ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

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94話「うん、ちょっと酔ってたかもしれないな」

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 フリドールの街中を巻き込んだ大宴会は夜中まで続いていた。
 皆が飲み、食べ、騒ぎ、そして暴れる中で。
 俺は一人、離れた場所で麦酒を飲んでいた。

 色々と考えたいことがあった。
 ルミィの事、カイトたちの事、オウカたちの事、そしてこれからの事。

 ルミィに関しては既に仲間全員に話が広まっており、意外なことにみんなに受け入れられることになった。
 俺への愛情は本物だから、という理由らしい。
 尚、俺の意向は全く聞かれていない。
 いやまぁ、別に構わないんだけど。拒否するつもりは無いし。
 ただ慣れるまでは怯えながら日々を送ることになるだろうなぁ。

 カイトとミルハは一旦王都に戻り、これからの方針を考えると言っていた。
 パーティの回復職であるルミィが抜けるとなると代わりの冒険者を探す必要がある。
 迷惑をかけてすまん、と謝ると、面倒を押し付けてすまないと返された。
 面倒ではない……いや、多少面倒ではあるけれど、嫌ではない。
 なのでこれに関しては、何か手伝えることがあれば伝えてくれとだけ言っておいた。

 オウカたち、というかカエデさんとエイカさんに関して、それはもう凄く怒られた。
 元々カエデさんはオウカに危険が及ぶことを良しとしない人だし、エイカさんは俺を嫌っているし。
 正座したまま二時間にわたるお説教をくらい、最終的にはカエデさんによる魔力弾の一斉射撃だけで許してくれた。
 視界を埋め尽くす魔力弾を全部避け切ったところにエイカさんのライフル銃での殴打を叩き込まれて撃沈したのだが、それはおいといて。
 今後もできるだけオウカには頼らないようにしていく必要があると再認識した次第だ。
 今回のようなケースでは仕方がないが、危ないことには近寄らないようにしよう。

 そして、これからの事。
 ひとまず王都へと戻った後、やはり故郷へ顔を出すつもりだ。
 俺の育ての親であるシスター・ナリアにみんなを紹介して、近況を報告して。
 それから。どんなところに移り住むか、みんなで話して決めようと思っている。
 幸いか否か、これまでの旅で大量の魔物を討伐してきたおかげで資金は溜まっているし、ある程度どんな場所でも大丈夫だろう。
 慣れるまでが大変だろうけど、たぶん何とかなるんじゃないだろうか。
 俺達ならきっと。今までのように。

 まぁ、新しい不安要素が増えはしたけどな。

 ぐびり、と麦酒を流し込む。
 微かな炭酸が喉を通り抜け、次いで大麦の芳醇な香りが口の中に広がった。
 一人で酒を飲むのは久しぶりな気がする。
 最近はいつもそばに誰かが居たからな。
 たまにはこうして昔みたいに、一人で飲むのも悪くない。

 夜風に吹かれ、その寒さに外套を寄せ合わせる。
 手元を照らすのは月明かりだけ。
 ぼんやりと照らし出されたジョッキを何気なく眺めながら、同じようにぼんやりと映し出された人影に語り掛ける。

「どうした?」
「ライこそどうしたのさ。一人でこんな所に居るなんて珍しいじゃん」

 ぴょこんと突き出たウサギ耳を揺らし、クレアがすとんと俺の横に腰を降ろした。
 それを感じながら再び麦酒のジョッキを傾け。

「ねぇ。ライってボクの事好き?」
「ごはっ!?」

 盛大にむせた。

「けほっ……何だいきなり」
「んーと。そういや言われたこと無かったなーって。あ、ちなみにボクはライを愛してます!」

 元気よく右手を上げるクレアに苦笑しつつ、問い掛けにはちゃんと答える事にした。
 いまさらな話だが、言葉にして伝えていないというのはダメだろう。

「あぁ。俺も、お前が好きだよ」

 ぽふりと頭に手を置くと、クレアは照れ笑いしながらその手をそっと握りしめてきた。

「えへへ……うん。やっぱり、嬉しいな」
「そうか。俺もだよ」
「うん……あのね。ボクさ、今回の事でね。もっと強くなりたいなって思ったんだ」
「何だいきなり。今以上に強くなるのか?」
「このパーティの中で一番弱いんだもん。ちゃんとライを守れるようになりたいんだよね」

 確かに、戦闘力という面で見るならクレアは他のみんなに一歩劣るところはある。
 だがそれはクレアが弱い訳じゃ無くて、他のメンバーが異常なだけだ。
 闘いの才能に満ち溢れたアル。
 単独で一流冒険者として活躍してきたサウレ。
 最強の魔獣と呼ばれるドラゴンをも打倒する冒険者パーティに居たジュレ。
 そこに今回、ユークリア王国でも最上級の回復職であるルミィが加わった訳だ。
 はっきり言って今のパーティはユークリア王国でも上から数えた方が早いほどには強い。

 クレアも冒険者としては一流だし、視野が広くサポート力に優れ、日常生活でもフォローを欠かさない凄い奴だ。
 ムードメーカー的な役割も担ってくれている、パーティでも貴重な常識人でもある。
 暴走するみんなを止める役割は俺一人では荷が重いし、かなり助けられている訳で。

「俺は、クレアが居てくれて良かったって思ってるよ。いつも助かってる」

 わしゃわしゃと頭を撫でながら、そんなことを伝えてみた。
 普段は気恥ずかしくて言えないけど、今は二人きりで酒も入っている事だし。
 こんな時くらいは本音を伝えても良いだろう。

「そっか。ボク、役に立ってるかな?」
「むしろお前がいないと困る。それに、そんなことは関係なしに傍にいて欲しいって思ってるよ」
「……そっか」

 三度、ジョッキを傾ける。
 安い麦酒の味。しかし、俺はこれが好きだ。
 高い酒なんて俺には合わないし、好みでもない。
 いつも通り、いつもの酒を飲んで。
 そしていつも通り、こいつが傍にいてくれたら、それでいい。

「悪いがお前を手放す気は無いからな。地獄の果てまで付き合ってくれよ、相棒」
「それは嫌かなー。ボクは適当なところで逃げちゃうよ」
「そうか。じゃあ、こういうのはどうだ?」

 ジョッキを地面に置き、すかさずクレアを抱きしめた。
 フリドールの寒さのせいか、強く。体熱を求める様に、激しく。

「ほあぁっ!? えっ、何さいきなり!」
「逃げられないように捕まえてみた。どうだ、これで逃げられないだろ」
「何それ……あっ! まさかライ、酔っ払ってる!?」

 俺が? まさか。たかが麦酒程度で酔うはずが無いだろ。
 いくら十杯目と言っても、麦酒じゃ酔わないと思う。
 ただ何となく、こうしたいと思っただけだ。酔ってはいない。
 
「むぅ。まぁいいけどね、温かいし。でも本番はお酒なしでお願いしますよ旦那」
「はいよ。いずれな」
「……あのさ。否定されないと恥ずかしいんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」

 一つの外套の中で、トクントクンと心音が重なる。
 お互い、顔を見ることもできない。けれど、きっと。
 今思っていることは、今願っていることは、同じだろう。
 そう思い視線を下げると、クレアは目を瞑ったまま顔を上げていて。
 そしてそのまま、何を言うでもなく。
 そっと優しく、影を重ねた。

 数秒後。

「……やばっ。ちょっと待ってピンチなんだけど」
「どうした?」
「えーと、その……たっちゃって、動けなくなった」
「続けるぞ」
「いやちょっと待っ……んんっ!?」

 別に嫌がられている訳でも無さそうなので、続行。
 サウレが様子を見に来るまで、しばらくそんなやり取りを続けていた。
 人気が無い暗がりとは言え、誰に見られるかも分からないような外でだ。

 うん、ちょっと酔ってたかもしれないな。
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