異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

文字の大きさ
35 / 56

35話:魔王というもの

しおりを挟む

 かつて昔から、この世界には魔王がいた。
 それは魔族の王であり、永らく続いた戦争を引き起こした元凶でもあった。
 魔王は長い歴史の中で人間や亜人に何度か討伐されたが、その度にすぐに復活し、幾度となく世界を混乱に陥れたとされる。
 また、非常に魔力が高く、あらゆる攻撃を弾き、あらゆる魔法を無効化したと言う。

 これがユークリアに伝わる魔王に関する伝承だが、実は一つ大きな間違いがある。
 魔王とは、特定の個人を差す言葉ではない。
 それは、自我を持つ特殊なペンダント型の装飾品だ。

 適正のある魔族が装着することでその者を強化し、代わりにその体を乗っ取る呪いのシステム。
 それが不滅の魔王の正体だった。
 永い時を経て歴代魔王の能力を継承するソレは、もはやただの災害でしか無かった訳だが。

 この世界で有名な英雄譚に司が魔王と素手喧嘩ステゴロしたというものがあるが、俺としては逆だと言いたい。
 魔王はのだ。
 この時点で、この世界の常識から外れている。

 司は女神公認のチートキャラだ。
 その司と同等である。魔王も相当バグっていると言える。


 ともあれ、魔王というシステムは既に破壊されている。
 これを復活させるとしたら膨大な魔力を費やし、魔道具ペンダントの欠片を修復させるしかない。

 と、思っていたのだが。

「……魔王になるってのは、あの魔王か」

 土産の酒を傾けながら訪ねる。
 喉を焼くような甘さ。甘党の誠には丁度良いかもしれないが、俺には合わないな、と思う。

「その魔王だね」
「そりゃまた……アレの魔力を吸収したのか、とは思っていたが」

 話が飛躍しすぎだろうと思う。正直なところ、まだ意味がよく分かっていない。

「あ、でも普通にチート使う分は問題ないかな」

 ケラケラと笑いながら袖をぶんぶん振る誠。
 いや、あまり笑い事じゃないんだが。コイツ、まさか酔ってるのか?
 ワイン程度のの度数しかないんだが、これ。

「ふむ。と言うと?」
「何て言うかさ、魔王の装飾品ペンダントって特定の魔族でしか使用出来なかったでしょ?
 今の亜礼はアレが使える状態な訳」
「それはそれで、大分ヤバそうなんだが」
「ま、長時間使用しなければ大丈夫じゃないかな」
「……そうかい」

 つまり短時間であれば『魔王』と接触しても大丈夫という訳だ。
 それならまだ救いはある。
 しかし、さすがは魔王。ただでは死なないと言うことだろうか。
 死の間際の呪い、と考えると中々にしっくり来る。

「まぁ、今の状態は理解した。訪ねた甲斐があったな」
「んー……て言うかさ。なんでこんな所にいるの?」
「ああ、女神のお告げだ。アイシアが魔王を復活させるんだと」
「げ。亜礼、あの女と縁があるね……って、ちょっと待った。
 アイシアがペンダント持ってるってこと?」
「だな。アイツは魔王適正あるのかね」
「うっわあ。性格的にありそうだねそれ。最悪だ」
「……まあ、魔王だろうがアイシアだろうが、やることは変わらないんだが……」

 まぁ、うん。かなり怖い。恐ろしい。背筋が凍る。
 俺は死ぬのはおろか、怪我をするのも嫌だ。
 戦うなんて面倒だし、出来れば逃げ出したい。
 更に言うなら自我が乗っ取られるなど、真っ平ごめんである。

 それでも。
 引けない理由があるならば、それは仕方が無い事なのだろう。
 その時はただ、撃ち抜くだけだ。

 グラスを傾ける。やはり、甘い。
 自分用も買ってくるべきだったかとため息を一つ吐いた。

「しかしまー。阿礼も変わらないねー」
「……そうか?」
「うん。君は出会った時からそうだったよね。
 トラブルを引き寄せるっていうか、トラブルの種を作るって言うか」
「うるせぇ。好きでやってる訳じゃねえよ」

