1 / 56
1話:意志を貫く力
しおりを挟む馬車で王都ユークリアに向かう旅の途中。
平穏そのものだった商隊護衛の依頼中に異変が起こったのは、出発から三日目の昼頃だった。
先頭に居た商隊護衛のリーダーであるゴードンが、慌てた様子でこちらに駆けて来る。
「アレイ、ゴブリンの群れだ。二十匹はいやがる。ありゃあボスがいるな」
「……おいおい、マジか」
ゴブリンは群れる魔物だと言っても、通常は多くて七、八匹程度までしか増えない。
奴らは増えすぎると群れの統率が取れなくなり、仲間同士で争いだすのだ。
だが、例外がある。ゴブリンロードが群れを率いている場合だ。
こいつが群れを統率してるとなると、非常に厄介だ。
「くそったれ……アイツはデカい上に強化魔法まで使いやがるからな。馬車じゃ逃げきるのは難しいぞ」
奴等が通った後には草の根も残らないと言われる程の脅威。
ゴブリンの軍隊と呼ばれるそれは、王国騎士団が総出で討伐を行う対象だ。
少なくとも、冒険者数人でどうにかなる相手では無い。
癖で頭を掻きながら考えていると、不意にゴードンが悪人面で笑いかけてくる。
「おいアレイさんよ。提案があるんだが」
「あぁ、なんだ?」
「俺と何人かが残って足止めをする。お前は王都から救援を呼んできてくれ」
その言葉に眉をひそめた。
つまりゴードンは、自分達が囮になると言っているのだ。他の仲間たちを無事に逃がす為に。
「おい待て、早くて二日はかかるぞ。勝算はあるのか?」
「ない。だがまぁ、全滅するよりゃ良いだろうよ。なぁお前ら?」
護衛隊を振り返りながら叫ぶゴードン。
それに対して周りの連中は、剛毅に雄叫びを上げた。
残れば死ぬと分かりきった状況で、それでも尚、笑顔を浮かべて。
ああ、ちくしょう。馬鹿野郎共が。
「くそったれが……おい、俺の代わりに誰か一人寄越せ。伝令はリリアとそいつに任せる」
「……おいおい、お前、正気か? くたばっちまうぞ?」
「正気だ。勝算も、まあ……無くはない」
そうだ。人間でも魔族でもゴブリンでも、群れの頭を潰せば混乱が生まれる。
その隙を突けば何とか逃げ延びれるだろう。
問題はその群れの頭、ゴブリンロード自体が強力な魔物だという所だろうか。
身の丈五メートルを越える巨体。
鉄製の長剣ですら両断できない程に太い腕は、素手で巨木をへし折るほどの膂力がある。
体全身が鋼に勝る強度を持っていて、通常の武器では到底太刀打ちできない。
さらには魔法を使える程度に頭も良く、部下たちへの指揮能力も高い。
正真正銘の化け物。上位種という呼称は伊達ではない。
はっきり言ってしまえば、このまま逃げてしまいたい。あんな恐ろしい化け物の相手なんてしたくない。
俺は英雄なんて柄じゃない、ただの一般人なのだから。
三年前に地球から召喚された普通のサラリーマン。
十英雄と呼ばれるリアルチートな仲間たちの中に混じっていた異物。それが俺だ。
一般の冒険者と比べても精々が中堅辺りだろう。
下手をしなくても普通のゴブリンの群れ相手ですら苦戦する、その程度の力しかない。
しかし、引けない理由があって、戦う為の力があり。そして義務はなくても、守りたいものがある。
それならば、俺に戦う以外に選択肢は無い。
〇〇〇〇〇〇〇〇
正面方向、遠くに見えるのは二十匹程のゴブリンと、一際デカい群れの主。
商隊の馬車は既に離れ、残ったのは俺を含めた四人だけだ。
リリアには伝令役を頼んであるが、正直なところ逃がすための方便でしかない。
援軍が間に合うはずも無いのだ。
冒険者ギルドも騎士団も、俺達を助けに来るよりは王都の防衛に人を回すだろう。
つまりは、絶望的な状況という訳だ。
さて。良くて地獄、悪くて御陀仏。
分の悪い所か、敗けが確定した賭けだ。
今更のように恐怖が込み上げて来るが、こんなものは既に馴れきった感覚でしかない。後悔なんて幾らでもある。止めとけば良かったと足が震える。
それでも、引けはしない。
「ゴードン、二つ頼みがある」
前を見据えたままで隣に立つゴードンに話しかけた。
緊張を隠せない自分の声色に、内心で苦笑する。
「おう、なんだ?」
「一つ。これから起こることは出来るだけ秘密にしてくれ」
「あぁ? そりゃ構わねぇが……」
体内を循環する微々たる魔力を右腕に廻す。
体が燃えるように熱い。
しかし、頭は冷静でいられるよう、心を強く持つ。
しくじれば死ぬ。だが、そんな事はいつもの事だ。
「二つ。久々過ぎて加減が分からないからな……まぁ、俺が倒れたら、残りは頼む」
次第に高まる懐かしい感触に、震えが止まる。女神がくれた使い勝手が悪い加護。
『意志を貫く力』
右腕を真横に突き出して、その名を告げた。
「起きろ、アガートラーム」
蒼い魔力光を纏い、右腕に顕現する銀色の手甲。
肘から手の甲まで張り出した、巨大な鉄杭。
肩から背面にかけて並んだ噴出口。
『神造鉄杭』
この世界に転移する時に、女神が俺に与えた加護。
最低に使い勝手の悪い、最高の相棒。
その無機質な相棒の姿に、懐かしさと頼もしさが溢れてくる。
さあ、やるか。
鉄杭はもう、止まらない。
「ちょっとばかし、行ってくる」
轟、と背中で魔力が爆発する。
背面から蒼い焔を撒き散らし、俺は低空に投げ出された。
車に轢かれたような衝撃を突進力に変えて突き進む。
急加速のせいで暗くなった視界の中。まずは、先頭の一匹。
爆発推進で得た力を乗せ、左の手甲でゴブリンの顔面を殴り抜く。
その勢いは凄まじく、そのまま背後の別個体を巻き込んで木々に叩き付けられた。
グシャリと生き物が潰れる音に、耳を覆いたくなるような断末魔。
しかしそれが聞こえて来る頃には、俺は他の標的を殴り飛ばしていた。
圧縮された魔力を背面から吐き出すことで超加速、その速度のまま敵に突貫する。
上から蹴り飛ばし、吹き飛んだところに追撃の拳。
爆発推進の速度と遠心力を伴い、大きく振りかぶっての一撃でゴブリンの頭が地面にめり込む。
荒々しく原始的で馬鹿げている、俺だけの戦い方。
武器は使えない。魔法も使えない。
それでも戦い抜くための、女神の加護。
『意志を貫く力』
それは、臆病な俺が戦いを恐れない為の加護。
そして、何者をも穿く一撃特化の攻撃手段だ。
弾丸のような速さと威力でゴブリン共を殲滅していく。
急加速から蹴り上げ、遠心力を付けて殴り飛ばし、その尽くを嵐のような勢いで仕留めていく。
攻撃を終えた次の瞬間には既に離脱しており、続けて他のゴブリンへ飛び掛る。
振るわれたゴブリンの棍棒を弾き、カウンターで吹き飛ばしながら、振り下ろされるゴブリンロードの一撃は加速して避け続けていた。
爆発加速の反動で体中が軋む。
そろそろ終わらせなければならないようだ。
「やるぞ! 『神造鉄杭』!」
最大の一撃を撃ち出す為に相棒に告げる。俺の叫びに対して、相棒は機械的な声で応えた。
ーーー『装填』
十数匹のゴブリン達を撥ね飛ばし、滅茶苦茶な軌道で飛び回る。
ゴブリンロードから飛び来る火球や棍棒の一撃は急激な加速と無理矢理な軌道変更で躱していく。
その間も勢いは衰えることは無い。鉄杭は、更に加速する。
ーーー『神造鉄杭 : 魔力圧縮完了』
「今のありったけをくれてやる!」
狙うはゴブリンロードの醜い顔面。
振り回された腕を蹴り飛ばした時、恐怖と驚愕に満ちた目を向けられた。
俺を遮るものは、もう何も無い。
ーーー『裁きの鉄杭 : Ready?』
相棒が告げる、終わりの言葉。
その合図と共に、最大速度で突撃する。
ブースターの爆発音、風を切る音、デカブツの悲鳴。様々な音が鼓膜を揺るがす。
それらを置き去りにして、鋼の如き強度を誇る化け物に向かって右手で殴り付けた。
「終わりだっ!」
圧縮された魔力を爆発させ、手甲から巨大な鉄杭が凄まじい勢いで撃ち出される。そして。
龍の咆哮に等しい轟音が、世界を揺るがした。
〇〇〇〇〇〇〇〇
蒼炎の余剰魔力を噴出しながら、ギャリギャリと地面を滑走。
脚甲が摩擦で火花を散らしながら距離を離す。
やはり久しぶり過ぎて感覚を忘れていたようで、ただの一撃で右腕が折れてしまった。
たぶん両足もやられているし、全身が痛い。
けれどもまあ。俺にしては上出来だろう。
ゴブリン十数匹とゴブリンロードの上半身を道連れなら、そう悪い戦果ではない。
残りの奴らは、申し訳ないがゴードン達に任せるとしよう。
そんなことより、久しぶりに全力を出しすぎた。もう魔力が欠片も残ってない。
慣性のまま滑ってゆき、木に激突。
止まった拍子に全身に激痛が走り、俺はそのまま意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる