58 / 101
57話「急がないと間に合わないな、これ」
しおりを挟む朝食を終えた後、用事があるから一人にして欲しいと頼み込み、冒険者ギルドへ向かった。
かなり怪しまれたけど、最終的に納得してくれたから大丈夫。だと思いたい。
ギルドに到着すると、そこはやはり人で溢れかえっていた。
依頼書を前に作戦を練る若者、受付嬢と歓談する少女、併設された食堂で飯を食うイカついおっさん。
そして、酷く冷めた黒眼でこちらをじっと見つめる英雄。
短めの黒髪に小柄な少女、カエデさんが普段より真面目な顔で待ち構えて居た。
「聞きたいこと、と。伝えたいことが、あるんだけ、ど」
普段の小動物のような雰囲気は無く、その姿は正に英雄のようで。
凛とした佇まいに、温度を感じさせない声。
彼女の呟くような一言は、賑わうギルドを一言で凍りつかせた。
「セイ君。なんでオウカちゃんを、巻き込んだ、の?」
カエデさんの感情の昂りに合わせて、その足元から純白の魔力光が立ち上る。
臨戦態勢の英雄。その矛先は、俺だ。
世界最強の生物であるドラゴンの群れすら一人で殲滅出来る戦闘力を持った少女が、敵意を持って俺の前に居る。
ヤバい。来るならレンジュさんだと思ってたんだけど、一番ヤバい人が来てしまった。
普段は臆病とも言えるくらいに平和主義だが、テンションが高くなったカエデさんはヤバい。
下手したら、英雄たちの中で誰よりも。
「一応確認するけど、人探しの件ですよね?」
「そうだ、よ。あの人達は、善人じゃないよ、ね」
ふわりふわりと、彼女の周囲に純白の魔弾が幾つも現れる。
殺気に肌が粟立つ。腹の中に冷水を流し込まれたような感覚。
レンジュさんに似た、氷のような殺意。
うわぁ。こえぇ。ガチギレ一歩手前じゃん。
いやまあ、こうなるだろうな、とは思ってたけど。
「すみません。でも、これが最適解だったので」
実の所。純粋に人を探すというだけであれば、オウカと再開した時点で目処が着いている。
オウカは――正確には、その相棒であるリングという魔導具は、名称さえ分かればそれが世界の何処に居るのか捜索する事が出来る。
アルとサウレから名前を聞いてオウカに伝えるだけで、そいつらが何処に居るのか簡単に特定できる訳だ。
だが、それをしなかった理由がある。
「ギリギリラインなのは自覚してますけど、今回は勘弁してください。こっちも退けないんですよ」
オウカに悪人を近付けてはいけない。
それはオウカを知る人全員の共通認識だ。
あの女王陛下は純粋過ぎる。
何せ、自らを殺そうとした人物ですら見逃す程にお人好しだ。
情に厚く、善人で、そして騙されやすい。
他人を信じ過ぎる所。それがオウカの最大の弱点であり、最大の長所でもあるのだ。
だからこそ、あいつと親しい人達はオウカを守る為、悪意を遠ざけようとする。
そして、関わらせようとする者に対して容赦
しない。
例えそれが、親しい間柄だったとしても。
しかし。
「俺の仲間の為に、英雄を巻き込むのが一番確実だったんで」
この広い世界のどこに居るのかも分からない人間を探し出さなければならない。
そんなこと、普通にやっていたらどれだけの年月がかかるかわかったものでは無いし、最悪の場合は一生見つからない可能性がある。
特に、サウレを裏切った女商人。
アルの方は相手が貴族ということもあって情報は集めやすいが、サウレの方はかなり難しい。
だからこそ、確実な方法を取る必要がある。
「オウカの協力は得られなくても、貴女達は動いてくれる。俺ではなくオウカの為に」
言ってみればこれは、脅迫と同じだ。
オウカの身を危険に晒したくなければこちらの手伝いをしろ。
要はそう言っているのと同じ訳なのだから。
それでも。申し訳無いとは思うが、引く訳には行かない。
こうするのが最適解だと理解している以上、手を抜くことは有り得ない。
アル達とオウカ。どちらも身内でどちらも心の底から大事に思っている。
だからこそ。
「手を貸してください。俺一人じゃ助けることができないから」
使えるものは使う。力があるなら容赦なく巻き込む。
これが凡人である俺にとって最強の切り札だ。
俺が頭を下げると、カエデさんから殺気が消えた。
まだ不満そうな顔ではあるものの、どうにか許してくれたらしい。
「セイ君は、ずるいよ、ね」
「はい。ずるくて卑怯で臆病者です」
「……仕方ない人だ、ね。はい、これ」
ぐいっと突き出された紙束を受け取ると、そこには俺の求めた人物の情報がずらりと書かれていた。
うっわ。一日でここまで調べてくれたのか。
さすが英雄。話が早い。
「今回だけだから、ね。あと、手伝ってくれた、エイカちゃんから、伝言がある、よ」
「『くたばれ、外道が』ですかね」
「正解。この件が終わったら、怒られにきて、ね」
「全力で土下座させてもらいます……ところで、何故カエデさんが来たんですか?」
俺の予想だと、ブチ切れたレンジュさんが来ると思っていたんだけどな。
「レンジュさん、は。オウカちゃんの、着替えを見る為に、部屋に忍び込んだから、昨晩から謹慎、中」
「何してんだあの人」
ひでぇ理由だなおい。流石に予想外だわ。
「ついでに。『竜の牙』が王都に向かってる、よ。あと二週間くらいか、な」
「うわ、あまり時間が無いな……すみません、助かりました」
「うん。それじゃあ、ね」
小さな拳を突き出してくれたので、同じく拳を突き出して応える。
コツン、と打ち合わせたそれは、仲間に送る応援のサインだ。
どうやら許してくれているらしい。
その事に内心ほっとする。
カエデさんは小さく手を振ると、キィンと甲高い音と白い魔力光を残して姿を消した。
転移魔法、便利だなー。多分世界でカエデさんしか使えないだろうけど。
さて。これでようやく一歩前進した訳だけど。
急がないと間に合わないな、これ。
ーーーーーーーー
ブクマや感想など頂けると励みになります。
お気軽にポチってください。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました
miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。
※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。
「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」
魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。
しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。
一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。
「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」
嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる