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エンカウント率バグってねーか?
しおりを挟む夕方までナインと観光デートした後、帰りは大通りを抜けるだけだったのでナインの店の前で解散となった。
今日の夕飯は何かなー、なんて事を考えながらのんびりと道を行く。
思いがけず楽しい一日を送ることが出来たな。ナインの実態も知ることが出来たし。
でもいくら恥ずかしがり屋だからってあのロボはどうにかならないんだろうか。
お店を経営していく上でマイナス要素でしかない気がするんだけど。
「……あれ?」
そんなことを考えていると、ふと行く先に知ってる姿を見つけた。
背の高い金髪に貴族風のイケメン。間違いない、ジークだ。
あっちは仕事終わりかな?
「おっす。お疲れさん」
「おう、ありがとよ」
近寄って声をかけると笑い返してきた。
けどなんか、疲れてるっぽい?
「何かあったの?」
「いや、今日は勇者様が遊びに来ていてな。対応に追われて大変だった」
「ありゃ、そうなんだ」
そういや勇者と魔王って仲が良いって言ってたな。
……ジークの疲れ方的に普通の人じゃないんだろうなー。
「んじゃちょっと飲みに行く? 付き合うわよ?」
「は? いや、お前酒飲めるのかよ」
「知らん。たぶん大丈夫じゃない?」
状態異常無効化持ちだし。
「……んじゃちょっと付き合え。奢るから」
「割り勘ならいいわよ」
「うるせぇ無職。いいから着いてこい」
無職て。いや間違ってはないけどさ。
でももうちょい言い方あんじゃね?
ジークの後を着いていくと、大通りから少し外れたお店に辿り着いた。
中は活気で満ち溢れていて、何とも楽しそうだ。
ジークはそのまま入口を通って近くの席に着くと、駆け寄ってきたお姉さんに指を二本立てて見せた。
「ソーセージの盛り合わせを二人分と……リリィ、何飲む?」
「任せるわ。よく分かんないし」
「じゃあエールとミードを頼む」
「はーい! すぐお持ちしますね!」
パタパタと走り去っていくお姉さんを見送って、改めてジークと向かい合う。
うーん。やっぱりイケメンだなー。
白馬の王子様役とかめっちゃ似合いそう。
うわ、まつ毛ながっ。こんな綺麗な顔してんのに性格が雑なの勿体ないなー。
「なんだ、なにか着いてるか?」
「目と鼻と口」
「ふっ……子どもかよお前」
よし、ようやく笑ったなー。
こいつに辛気臭い顔は似合わないと思うんだよね。
……て言うか、真面目な顔されるとちょっと照れるんだよ。
「はぁーあ……疲れた。久々にくたびれたわ」
「お疲れさん。そんなに大変だったの?」
「二人とも悪い人じゃないんだが、二人揃うと手が付けられなくてな。今日もまるで嵐みたいだったな」
あれ、なんかイメージと違うんだけど。
魔王って冷酷非道とか言ってなかったか?
「ね、魔王と勇者ってどんな人なの?」
「馬鹿野郎、様を付けろ……魔王様は普段は物静かなんだが、勇者様がいる時はスイッチ入るんだよ」
「スイッチ?」
「言いたかねぇが、アレだ。めちゃくちゃ重くなる」
「……は?」
重い? なにが?
「勇者様の為なら世界を滅ぼしても良いとか言い出すからな。有言実行しようとするから止めるのが大変なんだ」
なんつー迷惑な。重いってそういう事かよ。
そりゃたしかに重いわ。
「勇者様は周りの目なんてお構い無しな人だから歯止め役がいないんだよ。今日は大臣が居てくれたからまだマシだったけどな」
「え、アメジストたん?」
聞いては居たけど本当に凄いんだなあの子。
さすが大天使。今度褒めてあげよう。
「たんって……お前マジで不敬罪食らうぞ」
「本人の許可は得てるから良いのよ。友達だし」
「今更だけどお前の交友関係おかしくねぇか?」
「まー否定はしない」
そもそもスタートが最高神だもんなぁ。
昨日性欲に負けかけてガン泣きしてたけど、アレでもお偉いさんなんだよなアイツ。
「お、きたきた。ほれ、お前の分」
「あんがと。んじゃ、いただきます!」
運ばれてきた小さめなジョッキに同時に口をつける。
うわ、あまっ。正に蜂蜜のお酒だわ。ミードってこんな味なのか。
これは結構好きかもしんない。ちょっと雑味があるけど、それはそれで良いな。
続いてソーセージにフォークを刺すと、パリっと良い手応え。
噛むとパキりと気持ち良い音がして、口の中に肉汁がじゅわっと広がる。
この癖のある旨みがたまらない。思わずミードを流し込み、ぷはぁと大きく息を吐き出した。
うっま。お城の食堂みたいなご飯も良いけど、こういうジャンクなご飯も中々いけるな。
つーかほんと、日本にいた頃より美味いもん食べてる気がするわ。
「お前、ほんと美味そうに食うよな」
「だって美味しいんだもん」
「まぁこの店は隠れた名店だからな。お偉いさんもたまにお忍びで来てたりするぞ」
「いや、あんたもお偉いさんでしょうが」
魔王の近衛兵って十分エリートじゃん。
あ、そう考えるとジークってエリートイケメンなのか。性格も絡みやすいしモテそうだよなー。
私的にはBLの素材でしか無いけどな。
……ん? てかなんか、奥の方が騒がしいな。
「ジーク、喧嘩かな?」
「いや、そんな感じじゃ……げっ。マジかよ」
「え、何?」
眉根をひそめて小声でうめくジークに顔を寄せると、思いがけない事を言われた。
「……こっそり帰るぞ。勇者様が来てる」
「うわぁ。了解、場所変えようか」
さっき言ってた嵐の片割れじゃん。そりゃ巻き込まれない内にお店を出た方が無難だわ。
あ、でも勿体ないからソーセージとミードはこっそり持ち帰るか。
インベントリに器ごと入れて、今度器を返しに来よう。
そんな悠長な事をしていたせいで、気付くのが遅れた。
「リリィ!」
破砕音、叫ぶジーク。振り向くと、吹っ飛んでくる知らないおっちゃんとテーブルの姿。
避けられない、と思った瞬間、体が勝手に動いた。
放物線を描く巨体、その腕を掴み、力を外側に流す。
飛ぶ力を遠心力に変えてぐるりと回り、勢いを殺して床へ。
同時に足を振り上げ、テーブルを垂直に蹴りあげる。
縦に回転して私の目の前に足から落ちてきたテーブルに手を置き。
やべぇ、やらかした。
多分これ『格闘』スキルだな。確かに危険から身を守ることはできたけど、やばくね?
シンと静まり返った酒場が、瞬時に湧き上がる。
しまった、と思いジークに目をやると、ぽかんとした顔でこちらを見ていた。
あ、そうか。こいつも私のスキル知らないんだったわ。
これは言い逃れ出来そうにないな、なんて思ったのも束の間。
「うわぁすごっ! ねぇキミどこの子っ!? ちょっと私と遊んでくれないっ!?」
燃えるような赤い髪をなびかせて。
『元気』を擬人化したような美少女が、瞬く間に目の前のテーブルの上に飛び乗ってきた。
愛嬌たっぷりの顔には好奇心がありありと浮かんでいて、大きな赤い目はランランと輝いている。
再びジークに目をやると、今度は顔を手で覆っていた。
あ、やっぱりそういう展開?
「……一応聞きますけど、どちら様ですか?」
「私は最強無敵の勇者様っ! その名もフレア・ヴォルケイノっ! よろしくねっ!」
堂々と腰に手を当てて薄い胸を張り。
噂の勇者様は無邪気に笑って言った。
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