白夢の忘れられた神様。

sasara

文字の大きさ
上 下
5 / 12

5日目 白いあざと種

しおりを挟む
今日は、ひと眠りはお預けだ。本棚の下にあったノートは、一つじゃなかった。
残りのノートもキイナが帰ってくる前に見てしまうことにしたのだ。

書き始めは、キイナがまだ学校というところに行っていたころから、
今まで書き続けているらしい。キイナは、今22歳だ。
ノートの内容は、大体苦しかったことや、悲しかったことが書いてあった。
分かったことは、あのあざが原因で人と関わることが怖くなってしまったということ。
そして、そのあざがキイナの体に現れたのはその読めない文字の力が使えるように
なってからのようだった。最近のことを書いたノートもあった。

今日ネコを拾った。体に白い模様があるネコを見たとき同じだと思った。
綺麗とは言えない模様だけど、体に触れたときまだ温かいそのネコを見たとき
ハクという名前を付けようと思った。ハクといればこの苦しさが晴れる気がする。
なんて、人間のエゴで拾われるなんて知ったら嫌われてしまうかな?

キイナは、あの時、きっと寒かったのかな。
一人でいるにはきっと寒すぎたから私を拾うことにしたんだ。
それはきっと奇跡だ。あの白い雪が降った日。
白いあざを持つキイナと白い模様がある私が出会ったのは。
そう思うと長く生きてきて初めて神様というものに感謝したくなった。
何度も生ま変わっても、その時の記憶までも持ってくることはできない。
役割と自分のことについてだけ覚えたまま。でももし本当に神様がいるのなら、
今も神様がいるのなら、過去の私の生きてきた時間にもキイナがいてくれたら
いいな。なんておかしいことを妄想して、私は、ノートを閉じた。

まだ時計の針は、12の所にある。
今日は外に出て人間を探すことにしていた。
種を植えるためのキイナ以外の人間。
外に出てまず周辺を歩いてみることにする。
塀に上ってしまえば辺りが見やすい。たくさんの人間とすれ違う。
種を植えるのは、誰でもいいわけじゃない。種を植えても対応できないからだ。
対応できる人を探す。その条件は、肌の色が、白いこと。
人間には、生まれつきの肌の色がある。その色が黒い人間には、なぜか対応しなのだ。
しばらく歩いていると肌の白い男を見つけた。
この時間に歩いてるなんて、キイナは、お仕事に行っているのに。
キイナに会えない寂しさが急に込み上げてくる。よし、こいつにしよう。
しばらく後をつけてみることにした。
その男は、特に周りを見るわけじゃなくただ歩いているように見える。
本当にこの時間に何をしているんだ。その男に興味があるわけじゃない。
ただ、種を植えるには、少しは、理解してやらないとさすがに可哀そうに思えるからだ。
私たちのしょうもない呪いを解くためにこの男は、命を取られるのだから。

かなり長い間、後をついて行ってみたが、なにも情報は得られなかった。
ふと、塀の内側の家の時計をのぞいてみると5の所に来ている。
そろそろ家に戻ろう。幸い長い時間歩いてはいたが、その男は、同じような
所をぐるぐるしているだけで、キイナの家からは、そんなに離れていなかった。

また明日あの男を探してみよう。

家についてからは、外に出たことがばれないように
食べ物と水を減らして、いつもの定位置で、キイナを待った。
今日は、すごく疲れた。早くキイナに会いたい。

足音が近づいてくる。私は、帰ってきたキイナに飛びついてあげた。
今日は、キイナも機嫌がいいみたいだ。
一緒にご飯を食べて、お風呂から戻ってくるまで、お風呂の前で待って、
キイナの後をずっとついて回った。
さて、もう眠る時間だ。キイナの布団に入ろうとすると体が宙に浮いた。

ハクさん、私はね、知ってるのだよ。

そうキイナは、少し意地悪な顔をして口にする。
嫌な予感がする。

ハクさん?君は、今日お外に出ましたね?足の裏が真っ黒ですよ。

そう言って洗面台に乗せられ、足の裏を丁寧に拭いてくれた。
なんだ。またお風呂に入れられるのかと思った。
今度からは、外に出たら足の裏は、拭いておこう。
キイナは、まったく怒ってないようで、足の裏を拭いてからは、
私をキイナの布団まで連れて行ってくれた。
今日は、あいつに会ってない。いい日だ。


今日ね、いいことがあったの。

キイナが今日のことを教えてくれるのは、とても嬉しい。
私は、キイナの腕に引っ付いて話を聞くことにした。

私はね、お仕事に行っても誰かとお話は、しないの。
ほら、面倒だから。
でもね、今日はね、彼が珍しく話しかけてきてくれたの。
会社で話しかけてくることなんてないんだけど。今度の休みに出かけようって。
すごく久しぶりなんだよ。彼お仕事忙しい人だから。
でもね、彼ね、このあざを見てもちっとも驚かないの。
すごくいい日だったなぁ。早く休みにならないかなぁ。

そう楽しそうに笑顔で、話すキイナは、やっぱり綺麗だ。
でも、なんだか胸が苦しい。それに腹が立つ。
彼ってなんだ。私がいるのに。そりゃ、ネコだけど。
そう思うと余計に腹が立ってきて、キイナの布団から出ようとした。
キイナの手が優しく私を布団に戻すものだから仕方ない。
ここは、私が、大人になることにした。
違う。暖かいからとか、キイナの横でないと眠れないわけじゃないからな。
ん?誰に言い訳してるんだ。そう頭の中で、一人思いながら、
キイナの布団で今日も眠った。暖かく優しい匂いに包まれるこの夜が
続いてほしい。今度神様に会うことがあったら、そう願おう。

しおりを挟む

処理中です...