異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

文字の大きさ
20 / 56

20話:準決勝、蓮樹戦

しおりを挟む

 準決勝第一試合。
 葛城亜礼最弱 対 児玉蓮樹最強
 俺の公開処刑とも言う。

 はっきり言おう。まともにやって勝てる可能性は無い。
 いや、普通に考えて無理ゲーすぎるわ。

 蓮樹は、速い。
 ただそれだけなのだが、その速さの基準がおかしい。

 『韋駄天』セツナドライブ
 自身の摩擦を任意に無くし、地を蹴る度に加速し続ける能力。
 蓮樹の最大戦速は、音を軽く置き去りにする程だ。

 勿論、常にその速度が出せる訳ではない。最大加速するまでほんの僅かとはいえ時間がかる。
 しかし、限定的とはいえ、移動速度が音速を超える相手にどうしろと言うのか。

 司のように身体防御力だけで魔法銀ミスリル製の刀の一撃を防いだり出来ればまだ対処も可能だろうが、俺みたいな一般人だと、まず攻撃を認識する前に斬られて終わる。

 幸い今回は武器の持ち込みが出来ないのでそんな理不尽は無い……と思いたかったのだが、そこで嫌なことを思い出した。

 蓮樹は訓練用の刃を潰した剣で岩を斬るのだ。
 鉄製の手甲なんて軽く斬り捨てられる。
 速さと角度がどうとか説明されたが、理屈でどうにかなるなら苦労はない。

 と言うか、蓮樹の速度に耐えられる武器を使った場合、摩擦を無くすという加護を利用すると、物理抵抗が不可能となる。
 早い話が何でも斬れるのだ。

 誰もが捉える事が出来ず、その攻撃は必殺の威力を持つ。
 チート・オブ・最強チートの名は伊達じゃないという事だ。

 そこまで分かっていて相対する俺もどうかしていると思うが。

「にゃははっ!! 亜礼さんとやるのは始めてかなっ!!」
「だな。で、今回が最後だ」
「負ける気は無いからねっ!?」
「あぁ、だろうなあ」

 知っている。コイツは基本的に適当なやつだし、最強の名はどうでもいいと投げ捨てるが、挑まれて平然としていられる性格ではない。

「まあ、お手柔らかに頼む」
「にひっ!! それは無理な相談ってやつだねっ!! ワクワクが止まらないからっ!!」
「人の話を聞け。頼むから」

 ああ、駄目だ。戦闘スイッチが入ってやがる。
 その証拠に満面の笑みを浮かべながらも、その瞳は肉食獣のように鋭くなっている。
 味方であれば頼もしい限りだが、敵に回すとこれ程恐ろしい奴もいない……いや、司がいるか。
 どちらにせよ、最悪には変わり無いが。


『では、準決勝第一試合、始め!!』


 審判の声が上がる。瞬間、真後ろに跳びながら全魔力を込めて手甲を跳ね上げた。
 瞬間、ガンっと重い手応え。ビンゴだ。

 目の前に呆けた顔の蓮樹の姿が現れる。
 一回戦から全ての相手を瞬殺してきた。
 つまり、開始と同時に飛び出して来ると予想した訳だ。

 そこに合わせて体を浮かせた。
 幾ら速かろうと、体が浮いてれば逃げようがない。

 そのまま蓮樹の胸元目掛けて。


「おおぉぉぉぉらああぁぁぁっ!!!!」


 思いっきり蹴り付けた。

「にゃあああああああっ!?」


 ホームラン。アイツ軽いからよく飛ぶなあ。
 おお。身を捻って足から着地した。猫みたいな奴だ。

「びっっっくりしたあああああっ!!!!
 すごいすごいすごいっ!! アタシ、止められたの初めてなんだけどっ!! 超ワクワクするっ!!!!」

 あー。ピンピンしてらっしゃる。
 当たり前か。ダメージ目的ではなく、吹っ飛ばす為の打撃だったのだから。

 ……つまりはまぁ。そう言うことだ。

『勝者、カツラギアレイ選手!!』
「………ええええええっ!? なにっ、なんでっ!? まだ始まったばかりなのにっ!?」

 審判のコールにブーイングを返す蓮樹。
 やっぱり気付いてなかったか。

「蓮樹。下見てみ」
「………。うっわぁ。なるほどねっ!!」

 蓮樹の足元は石畳ではなく土。つまり、場外負け。
 まともに戦って勝ち目がないなら、まともに戦わない。
 どうせルールも適当にしか把握してないだろうと思っていたが、案の定である。

 一回だけの、その場限りの博打のような作戦だったが、見事に成功した。
しかし、横凪ぎでよかった。縦に振られていたら腕が裂けてたからな。

「あー……すまんが。最初からお前と正面から戦う気はなかったぞ?」
「えええ……なにそれぇー」

 頭から飛び出した触角のようなアホ毛がしなっと潰れる。
 あれ、どういう原理で動いてんだろうか。

「仲間に殺されるのは勘弁だ。そういうのガチなバトルは後で司とやってくれ」
「ぶうううぅぅぅぅっ!!」
「ほら、膨れんな。後で肉串買ってやるから」
「……あーもーっ!! 仕方ないっ!! 二十本ねっ!!」
「入るのか、それ」
「よゆーっ!! くそー!! やけ食いだー!!」

 よく食うなコイツ。まあ、元気なのは良いことだが、
 この小さい体のどこに入るのか。
 聞いてみたい気がするが、止めておこう。

 とにかく、司との約束は果たした。
 後はもう一人の最強相手にどう逃げ回るかだが。
 作戦も何も無い。ほぼ全能力値が上なのだ。
 まあ、やれるだけやって負けますかね。

 そんな事を思いながら闘技場を抜けようとした時。
 街外れの方から壮大な破壊音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...