異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

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36話:過去の夢、語られぬ真実

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 夢を見ていた。
 最近よく見る、過去の旅での夢を。


 美しい赤い月の化身が、蛇腹剣を鞭のように振るう。
 手甲で受けながら、間合いを取った。
 迫る追撃。しなる刃を躱し、すぐに体勢を整える。

 焦るな。時間を稼ぐだけでいい。
 司が魔王を倒すまで、コイツを引き付ければいいだけだ。
 なに、簡単な仕事だ。今までに比べれば、尚更。
 ……まぁ、そんな簡単に行く訳がないが。


「あぁ、アレイ、さぁ、くふふ……もっと遊びましょう?」


 折角の美女からの誘いだが、お前だけは御免だ。
 笑い方と目が怖ぇんだよ、馬鹿野郎。

 ちら、と見ると、遠くで司と魔王が真正面から殴りあっている。
 一撃毎に地形が変わり、豪風が吹き荒れる。
 なんだあの怪獣大決戦。どちらも尋常じゃねぇな。


「トオノツカサ。貴様は、強いな」
「…そうだね。だから、お前を倒しに来たんだ」
「あぁ、異界から来たる勇者よ。お前は、本当にそれでいいのか?」
「…何を」


「アレイ、よそ見はよくないわぁ」

 掛けられた声に慌てて視線を戻す。
 迫る鋼鉄の蛇。咄嗟にブースターを起動し、剣を避ける。
 さらに振られた蛇腹剣を、加速させた拳で弾いた。
 あぶねぇ。余所見なんてしてる場合じゃなかった。


「お前は私を倒せるかもしれない。だが、それでどうするのだ?」
「…何を言っている」
「魔王を倒した者。それは、ただの化け物ではないか」


 弾かれた蛇腹剣が逆方向から迫る。
 速い。だが、遠間からやってくる死の塊を、屈んでやり過ごした。
 この距離なら、全体が見渡せる。
 そう簡単に当たりはしない。
 もっとも、こちらに攻撃手段は無いが。


「民は良かろう。王も良いだろう。だが、貴様の仲間はどう思うか」
「…俺は、それでも」
「魔王を倒した者。それは最早、人間などではなかろうに」
「…違う。違う、違う!!」


 アイシアの嗤い声が迫る。ああ、怖い。
 くそったれ。煩い、黙れ。
 アイシアも、魔王も。口を閉ざしてくたばってろ。


「貴様は、それで良いのか? たった独りでこの世界を生きていくのか?」
「………俺、は」


 破壊音が、止まる。
 視界の端で、司が吹き飛ばされたのが見えた。


 ああ、くそ。馬鹿野郎が。
 今更悩むような間柄じゃねぇだろうが、おい。


「アレイ、アレイアレイィィィ!!!! くふ、ふふふふ!!!!」
「うるせえっ!! 邪魔だ退けぇっ!!」


 再度振るわれた蛇腹剣。前方に向かって爆発推進。
 鉄杭を撃ち出し、弧を描くを刃粉々に吹き飛ばす。
 即座に反転、ブースターをフルスロットルで点火する。

 くそったれ。そんな戯言で止まってんじゃねえよ。
 お前は、今まで何をみてきたんだ。


 加速、加速、加速。
 限界速度に到達。しかし、更に加速する。
 音速の壁に押し潰されそうになりながらも、止まらない。
 青い魔力光が恐ろしい速度で流れていく。


 ーーー『装填セット
 ーーー『神造鉄杭アガートラーム : 魔力圧縮完了トリガーオン
 ーーー『裁きの鉄杭アガートラーム・バンカー : Ready?』


「勇者よ、我が引導を渡してやろう」

 振りかざした右腕。それを見ながら、更に加速する。

「オオオォォォォォ!!!!」
「……なんだ? 羽虫が、邪魔をするな!!」

 俺の叫びに魔王が振り返る。
 歪な笑みを浮かべ、此方に手を伸ばした。

 数え切れない程の黒い魔力光の激流。
 躱し、避け、直撃を免れない弾だけ、左手甲を犠牲に逸らす。

 しかし、速度は落とさない。
 驚いた顔。ヤツの動きが一瞬止まる。


 空色の魔力光を置き去りにし、こちらに伸ばされた手を掻い潜り、至近距離に到達。
 神造鉄杭アガートラームを突き付る。
 狙いは、胸のペンダント。
 魔王の核。そこに、先端を当てる。


「俺がお前の死だ。くたばれ魔王」


 世界が揺らいだかのような轟音。
 俺の特攻の一撃は、狙い違わず奴の胸を撃ち抜いた。
 黒い魔力光が飛散し、魔王の姿が端から塵になって行く。

 衝撃の余波で自分が吹き飛びそうになる中、足を踏ん張り、ブースターを吹かして耐えた。


 急いで視線を向けると、司は何とか生きていた。
 身動ぎ一つしないが、ちゃんと胸が上下している。
 良かった。生きてさえいれば、その先は何とでもなる。
 振り替えるとアイシアの姿もない。
 魔王が倒されたのを見て退いたようだ。助かった。

 もう、空っぽだ。
 地面に倒れ込む。視界に広がる青空。
 アガートラームの魔力光と同じ色。


 勝った。もう二度とやりたくねぇ。


 遠くから聞こえる仲間達の声。
 あぁ、後で司に説教だな。
 子どもに頼られるのも、子どもの後始末をするのも、子ども叱るのも、大人の特権だ。
 まずはこの馬鹿みたいな最強に拳骨を落とさなきゃいけないな。


 不意に目が覚めた。これまた、懐かしい夢だった。
 あの後、俺と司は歌音達に回収され、二人揃って大説教大会に参加する事となった。
 二時間正座はなかなかに堪えたな、と苦笑が漏れる。

 あの頃はまだ、司に迷いがあった。
 それを分かってやれなかったのは俺のミスだ。
 大丈夫だろうと勝手に思い込んでいた。
 その事もずいぶん怒られたものだ。
 司の頭に拳骨を落とし、あまりの硬さに悶絶したのも良い思い出だ。


 今日は、どうしようか。
 早めに遥に会いに行く必要はあるが、今日でなくても良い。
 まあ。ひとまず朝飯を食うか。
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