83 / 101
83話「作り慣れた微笑みを浮かべていた」
しおりを挟む「アル、デカブツを叩くぞ。他の奴らは傭兵を頼む」
「わっかりましたァ! ぶち殺してやります!」
「だからお前は援護を待て……って、聞こえてないか」
飛び出したアルの周りに爆裂玉を放って周りを牽制しつつ、ミスリルゴーレムに粘着玉を撃ち込む。
少しは牽制になると良いが、と思いながら周りを見渡すと、サウレは既に敵集団に紛れ込んでいた。
短剣を振るい鮮やかに舞う姿はさながら猫科の猛獣のようで、軽やかに立ち回っては敵を翻弄している。
クレアは鋭く繰り出される攻撃を全て盾で逸らし、その隙を逃すこと無くジュレがダメージを与えていく。
強力な一撃は無いものの、安定感のある戦い方だ。
数箇所に罠をばら撒き、更に敵の動きを制限。改めてミスリルゴーレムに向き直り鋼鉄玉を仕掛けていく。
「どっせぇいっ!」
アルの空間ごと断ち斬るかのような一撃。
しかし、さすがに世界一硬いミスリルで作られたゴーレムを倒すことは出来ず、両手剣が腕に少し食い込むだけに終わった。
反撃しようとするゴーレムに爆裂玉を撃ち込んで阻害し、更に足元に粘着玉を放り込んで動きを止める。
アルは攻撃力は高いけど防御面が脆いところがある。
そこをカバーしてやれば簡単にはやられないだろう。
「……貴女は私が倒す」
「あら、いつかの馬鹿なお嬢ちゃんじゃない。生きてたのね」
サウレの呟きを嘲る様に笑うベルベット。
疾風の如き短剣の連撃を上手く躱しながら距離を取ろうとしている所を見るに、あいつは魔法が主力のようだ。
それならばサウレの方に分がある。詠唱させる暇を与えなければ良いだけの話だ。
さすがに全体を予測するのは困難だが、俺だけ弱音を吐く訳にもいかない。
全員のフォローを行いつつ、こちらに来た傭兵達は目潰し玉で返り討ちにしてやった。
倒す必要はない。時間さえ稼げばジュレが止めを刺してくれる。
そう考えながら七個目の粘着玉をミスリルゴーレムに放つ。
既に足元は床に固定されており、アルの攻撃をひたすら受け続けている状態だ。
これならば、と思った時。
「ちっ……面倒だこと。ゴーレム、薙ぎ払いなさい!」
ベルベットの命令を受け、ミスリルゴーレムの動きが変わる。
奴は背中を見せるように身をひねると、暴風を巻き起こしながら腕を振り回した。
傭兵諸共クレアとジュレが吹き飛ばされ、壁に激突して動きを止める。
「ジュレ! クレア!」
見たところダメージは少ないが、気絶しているようだ。
急いで二人の元に向かいながら牽制を続ける。だが。
その隙を敵は見逃さなかった。
「――魔導式展開。領域確保。対象指定。地に満ちる力よ、その姿を変え敵を討て!」
足元から生えた土の壁にサウレが囲まれ、身動き出来なくなった所へミスリルゴーレムの拳が迫る。
ギリギリのところで鋼鉄玉を発動して動きを阻害するが完全には防ぎきれずに、その拳は土壁ごとサウレを殴り飛ばした。
次いで突き出された逆側の拳がアルを真正面から捉え、両手剣のガードなんてお構い無しに殴り飛ばす。
金属同士が衝突した音。ガードしたとはいえ巨大なゴーレムの攻撃を防ぎ切る事は出来ず、壁まで飛ばされてしまった。
くそ、一瞬で戦況を覆された。
これは少し不味いかもしれない。
「あははは! 口ほどにも無い奴らね!」
ベルベットの高笑いを聞きながら打開策を考える。
四人とも大きなダメージを負っていてすぐには復帰できそうに無い。
ゴーレムの攻撃で敵の数は減っているけど、魔族のベルベットとミスリルゴーレムが残っている。
いくら何でも俺一人で捌ける数じゃない。
仲間の復帰までの時間を稼ぐ。今の俺に出来るのはそれしかない。
「この程度まで私な挑もうなんて無謀だったわね。すぐに全員殺してやるわ!」
ベルベットが嗤う。ニヤニヤと、悪意を込めて。
「貴方たちのような弱者は死んで当然。でも命乞いをするならそこの男だけは見逃してあげるわよ?」
その言葉に、絶望した。それは明らかな嘘だ。
こいつは俺たちを逃がすつもりは無い。
全員この場で殺すつもりだ。
再度確認してみたが、やはり皆が起きる気配は無い。
