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100話「今度の「旅」は長くなりそうだな」
しおりを挟む教会に三日滞在した後。
古い顔なじみとの親交を深めた事だし、そろそろかということで、俺達は旅準備を終えて乗合馬車を待っていた。
朝食は教会で済ませており、見送りにシスター・ナリアが来てくれている。
この場所でこうやって馬車を待っていると、昔王都に旅立った時を思い出すな。
あの頃はまだ幼かった。世界を知らず、狭い見識だけで生きていた。
道具から人になりたくて。ただそれだけを想い、しかし具体的な展望なんてなくて。
それでもどうにかしたい一心で冒険者になりに王都へと向かったのを覚えている、
今はどうだろうか。
馬車を待っているのは同じ。見送ってもらっているのも同じ。けれど。
振り返ると、みんなの姿。
「次の目的地は辺境の開拓村ですよね! 殺りがいのある魔物がたくさんいたら嬉しいです!」
物騒なことを言いながら元気いっぱいに両手剣を振り回すアル。
どうでも良いが村に着いたらこのフリルたくさんの鎧は新調した方が良いかもしれない。
何気に目立つからなこれ。
「……大丈夫。何があってもライは私が守るから」
俺の隣で、いつも通りの無表情でじっと見上げてくるサウレ。
こいつもちゃんとした服を着せるべきだろう。半裸に外套だけじゃさすがにな。
旅をしている間は良かったけど、村に在住するならご近所付き合いとかもあるだろうし。
「開拓村だと私に務まる仕事もありそうですね。戦いなら任せてください」
ジュレもだな。貴族風なのに露出度の高いドレスは当たり前として、人前で性癖を見せない訓練でもするか。
最近俺以外にもアルやクレアに対してどSスイッチが入ることがあったし、矯正せねばなるまい。
ついでに家事も教えていくとしようか。これから一緒に暮らすんだし、役割分担も決めなきゃな。
「村かー……ま、理想とは違ったけど、こういうのもありかもね!」
クレアにはこれからも迷惑をかけそうだな。うちの唯一の常識人枠だし。
気遣い上手だからって、無理しすぎないようにちゃんと見ておかないと。
こいつに関しては持ってる服の量だけが心配だな。出来たら服用の部屋とか作ってやりたいところだ。
「うふふふふ。ついにライと私たちの愛の巣に行くのね。楽しみだわ……どんなところかしら」
あーうん。こいつは修正できるのかね。不可能としか思えないんだけど。
でもヤンデレモードにならなければ地味に何でもできる奴だし、上手い事やっていくしかないか。
暴走した時はまぁ、全員で止めるとしましょうかね。
こうやって見返すと全員癖が強いな。まともなのが一人もいねぇ。
もちろん、俺も含めてだけど。
でもまぁ、うん。それでいいんだろう。
全員バラバラで、それでも一緒に居て、一緒に生活をして。
それが多分『家族』ってものだと思うから。
「シスター・ナリア。一つ分かったことがあるんだ」
「あら。何でしょうか」
「『人間』って大変だけど、良いもんだな」
「そうですね。だからこそ、生きるということは素晴らしいのです」
晴れやかに笑う彼女を見て、再度前を向き直る。
木の葉が風に舞う中で一台の乗合馬車がこちらへと走ってくるのが見える。
あの馬車が俺達を開拓村へと運んでくれる馬車だ。
事前情報はほとんどない。だが、どんな場所でも大して問題はないだろう。
俺達なら。きっとどんな場所でも大丈夫だ。
最初は一人きりだった。俺はただの道具でしかなかった。
それから家族が増えて、仲間が増えて、一度全てから逃げた俺は。
やっぱり戦いたくなんてないし、冒険者なんて向いていないけど。
それでも、逃げている最中に、本当に守りたいと思える仲間たちができたから。
今度は手放さない。絶対に手放してやらない。
俺は彼女たちと幸せに、のんびりとしたスローライフを送ってやる。
全く知らない場所での生活は色々と大変だろうし、困難も多いだろう。
けど、それも含めて人生を楽しんでやろうと思える。
「馬車が来ましたね。今度はたまに連絡をくださいね」
「生活が落ち着いたら手紙でも書くよ。見送りありがとう」
「はい。行ってらっしゃい」
「あぁ、行ってきます」
笑いあい、握った拳をぶつけ合う。これは冒険者同士のサインだ。
「健闘を祈る」という意味がこめられた仕草だけど、シスター・ナリアの見た目に似合わなくてつい苦笑してしまう。
そして。
他に乗客がいない乗合馬車に乗り込む。
窓際に陣取って見送りのシスター・ナリアに手を振り。
やがて、町の風景が遠のいて行き。
俺達はまた、新しい旅を始める事となった。
さて、心配事が尽きないところではあるが、やはり心が躍るのも事実なわけで。
道中で退屈だけはしないだろうし、アクシデントさえ起きなければ馬車の中でのんびりしているだけで良い。
時間はあるんだ。これからの事はみんなとゆっくり話し合おう。
今度の「旅」は長くなりそうだな。
~HappyEND~
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