5 / 11
Secret DarkMonster 5
しおりを挟むみさきさんの目が私をみる。真っ直ぐに、私を突き抜けて壁に刺さってしまうかのように、暗くて光るはずないその目がとても宝石のようで思わず、頬に手を伸ばした。すべすべしていて、柔らくてそのまま首筋まで撫でる手を下ろす。その間私もみさきさんから目をそらせなかった。みさきさんの目には今私が映っている。それ以外なにも入ってないことが嬉しくて私は微笑んだ。それにつられてみさきさんの唇が横に広がった。みさきさんの目が私の唇が移った。私は私を見て欲しい気持ちが強くなり、その視界に無理やり入るように、みさきさんの唇に私の唇を重ねた。少し大きくなる目が、可愛くて。柔らかくて少し薄い唇がとても気持ちよくて、何度も私はみさきさんにキスをした。
ふと、まぶたを開くと、ぎゅっと瞑っている目が、可愛くて、どんな顔をしている気になったので、キスをやめ顔を離してみる。
頬を赤くして、少し涙目で、嬉しそうで。
私はこの目の前にいる一生懸命に感情を伝えてくれるみさきさんを、よく食べて、よく呑んで、たくさん笑う子どものようなみさきさんを、時々ものすごく寂しげに大人っぽく笑うみさきさんを、傷つけたくないと思った。
ねぇ?どうかした?
酔いも冷めたみさきさんが、それは、もう寂しげな顔で覗き込んできた。
みさきさん、今のキスで、私はみさきさんに触れました。だけど、私はきっと、みさきさんの隣にいてあげられない。今触れたのはみさきさんの表面であって、私はみさきさんの心に過去に、未来に触れる勇気も資格もない。私はみさきさんと恋人同士になるための何も持ってない。ごめん。
そう伝え、私は仕事の支度だけを済ませて、家を出た。
きっとあのままあそこにいたら私はなにも考えずみさきさんに触れていた。だけど、私の*普通にみさきさんを、巻き込むことが私は怖い。これは、私だけの*普通なことを私は知っていた。世間一般的には普通じゃないことも。
好きだと言う感情の種類があって、友達としての好きという感情と、私の場合、女性に対して恋愛感情を持つ好き。その見極めはかなり難しくてハッキリどちらか分かることは少ない。だけど、きっと私はみさきさんを恋愛感情としての好きになるだろう。みさきさんの過去に未来に触れて、嫉妬したり期待したり守りたいと、守られたいとそう思うだろう。みさきさんが見せてくれるたくさんの感情を受け止めたいと、全てを知りたいと欲深くなってしまう。私にはそれがとてつもなく怖かった。
少し車を走らせ、コンビニの駐車場で眠ることにした。みさきさんから離れたはずなのに、少し早い心音は、私の中からも聞こえた。それを落ち着かせるように丸まって私は朝を迎えた。
職場に向かう前に私はみさきさんに、勝手に家を出たこと、話があるから家で待っていて欲しいことLINEで伝えた。
みさきさんと久しぶりに出会って、まだ3日しか経ってないのに、とてつもなく長く一緒にいたように感じる。それほど、みさきさんは私に無いもの、たくさんたくさん私に見せてくれた。だから、私はきちんとみさきさんに伝えなければいけない。
仕事を終え、逃げたい気持ちを見ないフリして足早に帰宅する。ドアを開けるといつもはしない人の気配、食事が待つ香り、お風呂場からするお湯のでる音。
私の心がぎゅっと掴まれる。苦しくなった。
なれないスリッパでパタパタとおとを立てるみさきさんが私に近づく。怖くて顔が見れない。だけど私はいたって普通の顔でみさきさんを見てみた。
思ってる顔とは違った。
とてつもなく素直に彼女は笑顔だった。
私の帰りを素直に待っていたことを楽しみに待っていたことが分かるような笑顔だった。
なぜ、そんな笑顔ができるのか、私には全くわからなくて、だけど苦しくて泣きそうになった。抱きしめたくなる。何も考えずに、ただ私なりの精一杯の言葉と笑顔を彼女にあげたかった。それでもそんなことは、できない。きちんと話さなければならない。
私は。
待っていてくれてありがとうございます。
そう言って部屋に入っていく。その後ろをみさきさんはついてきた。見なくてもわかる。きっと悲しそうに笑ってくれていること。でも振り返らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる