異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

文字の大きさ
2 / 56

2話:討伐依頼

しおりを挟む

 一週間前の朝、安宿のベッドと共に背骨を軋ませながら伸びを一つ。
 ベッドが硬いせいか、歳のせいか。パキリと心地よい音がした。
 昨晩遅くまで酒を飲んでいたせいか、少だけ頭が重い。

(昔は徹夜が当たり前だったのにな……)

 小さくため息を吐いた。
 まあ、旅をしている最中は深酒はおろか、飲酒自体が宿に泊まった時だけだったが。

(流石にあの頃は、そんな余裕なんて無かったが)

 宿の部屋を出る前に鏡を見ると、何とも冴えない男の姿があった。
 この世界では珍しい黒髪黒眼。だが頭は寝癖でボサボサだし、無精髭も生えている。
 猫背気味なのもあって、全く冴えない。

(……まぁ、今更見た目なんて気にならんがな)

 この世界に召喚されてから年月が経った今、立派なおっさんである。まだ二十代だけど。
 まぁ別に気にならないし、自分の容姿なんてどうでも良いんだがな。


 眠気の残る頭を振りながら、朝飯の前に宿の隣にある冒険者ギルドに向かう。
 いつも通り、普通なら新人冒険者が受ける薬草の採取依頼を受ける為だ。

(いい加減、何か言われるかも知れんな。もう二ヶ月は魔物の討伐依頼受けてないし)

 冒険者は基本的に何をするにも自己責任だが、冒険者ギルドからしたら中堅冒険者の俺には魔物の討伐依頼を受けさせたい所だろう。
 だが、無理をするつもりは無い。ここはいつも通り無難に済ませておきたいところだ。
そんな事を考えていると、受付の美人職員に睨まれてしまった。

「おはようございますアレイさん。良い天気ですね」
「あぁ、うん……おはようさん」

 うわ、超笑顔なのに目だけ笑ってねぇんだけど。
 獲物を前にした肉食獣みたいだな……いや、こえぇよ。

「昨日もお伝えしましたが、討伐依頼が溜まってるんです。いい加減受けてください」
「いや、俺はこっち薬草採取で十分だ」

 討伐依頼とか危ないじゃないか。出来ればいつも通り、薬草採取だけで終わらせたい。

「ダメです。常駐依頼とはいえ、討伐依頼が消化されないとギルドも困るんです」
「えぇ……他に受けるやついないのか?」
「いません。今日こそは受けてもらいますからね」

 にこやかに睨んでくる職員に対して溜息を一つ。今日は見逃して貰えそうにないな。仕方ない、受けるとするか。
 討伐依頼書の束をパラパラとめくる。ちょうど街道沿いで出没しているゴブリンの討伐があったので、これを引き受ける事にした。
 あいつらは群れると危険だが、視界の開けた街道なら囲まれる前に一匹ずつ片付ければ問題ない。

 依頼書を一枚千切って懐に入れると、ようやく冷たい目線から解放された。

(心臓に悪いから止めて欲しいんだが)

「あ、そうだ。ちょっとお願いがあるんですけど」

 こちらの手を握り、花が咲くようににっこりと笑う。
 なんだよ、いきなり。ちょっと嬉しいが、嫌な予感がする。

「アレイさん、ついでに王都への護衛依頼、受けてくれませんか?」
「はあ? いや、頼む相手間違ってるだろ、それ」

 自分で言うのもなんだが、俺なんかより余程頼れるベテランパーティがいるだろうに。

「実は今、手が空いてるパーティがいないんですよ……お願いします」
「……はいよ。とりあえず、ゴブリン行ってくるわ」

 ひらひらと適当に手を降ってその場から逃げる事にした。

 でもまぁ。誰かが困っていて、自分に助けられる力がある。
 となればもう、引き受けるしかないよなぁ。
 正にあの女性職員の思惑通りである。
 やれやれと首に手を当てて関節を鳴らし、本日のお勤めを果たすため、ギルドのドアを出た。
 
 街道に出て、装着した手甲の握りを確認。脚甲や革鎧も問題なし。
 俺も剣なんかが使えたら格好良かったのだろうが、こちとら平和な国に生まれ育った元一般人だ。
 当たり前ながら剣を使う技術など持っておらず、殴る蹴るといった原始的な戦い方しか出来ない。

 ついでに元王国騎士団長によれば、俺は剣や槍の取り扱いに関して壊滅的に才能が無いらしい。
 全くもって、どうしようもない話だ。と言うか、昔の仲間たちが色々規格外なのだと思う。

(まぁ、あいつらは存在自体が特別チート過ぎるから仕方ないんだが)

 三年前、ほとんど顔も知らない十人の男女が日本という異世界から召喚された。
 女神は言った。魔王を倒して世界を救って欲しいと。
 代わりに、特別な力を授けると。
 様々な才能を持つ、天才たちの集団。
 その時に紛れ込んでいた一般人が葛城亜礼かつらぎ あれい、つまり俺である。

 世界を旅して周り、色々と無茶しまくり、主に俺が死にかけながらも。
 長旅の末、俺たちは『魔王』を倒した。

 それからまた色々あって、俺達はこの世界、アースフィアに残る事になった。と言うか、女神が戻り方を知らなかった訳だが……まあ、そこは割愛しておこう。
 思い出しても腹が立つだけだし。

 当時、個性派すぎる面々が集まられたパーティーで、どうなる事かと悩んでいたのは公然の秘密である。
 少しだけ、あの旅路が懐かしいと感じるが、二度はごめんだ。

(あんな旅は俺には荷が重すぎるしな)

 さておき。今回は魔王なんて大物ではなく、街道沿いに沸いたゴブリンの退治だ。
 油断をせずに堅実に行けば大丈夫だろう。

 人は簡単に死ぬ。この世界ではそれが特に顕著だ。だからこそ安全第一。死んでしまっては元も子もない。
 ぶっちゃけ今すぐ町に帰りたいが、生憎と手持ちの金が底を尽きかけている。討伐依頼しか受けられないのなら、それをやるしかない。

(世知辛い世の中だな)

ため息を吐いた時。やや遠くから馬の嘶きと、金属が弾け合う音が聞こえてきた。

 あー。これはあれかね。商人か旅人が、盗賊だか魔物だかに襲われたか。
 何にせよ、聞いてしまったものは仕方ない。
 気は乗らないし怖いが、一先ず様子を見に行ってみるか。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...