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第一章
君の脈
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あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
君の脈は今でも僕の中に流れているようだ。君と過ごしたあの日々が僕の中でこだまする。もう、することもない。このまま朽ちていくのを待つだけだ。この暗くて、冷たいコンクリートの上で、ただただ時が流れるのを見ているだけの今に溶けそうになる。
何度も死のうとした。その度に失敗して、「お前には死ぬ権利もない」と言われているようだった。そしてときどき暗闇の中に時折見える幻影を追う。
「ねぇ、快叶。ここの景色、綺麗だよ!それにこのコンクリートの床、ひんやりしていて気持ちいいし、ここ、良くない?」
ふと幻影に手を伸ばすもサッと消えてしまう。それがどうも孤独の輪郭をよりはっきりとさせ、消えたくなる。会社も捨てて、ただただ残った家の隅で君を想う。君はもうここにはいないというのに、君を探してしまう。
あぁ陽輝、僕は本当に馬鹿者だ。君は、あんなにも愛してくれていたのに、それにも気付かず、他のものに気を取られ、君を忘れてしまった。そんな僕に、君を想う資格はあるのだろうか。
後悔のあまり、ここでずっとうずくまっている僕を、君はどう思うだろう。しかし想えば想うほど、そこに居る気がしてならない。今もタルトタタンを焼いている匂いのような、そんな匂いがしてくる。
タルトタタン。それは君が初めて作ってくれたスイーツだった。その時のタルトタタンは少し焦がしていたが、りんごにある少しの酸味がキャラメリーゼで出てきた甘さに乗っかって、タルト生地によくあった。
それからも、たくさんのスイーツを作ってくれた。マカロンや、パンケーキ、マフィンなんかもたくさん作ってくれた。今ではその殆どを食べなかった事をこんなにも後悔している。結局食べたのは君が最初に作ったタルトタタンだけ。残していったタルトタタンも一口も手をつけずに捨ててしまった。
「最後に食べておけば良かったな………………」
辛い。君がいない今が辛い。星空のようにキラキラした瞳が、夜桜のように美しいその顔がもう見れない事がこんなにも辛いだなんて。こんな事ならもっと大切に、もっと愛せれば良かった。
今頃後悔してももう遅いというのに今日もしてしまう。このまま消えていたい。誰にも見られず、知られず、消えていたい。
「ん?誰も居ないのか?」
誰だろう。誰でもいいや、強盗でもなんでも好きにしたらいい。どうせ僕には何も残ってない。
「うわっ!快叶?!こんなとこにいた!もう何ヶ月も誰も姿を見てな………」
何故………来た……………?
「お前何も食ってないだろ!しかも臭いぞ、まさかずっとそこにいたのか?ひとりで?どおりで電気もつかないし、火もつかない訳だ。」
「かえ…………れ………」
頼むから帰ってくれ。1人に………して…………く………れ………
「快叶!!」
◆◇◆
ここ………は………?
眩しい。眠い、それに………ここは………家ではない。
帰る………か。
そのまま立ち上がるも足がふわふわしてバランスが取れない。バタンと音を立てて倒れるのと同時に扉が開く。そこには古い好のある花里 楓詩がいた。
「何してんの?とりあえずそのままベッドにもどれ。それからここは病院だ。」
そうしてベッドに戻された。ここに陽輝は居ない。なら早く帰らないと。陽輝に逢いたい。あそこなら陽輝がいるはず。僕の……陽輝が………いる………はず………だった。
あれだけ流し続けた涙はまだ留まることを知らない。瞳からポロポロと雫が落ちる度に、胸が苦しくなる。きっと、この先もこの傷は癒えない。癒えてはいけない。
それだけが陽輝を感じる事が出来る唯一の方法だから。
一頻り涙を流し、落ち着くのと同時に楓詩が話を始めた。
説教から始まる声が嫌に染み込む。まるで、今ここにいることを、正当化してくれるかのような、その言葉が、呪いのようにドロドロと足に纏わりつく。
重々しくかつ今にも呑み込まれそうで、藁にもすがる思いになりながら、言葉を受け止めていく。
しかしその言葉は僕の願う方向とは真逆を向いていて、絶望の渦の中に引き込まれて、濁りそうで、鉛のように重い。