 と言うかいつもトラブルを持ってくる奴に言われたくはない。

「何せ召喚された直後からトラブル発生だったからね。さすが、全自動巻き込まれ型トラブル発生機」
「トラブルの幾つかはお前が原因だがな」
「違いない。天才の生き様にトラブルは付き物だからね」
「言ってろ」

 再度グラスを傾け、ツマミのナッツを口に放り込む。
 カリコリと噛み砕きながら、考えた。

 通常、魔族でしか扱えないはずの『魔王』というシステム。
 それを俺が使うことが出来るというのは、どんな不幸なのだろうか。
 運命を司る神にでも聞いてみたいところではあるが……まぁ、あのポンコツ女神に聞いたところでロクな返事は帰ってこないだろう。

「……ねぇ、阿礼さー。ゲルニカに行くんだよね? 今回は一人なの?」
「いや、連れがいる。冒険者に成り立てだが、なかなか筋が良い奴だ」
「うわ。また新しい女の子にプラグ立てた訳?」
「そんな仲じゃねえよ。ただの旅の仲間だ。歳も離れてるしな」
「ふうん……歳の差、ねえ」

 ソファにもたれ掛かり、ニヤニヤと笑う。
 相変わらず猫みたいだなこいつ。

「何だ。何か言いたそうだな」
「だって楓ちゃんって前歴があるからねー」
「……あいつはなんて言うか、そういうモンじゃないだろ」
「ボク的には半々だと思うけどね」

 俺と楓はそんな中では無い。
 兄妹のような、それでいて頼りになる戦友のような、そんな間柄だ。
 何でもかんでも恋愛に絡めたがるのはこいつの悪い癖だと思う。
 ただ単に、面白がっているだけだろうが。

「そういや他のみんなはどんな感じなの? 変わりない?」
「遥以外はまぁ……いつも通りだな」
「ああ、遥は変わりないよ。たまにお菓子もらってるし」
「……そうか。変わりないか」

 遥は未だに墓守を続けているんだろうか。
 アイツらしいとは思うが、何とも言えない気分だ。

「そっちには明日にでも顔を出してみるか。ところでお前、ゲルニカに着いてくるつもりはあるか?」
「いや、ボクは辞めておくよ。今の生活が気に入ってるし、新しいアイデアがわんさか出てくるからね」
「そうかい。分かった」

 軽い調子で断られたが、それもそうかと思う。
 せっかく戦争が終わったんだ。これからは、皆にもゆっくりと過ごして欲しい。
 面倒事はこちらで引き受けるとしようか。

「……君は、一人でも行くつもりなんだね」
「あぁ、自分が撒いた種だしな。ちゃんお自分で後始末するさ」
「そっかー……死なないでね、アレイ。じゃないとボク、泣くからね?」
「……蓮樹とも約束したからな。約束は、守るさ」

 約束とは、果たされなければならない。
 例えそれが、どんなに困難であろうとも。

「うん。なら大丈夫だね。念の為、ボクとも約束してくれる?」
「ああ。終わったらまた、土産を持って来る。暫くはこの町に居るかもしれんが」
「ならまた遊びに来てよ。来客が無さすぎて暇なんだよ」
「……まあ、これだけ特殊な家に住んでりゃなあ」

 何せ全面コンクリートで固められた家だ。
 周りと比べて違和感が半端ない。
 誰も好き好んで近付こうとはしないだろう。

「まぁしばらくは相手してよ。どうせ暇でしょ?」
「船の状況によるがな。時間があるようならまた顔を出すさ」
「期待して待ってるよ。その時には、この一年間の話を聞きたいところだね」

 ぐい、とりんご酒を飲み干し、イタズラに笑う。 
 本当に猫みたいな奴だ。
 気まぐれでこちらの都合なんてお構い無し。
 しかし、パーティの参謀役として大いに役立ってくれた曲者でもある。

 まあ、久しぶりに話せて良かった。
 変わりが無いのが一番嬉しい事だ。

「さてと。連れを待たせてるからそろそろ帰るわ」
「はいはい。また近いうちに来てね」
「ああ、またな」

 入り口まで見送ってもらい、そのまま家を後にした。
 どいたせまた近いうちに来るんだ。
 込み入った話はその時で良いだろう。

 酔いを冷ましながら、ぶらぶらと宿まで戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...