ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

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77話「それが俺の役割なのだから」

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 極楽亭に着くと、入り口でラインハルトが待っていてくれた。
 こいつが高級な外観の店の前に座ってると招き猫にも見えて、つい笑みを浮かべてしまった。
 そんな俺を見てヘクターが怪訝そうにこちらを見ているのが少し面白い。
 どうもまだ信用してもらっていないようだ。まぁ、当たり前だとは思うが。

「何をニヤニヤしている。気味の悪い奴だな」
「おいおい、ご挨拶だな。他に言うことは無いのかよ」

 互いに笑いあい、飛び乗ってきたラインハルトを肩に乗せる。
 相変わらず可愛い見た目と重低音ボイスのギャップがすげぇなコイツ。

「貴様に言う事など何もないな。強いて言うならば……貴様、何かあったか?」
「は? 何かってなんだよ」
「いや、上手く言えぬが。雰囲気が変わった気がするのでな」
「そうか? ならそうなんだろうな」

 もちろん心当たりはある。だが、わざわざ話すようなことでもないだろ。
 俺達だけが知っていればそれで良い話だ。

「ふん……良い仲間をもったものだな」
「あぁ、最高の仲間たちだよ。お前はお前で早くつがいを見つけろよ」
「放っておけ」

 ペシリと肉球で顔をパンチされ、してやったりと笑う。
 コイツに浮いた話の一つでもあろうものなら知り合い全員でからかい……もとい祝福してやるのにな。
 そもそもの話、使い魔に恋愛感情があるのかは分からないが、知り合いが幸せになるのは良いことだ。

「さて、さっそくただ飯にありつこうか。案内してくれるんだろ?」
「無論だ。では行くか……ヘクターよ」
「あ、はい!」
「そう気を張るな。この者の身柄は我が保証する」
「ですが……」
「なに、コヤツらが悪さを働こうものならオウカ殿が制裁を下しに来るだろう」
「怖いこと言うなよお前」

 ガチで切れてるオウカなんて二度と見たくねぇぞ、おい。

「なんだ、何か後ろめたいことでもあるのか?」
「……微妙なところだな」

 多分オウカは今の俺の目標を知ったら止めるだろうし。
 だが、止まる訳にもいかない。
 オウカを説得できるとは思えないし、そうなったら真正面からやりあう必要が出てくる訳だ。
 まぁ、無理だな。アレに勝てる人間なんている訳ない。
 何せ世界最強二人を相手にして勝利を収めるような奴だし。

「なるほど。だが無理はするなよ?」
「はは。それも確約出来ないのは分かってんだろ?」
「釘を刺さない訳にもいかぬからな」

 さすがラインハルト。よく分かってやがる。

「で、今日のオススメは?」
「アスーラ直送の白マグロらしいな。我はそれを注文する」
「そいつは良い。ジュレ、今日は美味い魚料理が食えるみたいだぞ」
 
 後ろを振り返って笑いかける俺に対して、しかしサウレ以外の全員が何とも言えない顔をしていた。

「ライさん! その前に一つ聞きたいです!」
「その方たちを紹介してくださいませんか?」

 あ、やべ。すっかり忘れてたわ。

 という訳で互いに紹介を済ませ、店内へ。
 そこは正に異空間で、他に見ないような光景が広がっていた。
 円状の大きなホールは軽く百人は入れる広さを持っていて、中央にはガラス製の大きな柱が立っている。
 その中で優雅に泳ぐ煌びやかな魚と魚の亜人マーメイドたち。
 柱の前では歌がうまいことで有名なハーピーが、吟遊詩人の竪琴に合わせて美声を披露している。
 ホールを駆け回るのは様々な人種の給仕たち。
 人間、魔族、亜人。その全てが忙しなく、けれど楽し気に働いている。
 数年前まで戦争していた魔族を雇っているのは、多種多様な種族が暮らしているビストールならではの特徴かもしれない。

 そして何より、店内に入った瞬間から空腹を刺激する料理の香り。
 世界中の料理を取り扱うと豪語しているだけあって、漂ってくる香りも多種に渡っている。
 焼いた肉や魚の香りが強いが、その中に仄かに混じる果物の甘い香りがまた食欲をそそる。
 更には、スパイスだ。元々スパイスはビストールの特産品なのだが、最近は他の街との流通が盛んになって新たなスパイスが流入していている。
 それらが合わさって、香りだけでも一つの料理のようだ
 やべぇ、めっちゃ腹が減った。

「さて、オウカ殿に予約を取ってもらっている事だし、さっそく向かうとしようか」
「そうだな。さっさと行こう……おい、アル?」

 ぽかんと口を開けて固まっているアルの目の前で手を振ると、すぐに正気に戻って顔を赤くした。

「ふぁっ⁉ あ、はい! ごめんなさい、見とれてました!」
「あぁ、凄いよな。滅多に来られないからしっかり楽しむと良い」

 笑いながら、何となく頭を撫でてやる。
 嬉しそうにはにかむ彼女に癒されていると、何故かみんなしてわらわらと集まってきた。
 左側から左手をサウレが握り、その腕にジュレが絡みつき、正面からはクレアが抱きついて来ている。
 全員揃ってじっと俺の顔を見詰めている。
 いや、何だ? 動きにくいんだが。

「どうした? 何かあったか?」

 サウレはともかく、ジュレとクレアが人前でこういう行動を取るのは珍しい。
 何か異変でも察知したんだろうか。俺は何も感じなかったんだけど。

「……自覚無し」
「みたいですね。これは負けていられません」
「そうだね! 頑張らないと!」
「いや、なんなんだ?」

 口々に言うと、みんな揃って何かに納得したようですっと離れていった。

「貴様、本当に何があった? 貴様が笑うなど珍しいな」
「そうか? そうでもないと思うんだが」
「我は初めて見たぞ」

 呆気に取られた様子で語るラインハルトに苦笑を返す。
 あー……なるほど。意識していなかったが、思い返すと確かにそうかもしれない。
 特にアルに対しては感情が表に出すぎている。
 いかん、気が緩みすぎだ。ここで気付けたのは幸いだったな。

「すまんな、礼を言う」
「ふむ、訳は分からんが。礼は受け取っておこう」
「さぁ飯を食おうか。いい加減腹が減ってヤバい」
「そうだな。行こうか」

 てし、とラインハルトに頬を叩かれ、そのまま奥へと進んで行った。

 さて、改めて自分にくさびを打とう。
 敵を、味方を、世界を。
 全てをあざむき、みんなを守る為に。

 それが俺の役割なのだから。
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