ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

文字の大きさ
85 / 101

85話「からかわれそうで嫌なんだがなぁ」

しおりを挟む

 宿に戻ると真っ先にベッドに向かい、そのままぶっ倒れた。
 疲れた……魔力なんてほとんど残って無い。
 魔力欠乏でフラフラして力が入らないし、もう一歩も歩ける気がしない。

「ライさん、大丈夫ですか?」
「あー……魔力が足りないだけだ。休めば治るよ」
「そうですか。じゃあ今が殺り時ですね!」
「おいやめろ、冗談に聞こえない」

 くすくすと笑うアルに苦笑し、ゴロリと仰向けになる。
 すると、ぽすんと隣に誰か座ってきた。

「あら。魔力が足りないのでしたら」

 ジュレか、と思うや否や。
 額を手で抑えられ、そして。

「良い口実ができました」
「――ッ⁉」

 ジュレの唇で口を塞がれた。
 優しく柔らかい感触。甘い香りに魔力欠乏とは違う意味でクラクラする。
 緩やかに俺の中に流れ込んでくるジュレの魔力を感じ、彼女の意図を理解した。
 粘膜接触による魔力供給だ。
 ゆっくりと体が満たされていき、最後に俺の唇をひと舐めしてジュレが離れる。

「はぁ……動けないライさんに一方的にキス出来るなんて、最高です」

 とろりと惚けた顔。頬は赤く染まっていて、とても色っぽい。
 じゃなくて。

「おまっ……いきなり何するんだ!」
「あら、嫌でしたか?」
「そういう話じゃなくてだな……」
「この後の予定もありますし、早く元気になってもらわないと困ります」

 ニッコリと笑うジュレに、気恥しさから顔を逸らした。
 こいつ、ドSスイッチ入ったらマジ厄介だな。

「それとも、もっと濃厚なキスをしましょうか?」
「……いや、遠慮しておく」

 どことは言えないが、一部が元気になりすぎても困るし。
 別の意味で立てなくなるからな。

「あぁ、弱っているライさんを見ていると……つい犯してしまいたくなります」

 恍惚な表情を浮かべて物騒な事を言うジュレに苦笑しながら起き上がる。
 確かに魔力がだいぶ戻っている。これならいつも通りに動くことができそうだ。

「さぁライさん。早くデートに行きましょう」
「はいよ……悪いが留守番頼めるか?」

 アル達に向かって言うと、三人揃って羨ましそうな顔をしていた。
 分かりやすいなこいつら。

「……王都に戻ったら二人きりでのデートを所望する」
「ボクも! 美味しいお店知ってるからね!」

 意気込む二人、そして更には。

「ライさん! 帰ってきたらキスしてくださいね!」
「あー……分かった」

 顔を真っ赤に染めてアルが言う。
 その言葉に返答したものの、気恥しさからつい目を逸らしてしまった。
 あまり人前でそういう事を言うのはやめて欲しい。

「それじゃあ行きましょう。時間が勿体ないです」
「あぁ、じゃあ行ってくるわ」

 全員とハイタッチすると、俺とジュレは宿の部屋を出る。
 その間際で、アルが呟くように言った。

「待っていますからね、ライさん」
「……あぁ、ありがとな」

 帰る場所があると言うのは、こんなにも嬉しい事だったのかと。
 そんな実感を持ちながら、苦笑ではない笑みを零した。



 今回の件に関して、アル以外の三人にも説明はしておいた。
 若干ビクビクしながら伝え終わると、ありがたい事にみんな俺を受け入れてくれた。
 その事に礼を言うと、サウレにしがみつかれ、ジュレに背後から抱きつかれ、クレアにデコピンされた。
 その程度で離れるような小さな想いでは無いと口々に告げられ、やはり敵わないなと苦笑してしまったものだ。
 むしろビビってた俺がバカみたいだ。

 ……実際、馬鹿なんだろうなぁ。
 彼女達の想いは俺が思っていた以上に強かったみたいだし。

 まぁ、それはそれとして。

「ジュレ、歩きにくい」
「あら。デートなのですから良いでしょう?」

 少し弱まった吹雪の街は人通りが多くて賑やか、なのだが。
 腕を絡められ、というか胸に腕を埋められながら歩くのは少し……いや、かなり抵抗がある。
 嬉しい事は嬉しい。けどどうしても意識してしまうし、周りの視線も気になるところだ。
 なんとか手を繋ぐくらいで勘弁してもらいたいところなんだけど……無理だろうなぁ。
 こいつドSスイッチ入ってるし
 ジュレは超が付くほどの美人だし、注目を集めるからかなり恥ずかしいんだけど。
 そこは諦めるしかないんだろうか。

 そんなことを思いながら街を歩いていると、どうやら見覚えのある店へと向かっていることに気が付いた。
 というか、店の壁にデカデカと知り合いの似顔絵が描かれていた。
 
 オウカ食堂・フリドール支店。
 既に多くの客で賑わっている、フリドールでも有名な店だ。
 飯が美味いのは勿論のこと、この店には他と違う大きな点がある。

「あぁ、貴殿は唐揚げ弁当だったな。しばし待たれよ」

 低めの女性の声。凛とした印象を受ける美声だが、生憎とその姿は見えない。
 その声を聞いてジュレがソワソワしだしたのを見て、なるほどと苦笑した。
 どうやらジュレも彼女のファンらしい。

 列に並んでいるとやがて俺たちの順番になった。
 王都と同じカウンターの上に居るのは、一匹の白猫。
 雪のように美しく、そして愛らしい仕草でこちらを見上げてくる。

「セイか。久しぶりだな」
「ネーヴェさん、ご無沙汰してます」

 オウカ食堂フリドール支店の店長にして、オウカの使い魔。
 黒猫のラインハルトよりも柔らかな印象を受ける彼女は、俺の昔馴染みでもあった。
 オウカの関係者の中でも特に落ち着いた雰囲気で、経営能力に関しては随一の実力をもっている優秀な人、もとい猫だ。
 ちなみに撫でるのはタブーらしい。前に提案した時に猫パンチを食らったし。

「はあぁ……ネーヴェ様、今日も素敵ですねぇ……」

 そんな言葉に隣を見ると、ジュレが夢見る乙女のような眼差しでネーヴェさんを見ていた。

「おや、『氷の歌姫アブソリュート』じゃないか。今はセイと共に居るのか?」
「はい、彼のハーレムの一員なんです」

 おい待て。
 いや、間違いじゃないかも知れないけど。
 改めて言われると何か恥ずかしい。

「ほう、やるじゃないか。詳しく聞きたいところだが……この後時間はあるか?」
「いくらでもあります」
「ならばしばらく待っていてくれ。すぐに業務を引き継いでくる」

 そう言い残して店内に入って行くネーヴェさんを見送り、俺たちは吹雪を避けるために店の軒下で時間を潰す事にした。
 こうやって再会出来たことは嬉しいんだけど……改まって話となると、なんて言うか。

 からかわれそうで嫌なんだがなぁ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...