけ。じゃあ早速裏に行くか」
ゴードンさんはニヤリと、悪役風な笑みを浮かべて言った。
いや、ゴードンさんの腕は知ってるけどさ。
厄介な事にならなきゃいいけど。
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