もう、抗う力すらない僕が耐えられる事はなく、溺れていく感覚が胸を締め付け、ズルズルと引きずり込まれる。
◆◇◆
始まりはあの時、陽輝と初めて出会い、初めて世界に絵の具が落ちた。陽輝は、笑顔を振りまく度に、花を咲かせるようなそんな人だった。
そんな宝石を手に入れたくて、無理やりにでも奪い取った。周りを蹴落とし、金という暴力を振るい、財閥の名を行使し、痛めつけた。陽輝が僕なしで生きられないくらいに。
でもそれだけじゃ足りなかった。きっと、本物の愛だったけど、それは自然に生まれた美しい物ではなかった。金の力で植え付けたドロドロに濁った愛。だから満足することはなく、馬鹿な僕は別の者にも手を出し、もはや陽輝の事など忘れていた。
その間陽輝はどれだけ辛かったのだろう。僕にしか頼れないのに、僕が目を背け、あしらい続けた。
僕には想像もつかないほど苦しかっただろう。家族も友人も僕が引き剥がして、何も出来なくした。だから出て行って、新しい人生を謳歌しようと思ったのだろう。それを僕は一時の我儘だと、気を衒っただけだと、気にもしなかった。
気づいた頃にはもう取り返しのつかない事になっていた。乗っていたタクシーが事故を起こし、そのまま爆発し、それに巻き込まれた陽輝は死んだ。
それは4月1日、エイプリルフールだった。最初はタチの悪い嘘だと放置した。それが後になって真実だと知り、初めてこんなにも陽輝が大切だと気づいた。あまりにも遅すぎたんだ。死んで初めて気づく大切に自分が嫌いになった。それからは自殺未遂を繰り返し、陽輝の幻影を追い続けた。カウンセリングを勧められたりもしたが、全て断った。
◆◇◆
僕は救われてはいけない。救われたとしても、陽輝は戻って来ない。なら、この罪を背負ったまま、ひとりで消えていたい。何もせず、ただただ消えて、世界から離れて、陽輝と永遠を過ごしていたい。
だから僕に楓詩の言葉は響かないし、死ぬのを諦めない。
全ては、陽輝のために………
君の脈は今でも僕の中に流れているようだ。君と過ごしたあの日々が僕の中でこだまする。もう、することもない。このまま朽ちていくのを待つだけだ。この暗くて、冷たいコンクリートの上で、ただただ時が流れるのを見ているだけの今に溶けそうになる。
何度も死のうとした。その度に失敗して、「お前には死ぬ権利もない」と言われているようだった。そしてときどき暗闇の中に時折見える幻影を追う。
「ねぇ、快叶。ここの景色、綺麗だよ!それにこのコンクリートの床、ひんやりしていて気持ちいいし、ここ、良くない?」
ふと幻影に手を伸ばすもサッと消えてしまう。それがどうも孤独の輪郭をよりはっきりとさせ、消えたくなる。会社も捨てて、ただただ残った家の隅で君を想う。君はもうここにはいないというのに、君を探してしまう。
あぁ陽輝、僕は本当に馬鹿者だ。君は、あんなにも愛してくれていたのに、それにも気付かず、他のものに気を取られ、君を忘れてしまった。そんな僕に、君を想う資格はあるのだろうか。
後悔のあまり、ここでずっとうずくまっている僕を、君はどう思うだろう。しかし想えば想うほど、そこに居る気がしてならない。今もタルトタタンを焼いている匂いのような、そんな匂いがしてくる。
タルトタタン。それは君が初めて作ってくれたスイーツだった。その時のタルトタタンは少し焦がしていたが、りんごにある少しの酸味がキャラメリーゼで出てきた甘さに乗っかって、タルト生地によくあった。
それからも、たくさんのスイーツを作ってくれた。マカロンや、パンケーキ、マフィンなんかもたくさん作ってくれた。今ではその殆どを食べなかった事をこんなにも後悔している。結局食べたのは君が最初に作ったタルトタタンだけ。残していったタルトタタンも一口も手をつけずに捨ててしまった。
「最後に食べておけば良かったな………………」
辛い。君がいない今が辛い。星空のようにキラキラした瞳が、夜桜のように美しいその顔がもう見れない事がこんなにも辛いだなんて。こんな事ならもっと大切に、もっと愛せれば良かった。
今頃後悔してももう遅いというのに今日もしてしまう。このまま消えていたい。誰にも見られず、知られず、消えていたい。
「ん?誰も居ないのか?」
誰だろう。誰でもいいや、強盗でもなんでも好きにしたらいい。どうせ僕には何も残ってない。
「うわっ!快叶?!こんなとこにいた!もう何ヶ月も誰も姿を見てな………」
何故………来た……………?
