76 / 101
76話:「あっちはあっちでケリつけないとな」
しおりを挟むドアをノックされる音でようやく正気に返ると、何やら気恥しさを覚えながら部屋を出た。
そこでは、クレアがニヤニヤしていて、サウレとジュレは聖母のように優しく微笑んでいた。
「あらあら。仲が進展したみたいですね」
「やっぱり最初はアルだったね!」
「……おめでとう。二人が幸せなのは私も嬉しい」
うわ、アルの顔が夕焼けより赤くなってる。
て言うか何で知ってるんだこいつら。
「えぇと、その……ありがとうございます」
うつむき気味に小声で言うアルに対して、更に追撃が入った。
「それで、どこまでいきましたの? やることはやりましたか?」
「それはさすがに時間が足りないかな! ボクは触り合いくらいだと予想してみる!」
「うぁ……そのぅ、キス、しました」
「……それは大きな前進。偉大なる一歩」
偉大て。そんな大袈裟な話……なのか。
俺のヘタレ具合を考えると、確かにそうだな。
我ながら恥ずかしい話だが。
「あー……とりあえず、飯でも食いに行くか。今日はただ飯だからな」
話題を逸らすためにこの後の予定を口にすると、みんな揃って温かい目で見てきた。
お前ら、その目をやめろ。落ち着かないだろうが。
「ビストールの極楽亭は世界中でも有名な名店ですものね」
「ボクは行ったことないけど、そんなに凄いの?」
「あぁ、『オウカ特選! 美味しいお店たち!』にも載ってるからな」
「え、なにそれ」
「知らないのか? 現女王陛下が世界中を巡って調べ上げた名店が載ってる本だ」
「……女王陛下が世界中を食べ歩いたの?」
歩くというか、飛んで回ったって言い方が正しいような気はするが。
あいつはユークリア王国の端から端まで一日で行けるからな。
冒険者時代に行った店を含めると数百件は軽く超えているだろうし。
その中のから抜粋された二十店が紹介されているのがその本で、中でも極楽亭は最上位に分類されている。
ちなみにこの本の効果で客足が三倍になったとか。あいつの影響力は半端ないな。
「それは楽しみですね! たくさん食べて大きくなります!」
「まだ伸びるのかお前」
「育ち盛りですからね!」
言われてみればそんな気もするが……そうか、まだ大きくなるのか。
どこがとは言わないが凄いことになりそうだな。
「……安心して。私はこれ以上成長しない。その日の気分で選べるから」
「何をだよ。あ、いや、答えなくて良いわ」
「夜伽の相手を毎日選び放題」
「わざわざ答えるな」
想像したら鳥肌が……あれ?
「……ライ? どうしたの?」
「あ、いや。何でもない」
こういう話をした時、今まではルミィの病んだ笑顔が思い浮かんでいたんだけど。
今は、アルの輝くような笑顔が思い出される。
幸せそうに笑うアルの姿。それは安心するような、どこか落ち着かないような表情で。
しかし悪い気はしない。ずっと見ていたくなるような、そんな笑顔だ。
これはもしや、女性恐怖症が完治した、のか?
うーん。まだ分からないけど……でもまぁ、しばらくは黙っていよう。
今より積極的になられても困るしな。
さすがにまだ心の準備ができていないし、申し訳ないがもうしばらく待ってもらおう。
……今更だけど、我ながら思春期の乙女みたいなことを思ってるな。
まぁ経験もないんだから許してほしい。
旅が終わる頃までには覚悟を決めるつもりだし。
「んじゃ行くぞー。食べたいもの考えておけよ」
「デザートはあるのかな!」
「オウカ由来のアイスクリームが定番だな」
「それは期待が高まるね! 早く行こう!」
俺の手を引いて元気に笑うクレア。
「クレアさん、急がなくても逃げませんよ。私は久しぶりに魚料理でも食べたいところです」
「あぁ、旅先だとなかなか食べられないからなぁ」
「新鮮な魚があると嬉しいのですけれど……久しぶりなのでメニューを覚えていませんね」
「着いてからのお楽しみだな」
相変わらず穏やかに笑うジュレ。
「……私はライと同じものが良い」
「そうか。俺は雷鳥の蒸し焼きと雪牛のステーキとで悩んでる」
「……両方頼んで二人で分けたら良い」
「なるほど。じゃあそうするか」
無表情ながら嬉しそうに傍らにいてくれるサウレ。
そして。
「たくさん食べたらその分成長するはずです!」
「明日も早朝から移動だから食いすぎるなよ?」
「大丈夫です! ちゃんとぶっ殺せるように加減します!」
「やっぱり方向性はそっちなんだな」
キラキラした目で物騒なことを宣言するアル。
そんな少し変わっている仲間たちに囲まれて、何気ない会話で楽しめる。
きっと、こういう瞬間を幸せというのだろう。
初めて手に入れた安らぎ。
誰と一緒にいても得ることのできなかった場所。
そんな夢物語のような光景が、今目の前にある。
今ならどんな敵とだって戦える気がする。
どんな困難でも立ち向かえる。
相変わらず戦いは嫌いだ。痛いし怖いし、そして何よりも。
昔の俺に戻ってしまうような、そんな気がしていたから。
それでも今の俺なら大丈夫だ。
みんなが俺を守ってくれるし、俺もみんなを守ると決めた。
この大事な場所を守れるように、頑張って日々を生きていこう。
だがまぁ、問題としては。
ルミィ達、だよなぁ。
あっちはあっちでケリつけないとな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました
miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。
※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。
「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」
魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。
しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。
一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。
「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」
嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる