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3. これも、美味いっすね。なんちゅうお菓子なんだべか

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 アーヴァイン家のダンスホールはお屋敷の3階にある。白を基調にしたその部屋には豪華なシャンデリアが釣り下がっている。

 アーヴァイン家はここら一帯の大地主であり、地元の地主を集めたホームパーティーが盛んに開催される。

 パーティーでは縁談や政治的な話、また領土に関する悩み事から領土拡大のアドバイスまで有意義な会話が繰り広げられる。

 そんな環境で育ってきたカッツアはパーティーが大好きだ。勿論アーヴァインもパーティーは好きだが、小規模のパーティーというのは珍しく両親不在の中パーティーを開く事に気乗りしなかった。

 しかし、久しぶりに帰ってきた大好きな弟のために開催するという主旨であれば問題ないよな、とアーヴァインは一人納得する。
 
 タキシードに無理やり着替えさせられた春男は、ダンスホールに並べられた郷土菓子をつまんでいた。

「これも、美味いっすね。なんちゅうお菓子なんだべか」
「それは、ビーンズディーズという豆のビスケットだ。ビスケットだけどしっとりとしていて、ポロポロと崩れない。貴族達はパーティーでドレスやタキシードが汚れる事を嫌うから、一口サイズだったり、崩れにくいお菓子を好んで食べるのだ」

 タキシード姿の、カッツァとアーヴァインは男前度が爆上がりしている。
 元々端正な顔立ちの二人だが、前髪を上げて額を見せている為、端正な顔立ちに更に磨きがかかる。

 くっきりとした二重に、潤む瞳。形のいい眉に、高い鼻。
 隣で猫背姿でビーンズディーズをがっついている春男の、低身長・高体重・低い鼻・一重の目とは大違いだ。

 正装に身を包んだ使用人のクロークがキャスターワゴンに乗せたブドウ酒を持ってくる。
 シャンデリアの明かりを跳ね返して、ピカピカと輝くグラスは春男がテレビで見た事のあるホストの世界の様だった。

 アーヴァインはキャスターワゴンからグラスを掴むと、春男に手渡す。

「いやー、すんません飲み物まで。グビグビプハーっ、いんやうんめぇ、何てうんめぇ酒なんだこれは。甘口でまるでジュースみてぇだ」
「モトグリフ家の所有するブドウ畑でとれたブドウ酒だ」
「あんれまぁ、畑!? オラの実家もキャベツ農家ですけんど、こんなお屋敷に住んでるしえれぇお金持ちな方なんですね」
「モトグリフ家はここら一帯の大地主だから、お金持ちと言えばお金持ちだな。ちなみに君はそこのご子息なんだよ。とても名誉な事だ」
「いんやー、びっくりしちまいますよね。キャベツ畑から、ブドウ畑に変わるだけでこんなに金持ちなんて。やっぱりブドウの方が高く農協が買い取ってくれるんだべか?」

 農作物の種類の違いでこれだけの富を築いたと勘違いしている春男に、アーヴァインは優しく微笑む。
 きっと家出先で辛い事があったのであろう。そんな弟の身を案じて間違いは修正しない。

「うぃー、マールちゃんよぅ、ひっく。ちゃんと飲んでるかーい。うぃー!」
「……カッツア、またお前は飲み過ぎて」

 ふらふらとした足取りのカッツアをアーヴァインが支える。

「カッツアは酒に弱くてな。その癖、場の雰囲気に飲まれて好き放題飲むものだから困ったものだ」
「困ってなんていましぇんよ。俺様は困ってなんかおりやしぇぇん」
「いや、大丈夫っすかお兄さん?」

 心配そうに近寄る春男にアーヴァインが、目を細める。

「ヒック、お、お前は誰だ!」
「え、えぇぇ! ど、どゆ事ですか。さっきお会いしましたでしょう春男です。春の男で春男っすよ」
「ハルオ? 知らねぇなぁー、ひっく」
「カッツア、悪酔いしてマールに絡むな」

 支える兄を振りほどき、千鳥足でカッツアは春男に近づく。
 ここで、けたたましいブザー音が鳴り響く。

――バッドエンドルート分岐に入りました。

「え、いや、またっすか。何なんすかこのバッドエンドルート分岐っちゅうのは」

 美しい容姿を歪め、カッツアが言い放つ。

「ムチムチとしたいい肉付きしやがって。俺様をさそってるんだろう? ヒック。なぁ、ケツくれよ」
「え。えぇぇ!! 何かまた、おかしな弟さんだわこりゃ。そんなケツなんて揉まれたら屁こいちまいますよ」
「屁? ヒック、最高じゃねぇか。俺様はなそうゆうのが大好物なんだよ」
「え、えぇぇぇ! あんれ、こりゃまたぶったまげた。いんや、まんず面白い弟さんだこと。見た目に似合わず特殊性癖な方なんですね。いんや世の中色んな人がいるもんなんだなぁー」

 ここで、時間が止まる。カッツアの浅黒く筋肉質な腕が、春男の尻を揉むその寸前でピタっと動きが止まる。

――カッツアの尻揉みを受け入れますか?

 春男の目の前に【はい】【いいえ】の選択肢が浮かび上がる。

「いんや、男に尻を揉まれても嬉しくなんかねぇっすけども。でも、こんな男前さ顔して特殊性癖だなんて可哀想な気もするんですわ」

――それは尻揉みを許容するという事でよろしいですか?

 機械音声が無慈悲に春男に問いかける。

「いんや、でもそうゆう事になりますよね。それに俺屁をこくのは得意ですし、こんな俺で役に立てるならいいっすよ」

――それでは、はいをタッチして下さい。

 春男は【はい】を肉付きの良いぷにぷにした指先でタッチする。
 止まっていた時間が再び動きだし。

「久しぶりだぜ。ケツを揉むのはよ、ヒック」

 と、恍惚とした表情のカッツアに尻を揉まれる。

「う、ぶははっ、くすぐってぇ、ぐへへっ」

 ブーっと、下品な音を立てて春男の尻から空気が排出される。

「うわ、臭っ!」
「うっ!」

 あまりの悪臭に、カッツアとアーヴァインは気を失いその場に倒れ込む。
 少し離れていた所にいた使用人のクロークも時間差で気を失い倒れ込む。

「いや、どうしちまったんですか! あんた達どうしちまった! おい、起きてくれねし!」

 春男の必死な問いかけにも応答がない。しかし、危機的状況の様に見えて実は春男の選択は正しかったのだ。

 先程の選択肢で【いいえ】と答えた場合、気分を害したカッツアが酔った勢いで暴れ出し、それを止めに入った兄のアーヴァインはカッツアに突き飛ばされてバランスを崩し、キャスターワゴンの角に後頭部をぶつけて失神してしまう。

 それを好機と、カッツアは春男をモトグリフ家の倉庫にもなっている地下室に連れ込み、一晩中屁をこくように強要する凌辱バッドヘンドになってしまう所だったのだ。

 春男はまたしても無意識にバッドエンドを回避したのである。
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