ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

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58話「ひとまず用事を終わらせるとしようかね」

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 カエデさんに渡された紙束を改めて確認すると、目的の人物に関してかなり詳しく調べられていた。

 アルの探し人。グレイ・シェフィールド。
 穏やかで人柄が良く、領地の民に慕われているらしい。
 そして年内に婚約者と結婚するのだとか。
 想像していた人物像と違ったことに少し驚いたが、何にせよ実際に会って話を聞かない事には正確な事は分からない。
 彼は現在、取引先である亜人の街ビストールに居るらしい。
 通常ならまた長旅となるのだろうが、王都からなら魔導列車に潜り込めば一日で到着出来る場所だ。

 魔導列車は食堂ギルド関係者しか利用出来ない高速馬車のようなもので、通常なら二週間かかる距離を僅か一日で駆け抜ける代物だ。
 元魔王軍四天王のイグニスが製作した魔導ゴーレムが引くそれは王都と各街を結んでいて、国中にあるオウカ食堂へ食材や人員を運ぶ為だけに作られたという経緯がある。

 もちろん俺たちは使うことが出来ないのだが、何事にも裏技はあるものだ。
 準備を整えたらすぐにでも出発するとしよう。

 そしてサウレの探し人。ベルベット。
 街を渡り歩く行商人らしく、主に街ごとの特産品や珍しい食べ物を取り扱っている。
 現在は王都の北にある、氷の都フリドールに居るらしい。
 あそこはこの時期だと雪が積もって移動が出来ないし、とりあえずは後回しだ。
 ここは先にグレイさんとやらを捕まえておきたい。

 なのでまあ、今後の方針としては。
 まずは魔導列車に潜り込んでビストールに向かい、その後一旦王都に戻ってから、今度はフリドール行きの魔導列車に潜り込む流れとなる訳だ。
 うん、まあ、何て言うか。
 ユークリア王国中を巡ることになるな、これ。

「という流れだが、何か聞きたいことはあるか?」

 自宅のリビングに集まった皆を見ながら聞く。
 尚、この情報は全て冒険者ギルドが集めてくれたものだと説明してある。
 アルやジュレは納得してくれたが、熟練冒険者であるクレアからは疑わしい目で見られてしまった。
 まあ、通常ならこんな速さで情報が集まるはずもないので当たり前なんだけど、そこは適当に誤魔化しておいた。
 後でちゃんと話しておく必要があるかもなー。
 ちなみにサウレは普段通り、無表情のまま俺の膝の上に座っている。
 
「ついに! あの人をぶっ殺せるんですね!」
「まずは話を聞いてからだな。あと殺すのは却下だ」

 場合によってはぶん殴るくらいは許可するけど。

 しかし何ていうか、この件に関してはイマイチ納得が行ってないんだよなー。
 一度はこの巨乳サイコパスと婚約した訳だし、わざわざそれを破棄する理由が分からない。
 貴族的に考えると、全くメリットが無い。
 そもそも本人の意志とは関係なしに結ばれるのが貴族の婚約だし、婚約破棄できる権力があるなら最初から断ればいい。
 話の筋が通らないという事は、何かしら裏の事情がある訳だ。

 しかしまあ、詳しい話となるともう当人に聞くしかない。
 その為にもまずは身柄を確保しないとな。

「んじゃ方針は決まったな。明日は早朝から動くから、今日は好きにしとけ」
「……私はライと一緒に居る」
「はいよ。お前らはどうする?」

 しがみついてくるサウレを適当に撫でながら聞くと、三人は顔を見合わせた。

「ええと、せっかくだから王都観光したいです!」
「そうですね。久しぶりに王都を歩いて回るのも良いかも知れません」
「じゃあボクは案内役をしようかな!」

 なるほど、観光か。そう言えばアルは王都に来るのは初めてだったな。
 ちょっと考えを巡らせてみたけど、ジュレはともかくクレアが一緒なら迷うことも無いだろう。
 歯止め役がいるから特に問題も無いだろうし。

「頼むからトラブルは起こすなよ?」
「ボクが着いてるから大丈夫!」
「まあ信用はして……おい待て」
「なにかな!?」
「お前、いつの間に着替えた?」

 数秒程目を離した隙に、クレアの服装が普段着からギルドの受付嬢のようなフォーマルな服に変わっていた。
 いつもながら女性用の服だが、細身のスーツ姿がよく似合っている。
 普段の可愛らしい様子とは違い、少し落ち着いた様子で……いや、そうじゃなくてだな。

「早着替えはボクの特技だからね!」
「いや、早すぎるだろ」

 特殊な魔法でも使ってるんだろうか。
 めちゃくちゃ無駄な魔法の使い方だな、おい。

「……何でもいいけど、とにかく任せたからな」
「はいはいさー! 王都の名所巡りしてくるね!」
「おう。楽しんで来い」

 クレアは何気にうちのパーティーで一番の常識人だし、任せても問題はないだろう。
 荒事があってもジュレが居れば大丈夫だろうし。

「買い出しは俺らがやっておくけど、一応夕飯までには帰って来いよ」
「わっかりましたー!」

 ニコニコと元気に手を上げるアルに若干の不安を感じるけど、俺は俺でやることがあるしなあ。
 マジで任せたからぞ、クレア。
 人類の脅威(弱)アルド天然な変態ジュレを止められるのはお前しかいないからな。
 
 うぅむ。不安の種は尽きないが、考えても仕方ない。
 ひとまず用事を終わらせるとしようかね。
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