「お前何も食ってないだろ!しかも臭いぞ、まさかずっとそこにいたのか?ひとりで?どおりで電気もつかないし、火もつかない訳だ。」
「かえ…………れ………」
頼むから帰ってくれ。1人に………して…………く………れ………
「快叶!!」
◆◇◆
ここ………は………?
眩しい。眠い、それに………ここは………家ではない。
帰る………か。
そのまま立ち上がるも足がふわふわしてバランスが取れない。バタンと音を立てて倒れるのと同時に扉が開く。そこには古い好のある花里 楓詩がいた。
「何してんの?とりあえずそのままベッドにもどれ。それからここは病院だ。」
そうしてベッドに戻された。ここに陽輝は居ない。なら早く帰らないと。陽輝に逢いたい。あそこなら陽輝がいるはず。僕の……陽輝が………いる………はず………だった。
あれだけ流し続けた涙はまだ留まることを知らない。瞳からポロポロと雫が落ちる度に、胸が苦しくなる。きっと、この先もこの傷は癒えない。癒えてはいけない。
それだけが陽輝を感じる事が出来る唯一の方法だから。
一頻り涙を流し、落ち着くのと同時に楓詩が話を始めた。
説教から始まる声が嫌に染み込む。まるで、今ここにいることを、正当化してくれるかのような、その言葉が、呪いのようにドロドロと足に纏わりつく。
重々しくかつ今にも呑み込まれそうで、藁にもすがる思いになりながら、言葉を受け止めていく。
しかしその言葉は僕の願う方向とは真逆を向いていて、絶望の渦の中に引き込まれて、濁りそうで、鉛のように重い。
もう、抗う力すらない僕が耐えられる事はなく、溺れていく感覚が胸を締め付け、ズルズルと引きずり込まれる。
◆◇◆
始まりはあの時、陽輝と初めて出会い、初めて世界に絵の具が落ちた。陽輝は、笑顔を振りまく度に、花を咲かせるようなそんな人だった。
そんな宝石を手に入れたくて、無理やりにでも奪い取った。周りを蹴落とし、金という暴力を振るい、財閥の名を行使し、痛めつけた。陽輝が僕なしで生きられないくらいに。
でもそれだけじゃ足りなかった。きっと、本物の愛だったけど、それは自然に生まれた美しい物ではなかった。金の力で植え付けたドロドロに濁った愛。だから満足することはなく、馬鹿な僕は別の者にも手を出し、もはや陽輝の事など忘れていた。
その間陽輝はどれだけ辛かったのだろう。僕にしか頼れないのに、僕が目を背け、あしらい続けた。
僕には想像もつかないほど苦しかっただろう。家族も友人も僕が引き剥がして、何も出来なくした。だから出て行って、新しい人生を謳歌しようと思ったのだろう。それを僕は一時の我儘だと、気を衒っただけだと、気にもしなかった。
気づいた頃にはもう取り返しのつかない事になっていた。乗っていたタクシーが事故を起こし、そのまま爆発し、それに巻き込まれた陽輝は死んだ。
それは4月1日、エイプリルフールだった。最初はタチの悪い嘘だと放置した。それが後になって真実だと知り、初めてこんなにも陽輝が大切だと気づいた。あまりにも遅すぎたんだ。死んで初めて気づく大切に自分が嫌いになった。それからは自殺未遂を繰り返し、陽輝の幻影を追い続けた。カウンセリングを勧められたりもしたが、全て断った。
◆◇◆
僕は救われてはいけない。救われたとしても、陽輝は戻って来ない。なら、この罪を背負ったまま、ひとりで消えていたい。何もせず、ただただ消えて、世界から離れて、陽輝と永遠を過ごしていたい。
だから僕に楓詩の言葉は響かないし、死ぬのを諦めない。
全ては、陽輝のために………
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