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62話:「早く答えを出さなきゃならないなとは思う」
しおりを挟むリビングのソファに二人並んで寝そべるのは無理がある。
なので、サウレの部屋のベッドで寝ることになった。
サウレの部屋はシンプルで、備え付けの家具以外は何も置かれていない。
こいつらしいな、と思いながらも、何となく緊張する。
さて、この緊張は何から来るものなんだろうか。
サウレを見ると、こちらはかなり緊張しているようで、顔がほんの少しだけ強ばっていた。
ぶかぶかのシャツの袖を掴む手が、力を入れすぎて白くなっている。
不思議なもので、自分より緊張している奴がいる思うと、自然と緊張が解けた。
ぽふりと頭を撫でてやると、こちらを伺うような目でじっと見つめ返して来る。
「よし。寝るか」
「……うん」
二人揃って壁際のベッドに向かう。
俺が奥でサウレが手前。
オウカ食堂のチビ達のおかげでフカフカな布団を被ると、サウレはモゾモゾと身動ぎした。
「……あの。腕枕、してもいい?」
「あー……まあ、良いけど」
左腕を横に伸ばすと、こてりと肘辺りに頭を置く。
いつもの無表情ながらもどこか幸せそうに蕩けていて、何だか猫のようで癒されながらも。
ふと、気付いた。
これ程近くに居るのに、拒否反応が出ていない。
改めて左腕を見るが、やはり鳥肌は立っていない。
心の底から湧き上がるような恐怖もないし、触れられる事に対する嫌悪感も無い。
ただ温かく、心地よい。
そんな自分の考えに戸惑うが、その反面サウレだからなと納得もする。
普段からスキンシップが多いし、多分慣れてきたのだろう。
ふむ。この調子なら近い内に完治するかもしれないな。
……それまでに、方針を決めておく必要があるか。
「……ライ?」
「ああすまん、考え事をしてた。どうした?」
「……私を受け入れてくれて、ありがとう」
俺の胸元をきゅっとつまみながら。
潤んだ紅い瞳。ほんのり上気した頬。
それに、本当に幸せそうな、花が咲くような微笑み。
思いがけない不意打ちに、ドキリと心臓が跳ねた。
おい。おいおい。待て、俺。
サウレだぞ? 幼女だぞ? いや、実年齢はともかく、中身は俺より遥かに歳上ではあるけど。
……けどって何だよ、俺。
まずい、かなり動揺してる。ひとまず落ち着かないと。
「……ライ。夜伽はダメって言ってたけど」
しかし、サウレの猛攻は止まらない。
俺の頬に優しく手を添えて、囁くようにポツリと言葉を放つ。
「……その。キスくらいなら、良い?」
反射的に、受け入れかけた。
それ程までにサウレは魅力的で、胸の内に愛おしさが溢れて来ている。
幼いながらに女性らしさを感じる体を甘えるように擦り寄せながら、微笑みを浮かべたままじっと俺を見つめてくる。
何故だか分からないけど、サウレから目が離せない。
「良い訳が、無い、だろ」
心臓の鼓動が高鳴る中、何とか返事を絞り出す。
だけど、なぜ断るんだろうか。
そんな事も分からない程に、俺はサウレの美しさに魅了されて……
……待て。魅了だと?
「おい。お前、何か魔法使ってるか?」
「……なんの事か分からない」
この野郎。目ぇ逸らしやがった。
「正直に言わないと二度と撫でてやらん」
「……ごめんなさい、『魅了』を使った」
やっぱりか。
サキュバスが得意とする『魅了』の魔法。
その名の通り対象を魅了する――相手にとって自分が魅力的に見えるようにする魔法だ。
なるほど。道理で普段にもまして魅力的に見えた訳だ。
「……ライ。待って。言い訳を聞いて欲しい」
「聞くだけ聞いてやる」
「……私という前例を作れば皆もヤりやすいかと」
「有罪だ」
ペチンと額を叩くと、中々に良い音がした。
両手で額を抑えるサウレに苦笑しながら天井を見上げる。
「あー。もう少し待ってくれ。心の整理が着いたら、ちゃんと向かい合うから」
「……分かった。待ってる。でも、私はアルの次でも良い」
「アルなぁ……うーん。アレはアレでどうしたもんかね」
アル。アルテミス・オリオーン。
愛らしい顔立ちで巨乳なサイコパス。
駆け出しの冒険者で、出会った時から既に死にかけていて。
最近では頼れる前衛になってきていて。
そして、俺を好きだと公衆の面前で叫んだ少女。
ここの所、アルは吹っ切れたとか言って直球的なアプローチを仕掛けてくる。
何というか豪速球すぎて、俺も受け流せなくなって来ている訳で。
いや、俺もアルの事は好きだ。だが。
「俺は……どう思ってんだろうな?」
自分の心が分からない。
好きである事に間違いはない。
一緒に居て楽しいし、安らぎはしないが居心地は良い。
だがそれが恋愛感情なのかと聞かれると、正直に言って分からない。
特別な感情はある。
それはアルに対してだけじゃなくて、サウレもジュレもクレアも、みんな違う形で特別だ。
それに間違いはない。んだけどなー。
「だあぁ……モンスター『軍団』の行動予測の方がよっぽど楽だわ」
ここ最近の俺の悩みは、これだ。
自分が彼女達に対してどのような感情を抱いているのか。
本来なら話はもう少し簡単なのだろう。
だが、俺はまだルミィのトラウマが抜けていない。
この状態で誰かを好きになれるかと聞かれると。
正直なところ、分からないとしか答えようが無い訳で。
「うーん。我ながらクズだなあ」
苦笑いを深めて天井を見上げる。
本気の感情に向き合うことが出来ない。
それは人としてどうなのかと思うが、どうしても、怖いのだ。
信じていた者に裏切られること。
それがどうしようも無く怖い。
……そういう意味では、サウレはギリギリラインだったな。
「……うにゃん」
「いきなり可愛いアピールしてんじゃねぇよ。早く寝ろ」
「……おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
ここぞとばかりに俺に抱き着き……と言うか絡んで来たが、そこはスルーする事にした。
最近はこの程度なら平気になって来たし、ある程度我慢は出来るし。
ただ、まあ、うん。
焦っても仕方が無いとは分かって居るものの。
早く答えを出さなきゃならないなとは思う。
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