あの巨大なミスリルゴーレムの一撃を受けたのだ、そう簡単には復帰出来そうにもない。
かと言って俺一人で守りきるには敵が多すぎる。
絶体絶命。
「……分かった。認めよう」
スリングショットをアイテムボックスに収納する。
今の俺には皆を守る力は、無い。
だからこそ、諦めるしかない。
分かっていた。けれども、認めたくなくて、悪足掻きをしていた。
それももう、辞めてしまおう。
「……魔導式展開。領域確保。対象指定」
今の俺には皆を守ることが出来ない。それならば。
人間で居ることは、諦めよう。
「我は闇。我は毒。我は一振りの刃なり」
言葉を連ねる。体内の魔力が荒れ狂う。
俺に使える魔法は身体強化だけだ。
そんな才能が無い俺に使える、唯一の切り札。
それは、俺が夢見ていた「人間になる」事を捨てる魔法。
「月は消え。夜が深まり。我は世界と同化する」
詠唱完了。後は魔法名を告げるだけ。
マジックキャンセラーが使用されている部屋での詠唱。
そんな意図の読めないであろう行為に訝しげな表情を浮かべるベルベットを気にも留めず。
意図的に作り上げた笑みを張り付かせて、魔法のトリガーワードを口にする。
「封印術式解放……『黒の刻印』」
魔法を発動した瞬間、俺の全身から黒い魔力光が立ち上った。
おぞましいそれは、しかし見慣れてしまった光景で。
所詮、俺はただの人形でしか無いのだと、突き付けられたように思えた。
しかし、それでも。
仲間を失うよりは余程良い。
例えその後に皆が離れてしまったとしても、俺は。
仲間を、守りたいから。
「なんだその魔法は!? 何故マジックキャンセラーが効かない!?」
予想外の事態に荒ぶるベルベット。
そんな彼女にニッコリと、作り物の笑顔を向ける。
「なに、ただの身体強化だ。そう怯えることはない」
才能の無い俺に使える魔法は一つだけしかない。
身体強化。小さな子どもにも使える初級魔法だ。
これはその応用。弱くて惨めな人形が編み出した、世界に抗うための術式。
俺にしか使えない訳では無い。
ただ、俺以外ではなんの意味もない魔法。
魔力量で収納量が変わるアイテムボックス。
それを限度無く使用出来るほどに魔力量が多い俺でないと、意味は無い。
「馬鹿な! 何故、何故お前が……!」
胸に大きな穴が空いたような感覚。
あれだけ忌み嫌っていた力を使っている。
人間になりたいと切望した俺が、自分から人間である事を辞めてしまった。
しかし、それでも。
仲間を失うより怖いことなんて無い。
だから。
「教えてやるよ。これが『死神』の正体だ」
ゆらりと一歩、前に出る。それと同時に。
身体から溢れ出す夜色がその勢いを増す。
倉庫内を闇が満たしていく中、ベルベットが叫ぶ。
「なぜお前が魔王様と同じ黒色の魔力を持っているんだ⁉」
闇色の魔力光を纏い、歩く。
いつの間にか溢れた涙が頬を伝う。
しかし、俺はそれでも。
作り慣れた微笑みを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました
miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。
※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。
「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」
魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。
しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。
一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。
「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」
嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる