Secret DarkMonster

sasara

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Secret DarkMonster 5

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みさきさんの目が私をみる。真っ直ぐに、私を突き抜けて壁に刺さってしまうかのように、暗くて光るはずないその目がとても宝石のようで思わず、頬に手を伸ばした。すべすべしていて、柔らくてそのまま首筋まで撫でる手を下ろす。その間私もみさきさんから目をそらせなかった。みさきさんの目には今私が映っている。それ以外なにも入ってないことが嬉しくて私は微笑んだ。それにつられてみさきさんの唇が横に広がった。みさきさんの目が私の唇が移った。私は私を見て欲しい気持ちが強くなり、その視界に無理やり入るように、みさきさんの唇に私の唇を重ねた。少し大きくなる目が、可愛くて。柔らかくて少し薄い唇がとても気持ちよくて、何度も私はみさきさんにキスをした。

ふと、まぶたを開くと、ぎゅっと瞑っている目が、可愛くて、どんな顔をしている気になったので、キスをやめ顔を離してみる。

頬を赤くして、少し涙目で、嬉しそうで。
私はこの目の前にいる一生懸命に感情を伝えてくれるみさきさんを、よく食べて、よく呑んで、たくさん笑う子どものようなみさきさんを、時々ものすごく寂しげに大人っぽく笑うみさきさんを、傷つけたくないと思った。

ねぇ?どうかした?
酔いも冷めたみさきさんが、それは、もう寂しげな顔で覗き込んできた。

みさきさん、今のキスで、私はみさきさんに触れました。だけど、私はきっと、みさきさんの隣にいてあげられない。今触れたのはみさきさんの表面であって、私はみさきさんの心に過去に、未来に触れる勇気も資格もない。私はみさきさんと恋人同士になるための何も持ってない。ごめん。

そう伝え、私は仕事の支度だけを済ませて、家を出た。

きっとあのままあそこにいたら私はなにも考えずみさきさんに触れていた。だけど、私の*普通にみさきさんを、巻き込むことが私は怖い。これは、私だけの*普通なことを私は知っていた。世間一般的には普通じゃないことも。
好きだと言う感情の種類があって、友達としての好きという感情と、私の場合、女性に対して恋愛感情を持つ好き。その見極めはかなり難しくてハッキリどちらか分かることは少ない。だけど、きっと私はみさきさんを恋愛感情としての好きになるだろう。みさきさんの過去に未来に触れて、嫉妬したり期待したり守りたいと、守られたいとそう思うだろう。みさきさんが見せてくれるたくさんの感情を受け止めたいと、全てを知りたいと欲深くなってしまう。私にはそれがとてつもなく怖かった。

少し車を走らせ、コンビニの駐車場で眠ることにした。みさきさんから離れたはずなのに、少し早い心音は、私の中からも聞こえた。それを落ち着かせるように丸まって私は朝を迎えた。

職場に向かう前に私はみさきさんに、勝手に家を出たこと、話があるから家で待っていて欲しいことLINEで伝えた。
みさきさんと久しぶりに出会って、まだ3日しか経ってないのに、とてつもなく長く一緒にいたように感じる。それほど、みさきさんは私に無いもの、たくさんたくさん私に見せてくれた。だから、私はきちんとみさきさんに伝えなければいけない。

仕事を終え、逃げたい気持ちを見ないフリして足早に帰宅する。ドアを開けるといつもはしない人の気配、食事が待つ香り、お風呂場からするお湯のでる音。
私の心がぎゅっと掴まれる。苦しくなった。

なれないスリッパでパタパタとおとを立てるみさきさんが私に近づく。怖くて顔が見れない。だけど私はいたって普通の顔でみさきさんを見てみた。
思ってる顔とは違った。

とてつもなく素直に彼女は笑顔だった。
私の帰りを素直に待っていたことを楽しみに待っていたことが分かるような笑顔だった。
なぜ、そんな笑顔ができるのか、私には全くわからなくて、だけど苦しくて泣きそうになった。抱きしめたくなる。何も考えずに、ただ私なりの精一杯の言葉と笑顔を彼女にあげたかった。それでもそんなことは、できない。きちんと話さなければならない。
私は。

待っていてくれてありがとうございます。

そう言って部屋に入っていく。その後ろをみさきさんはついてきた。見なくてもわかる。きっと悲しそうに笑ってくれていること。でも振り返らなかった。
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