異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

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42話:早坂詠歌という少女

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 長い船旅だったが、ようやく明日到着するらしい。
 惨敗続きだった楓とのチェスも黒星更新が止まるかと思い、喜んで良いものなのか微妙に迷う。
 結局、一度も勝てなかった。情けない話ではあるが、楓が楽しそうだったので良しとしよう。

 ちなみにリリアが相手だと僅差で負けてしまい、隼人や詠歌は楓以上に容赦無く叩き潰してくれた。
 司はチェスを指さないので、現メンバーでは俺が一番弱いことになる。
 …今度こっそり特訓しておこう。
 そんな事を考えながら何回目か分からない敗北に頭を掻いていた時だった。

「亜礼さーん。敵襲やー」

 緩いテンションで隼人が告げた。
 まさか、と思いながらも甲板へ向かう。

「ワイバーンの群れ、五十くらいらしいなー。まだかなり遠いけど」
「ワイバーンか。厄介ではあるが……ふむ」

 ワイバーン。亜竜とも呼ばれる、前足が翼になったデカいトカゲだ。
 さすがにブレスは使えないものの、空を飛び、大きな個体だと簡単な魔法を使う事もある。
 飛べない人間からしてみれば十分な脅威だ。

 脅威、なのだ。
 ワイバーン五十匹など、通常なら全滅を覚悟するレベルの群れである。
 それこそ騎士団が総出で立ち向かうレベルの群れだ。

 ただ、あちらは運が悪かった。
 何せこの船には詠歌がいる。

 甲板に出ると、詠歌が自分の身長より大きなゴツいライフルを立ったまま構えていた。
 普段の穏やかな表情とは違い、機械のように冷徹な無表情で空を眺めている。

「照準。合わせ」

 カチャッ……ドウッ!!

「ヒット。撃墜」

 ただ冷徹に、時を刻むように同じ動作を繰り返す。


 立花寺誠特性の詠歌専用対物狙撃銃。
 ボルトアクション式アンチマテリアルライフル『ドラゴンイーター』
 射撃の反動だけでレンガを砕くそれを、魔力による身体強化で無理矢理押さえ込み、立ったまま撃ち、コックレバーを引いて次弾を装填、すぐさま連射する。

 引き金が引かれる度、ワイバーンが爆発したかのように弾け飛ぶ。
 相変わらず、恐ろしい光景だ。


「照準。合わせ」

 カチャッ……ドウッ!!

「ヒット。二機撃墜。司君の敵は殲滅します」


 ワイバーンが米粒程度にしか見えない程の距離なのに、的確に当て続ける。
 さすが、最強の狙撃手。腕は錆び付いていないようだ。

 詠歌が女神に望んだ願いは『空気を読めるようになりたい』というものだった。
 何を思い望んだのかは分からないが、遥に並び牧歌的な願いだ。
 女神はそれを、『離れた空間を把握する能力』として詠歌に授けた。

 そこに『万物を司る指先パンドラ』の誠が作成したドラゴンイーターを装備する事で、素朴な願いは二キロ先の超長距離狙撃を連射出来る能力へと姿を変えた。
闇を見透す第三の瞳ヘイムダルバレット
 楓に並んで長距離最強の加護である。

 ワイバーンもまさかこの距離で攻撃されるとは思わなかっただろう。
 この世界の弓の射程は精々百メートル、魔法でも普通は一キロも届かないのだ。
 その二倍の距離から的確な狙撃をされた経験などある筈も無い。
 ドラゴンイーターが火を吹く度、ワイバーンが成すすべもなく撃墜されていく。

 幸い、大物もいないようだ。
 このまま嬉々としている詠歌に任せてしまっても良いが、そこそこ時間がかかるだろう。
 ついでに、スイッチが入っている奴が他にも一人いる事だし、そちらに任せるとするか。

「ふはははは!! 我が魔力の真髄を見せてやろう!!」

 空を覆い尽くすかのようの巨大な魔方陣を展開し、楓がわらう。
 ああ、こいつもこいつで、ストレスを溜め込んでいたんだろうか。
 その姿はとても凄い生き生きとしている。

「さあ讃えよ、我が闇の力を!!」

 発光。極彩色のビームがワイバーンの群を薙ぎ払った。
 遅れてくる轟音。そして高笑い。

 おう、跡形もないな。相変わらずの火力だ。
 しかし、闇の力と言いながら極彩色のビームを撃つのは中々シュールである。


「すごい……」

 その光景を見て呆然とするリリアと。


「……私の出番が無くなりました」

 不満げな顔の詠歌。こちらはどうやら不完全燃焼らしい。

「あぁ、お疲れさん。何と言うか……まあ、諦めろ」
「不服です」

 とぼとぼと肩を落として船内に戻って行く。
 たぶん、司のところにでも行ったのだろう。
 今度何か埋め合わせをしてやるとしようか。

「楓も、お疲れさん。楽しそうだったな」
「……うん。少しだ、け」

 既に通常モードに切り替わり済のようだ。
 はにかむ楓の頭を撫でてやる。
 これが英雄の戦いだよな、等と思い、未だに呆けているリリアに思わず苦笑した。
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