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17話:武術大会予選
しおりを挟む武術大会までの一週間、それなりにバタバタして過ごした。
リリアに隼人を紹介したり。
騎士団で合同訓練をしたり。
俺が死にかけたり。
歌音の手伝いをしたり。
治療院の雑用をしたり。
俺が死にかけたり。
副騎士団長が司の件で謝罪に来たり。
ついでにさぼっていた蓮樹の連行を手伝ったり。
俺が死にかけたり。
まあ、色々あった。
武術大会が始まっても無いのにHPが赤点滅してる気がする。
あいつら、何で毎回俺を巻き込むんだろうか。
勘弁してほしい。
そんなこんなで迎えた武術大会初日。
他の出場者達と共に闘技場の控え室に押し込められ、黙々と準備を行っている。
全身鎧が置いてあったので、試合で使う手甲の品定めをしながら、ふと懐かしく思う。
昔はよく、ここで訓練したものだ。
仲間内であったり、知らない人であったり、はたまた魔物だったり、相手は様々だったが。
余談だが、一番命の危険を感じたのは仲間内だけでやった時だったりする。
司の相手を勤めた俺を、誰か誉めてくれてもいいと思う。
ふと、リリアの様子を見やる。
学校の友人だろうか、若者同士で楽しそうにしている。
あんな頃が俺にもあったなあ、とおっさん染みた事を思っていると、リリアが気付いた。
手を振られたので、適当に振り返す。
おお。友達に絡まれてる。
楽しそうだな。あの一角だけ雰囲気が違うし。
因みに、この大会は年に一度行われるもので、本戦に参加するだけでも大変名誉な事らしい。
更に今回は英雄が参加すると言うことで、例年以上の盛り上がりを見せている。
つまり、参加者の大半がピリピリしている中、彼女たちは楽しげにおしゃべりしている訳で。
少しヒヤヒヤする光景だ。
「なんだぁお前、武術大会で武器無しかよ」
そして案の定、出場者の一人に絡まれた。
但し、俺が。え、なんで俺?
一見して擬人化された虎に見える。虎の亜人か、久々に見たな。
亜人自体はそこそこ見かけるが、虎の亜人はあまり居ない。
誇り高く気性が荒い彼らは人の街に馴染めない事が多いと聞く。
どうせなら仲良くしたいものだ。モフモフ感が凄いし。ああ、モフりたい。
「あぁ、生憎不器用でね。剣は使えないんだ」
「はぁ? 爪も無いのに武器が使えないとか、何しに来たんだよお前」
本当にな。俺もそう思う。
「妹に無理矢理登録されたんだ。怪我だけはしないように頑張るつもりだよ」
「……お前、大変だな」
知らないモフモフに同情された。
見た目は厳ついが、案外根は良い奴なのかもしれない。
亜人は身内には優しい奴が多いし。
「お前、予選ブロックは?」
「第一ブロックだ」
「じゃあ違う組だな。まあ、頑張れよ」
「ああ、ありがとう」
軽く手を上げて離れていった。
もしかしたら、最初から心配して声をかけてくれたのかもしれない。
不器用な虎の亜人。機会があれば仲良くなりたいものだ。
ふと。リリアが何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「どうした?」
「いえ、何と言いますか。腹が立ったりしないんですか?」
「……いや? むしろ同感だったな。俺、何でここにいるんだろうか」
「英雄なのにですか?」
「あー。それな、違う違う。みんな勘違いしてるだけで、俺は見ての通りの一般人だよ」
「少なくとも、一般人ではないと思います」
「そうか?」
「絶対そうです」
言い切られた。ひでぇ。
「……私も、予選頑張りますね」
「あぉ、頑張れよ」
「はい。ではまた、後程」
「あいよー」
ひらひらと手を振る。
さて、まずは予選。
怪我だけはしないように頑張ろうか、俺。
武術大会の予選はバトルロイヤルとなっている。
ブロック毎に最後まで残った奴が本戦に進める形式だ。
これは、多分に運が絡んでくる。
このような場合、強そうな相手や目立つ相手から潰しにかかるのが基本で、その為に即興でチームを組むことはよくある事だ。
生き残りは弱い方が後で戦うときに楽だからな。
つまり、最初は目立たずひっそりと立ち回るのが常である。
だと言うのに。
『予選第一グループ、一番の見所はやはりカツラギアレイ選手ではないでしょうか。
救国の英雄の一人、疾風迅雷の名は誰もが知るところでしょう』
てめぇこら京介、わざわざ目立たせんじゃねえよ。
て言うか何で解説席にいるんだよお前。仕事はどうした。
うっわ、周りの目が怖い。すっごいギラギラしてやがる。
『今大会では武器の持ち込みは不可なので、普通の手甲だけ身に付けてます。そうです、あの黒髪です。
みなさん十分可能性があります。速攻でやってしまいましょう』
あいつ、後で殴る。絶対殴る。
『では予選第一グループ、開始!!』
うわ、ちょ、おま、くるなあああああああああ!!!!
現在。およそ三十人に追い回される恐怖を味わい、心身共にピークを迎えつつある。
幸いな事にすぐに乱戦に切り替わり、こちらに向かってくる人数が減ったので何とかなった。
立ち止まると見せかけて全力疾走したり、近い一人を転ばせて進路妨害したり、人数が減ってからはたまに足を止めて打ち合ってみたり。
数の利があると、油断が生まれる。そこを突いて何とか立ち回れた。
それでも、騎士団員レベルの猛者がいたら上手く行かなかったと思うが。
闘技場の外周を走りながら残りの人数を数えると、
中央で切り結んでいる二人と、俺を追いかけている三人だけだった。
それならばと少し速度を緩め中央へ。
正々堂々戦っている二人の間に飛び込んだ。
危うく斬られかかったが何とか避け、反転して足を止める。
予想通り、俺を誰か追いかけていた奴等は全員切り捨てられていた。
よし。あと二人。いや、たった今あと一人になったな。
切り結んでいた二人の内、小柄な方がこちらに剣を向けている。
あ。剣じゃないな、あれ。刀か。
おお。刀とか使ってる奴、蓮樹以外に居るのか。
「カツラギアレイ殿!! いざ、尋常に勝負されたし!!」
「……。お、おう」
サムライかお前は。
まあ、どちらにせよ逃げ回る手段は使えないし。
集中力を高める。模造刀とはいえ、刀だ。
使い手の腕にもよるが、蓮樹なら一閃で岩を絶つ。
俺が構えると同時、男は袈裟懸けに斬りつけて来る。
動きが良い。一太刀に躊躇いがない。
踏み込みながら紙一重で躱し、そのまま牽制で巻き込むように横殴り。
避けられた所に蹴りを放とうと身構え、重心を移す準備をする。
避けられる前提で放ったそれは、サムライの顔面を捉え。
そのまま意識を刈り取った。
……おい。なんか、当たったんだが。
え、嘘だろ。これで終わりか?
『はい、決着ですね。
第一グループ勝者、カツラギアレイ選手。
怪我をした人は治療室へお越しください』
なんだろう。何かこう、もやもやすると言うか。
この感情を何処に向けたらいいのだろうか。
……ひとまず、京介を殴りに行くか。
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