JK戴冠

ちゃんの

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第4章 王さま修行 / 教会編

第29話 近いようで遠い街

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 外は快晴だった。日本より少し肌寒い気温だが過ごしやすい。城から伸びる橋を渡り、4人はそのまま街へ踏み込んだ。

 一本道の商店街が真っ直ぐ続いていて、今日もとても賑わっている。人々は髪色も服装も多種多様であり、晴のピンク髪もすんなり馴染むことができた。

「すごーい……!!」

 晴は興味津々で露店の数々を眺めた。 セオシュは少し緊張した表情で晴の横にぴったりと張り付いている。

(私がちゃんと気を付けていなくちゃ……)

 ジルもさりげなく晴を守れる位置につく。一方でカファーは、ワッフルを売る店に目を輝かせていた。

「ここのワッフルすっごく美味しいんだよ~! 食べよう! おばちゃん、ワッフル4つ!」
「あいよお!」

 焼き台からの甘い香りが食欲を刺激する。晴はワクワクしながら工程を見守った。

「はいどうぞ!」
「ありがとう!!」

 ワッフルは割と小さめのサイズで食べやすかった。外はサクサク、中はふわふわ。熱々の出来立ては最高だ。

「あんたは見ない顔だねぇ。新しい友達かい?」

 店主がにこやかに晴のことを尋ねる。晴が何と答えようか考えていると、セオシュがここぞとばかりに精一杯背伸びをして、晴の肩に腕を回しながら誇らしげに答えた。

「私のです」

 一同は目を丸くしたのち、その微笑ましい行動に思わず口元が緩んだ。晴はくすぐったいような気持ちになりながら軽く膝を折った。



 4人はワッフルを片手に先へ進んだ。そこかしこから呼び込みの声が響き、いい匂いが漂っている。

「賑やかでいい町に見えるかもだけど、最近は治安が良くないから気をつけてね」

 気の抜けた顔をしている晴にカファーが忠告した。

「スリもぼったくりもしょっちゅうだよ。さっきのおばちゃんは知り合いだから優しかったけど、晴だけで買いに行ったら2倍の値段で買わされるかも」
「えっ!?」
「みんな、それだけ生きるのに必死なんだ」

 ジルがしんみりと言った。

「この一本道はずっとこんな感じの商店街で、東側に行くと教会があります。反対の西側には……何があっても絶対に立ち入らないでくださいね!」

 セオシュの強い口調に驚いて、晴はワッフル最後の一口を丸呑みしそうになった。

「どうして?」
「西側には『裏通り』って言ってね、こわ~い人たちが住んでいるところがあるんだ。絶対に近づいちゃダメだよ、すごく危険だから」

 カファーが言うとわざとらしく聞こえるが、事実だった。

 『裏通り』は、堂々と暮らすことのできない人々が身を寄せている場所だ。鎧の目もあまり届いていない。そんな地域が王都の一角に存在しているのも問題だが、他に居場所がない人もいるために黙認されているのだ。



「俺はクレープを買ってくる。食べるか?」

 移動販売のクレープ屋に惹かれたジルが尋ねた。晴は頷き、 セオシュは首を振る。

「買ってもらってばかりでごめんね」

 晴が言うと、ジルは得意げな表情で財布を取り出した。

「気にするな。今日は俺たちが晴の財布になる。コワの通貨なんて持ってないだろう?」
「うん……」

 鎧の弟子というのも立派な職業であるために給料が発生する。その上、リグロからお小遣いも出ているのだ。

「カファーは?」
「…………」

 ジルが聞くが、カファーは答えなかった。周囲の人々の話し声に耳を澄ませていたのだ。



『ほら見な、鎧の仲間だよ』
『毎日何をしてるんだか』
『市民のことなんてどうでもいいんだろうね』
『オレたちはこんなところにいるより、リチボマイへ行ったほうが良いんじゃないか?』
『その方がいい暮らしができそうだ』
『いや、あそこは簡単には受け入れてもらえない。教会に行くのがいいよ』
『教会は私たちを受け入れてくれる』
『キレウィ様こそ、私たちの王なのだから……』


(みんな陰口ばっかり、全部聞こえてるんだけど。先生たちのこと何も知らないくせに……)

 鎧の仕事は市民には理解されにくい。わかってはいるが、カファーはずっと不満だった。鎧は皆、尊敬すべき立派な大人たちだ。

(最近は教会の人が増えてると思ってたけど、キレウィ様うんぬんってのはどういう意味だろ……?)



「おい、無視するな」
「いてっ」

 ジルが財布でカファーの頭を小突いた。

「ごめんごめん、なに?」
「クレープ。お前も食べるか?」

 何度も同じ質問を言わされているので、ジルはそっけなく顎でクレープ屋を示した。カファーが平謝りしながら「おれはいいや」と答える。

「ほんとに甘いもの好きだね~」
「甘いものはいくらあっても困らない」

 胸焼けするようなセリフを残して、ジルはクレープを買いに行った。



 クレープを食べながら色々な店を覗いて歩いていると、カファーがよく利用する服屋にやってきた。

「あ、ここで服を見ようよ。晴の服ももっとあったほうがいいだろうし」

 セオシュとジルも賛成し、それぞれ自信満々な様子で頷いた。

「同じ女の子ですし、私がコーディネートしましょう」
「服選びなら俺に任せろ」
「……え~?」

 2人の服は無難なものばかりだ。セオシュは毎回マネキン買いしているし、ジルに至っては同じ服を何着も買って着回している。弟子3人の中で1番ファッションに凝っているのは間違いなくカファーだ。

 カファーが「はいはい」と2人を押さえて晴の手を取った。

「ここはおれの出番だね~。晴、行こ!」
「いらっしゃいませ」

 カファーのセンスは抜群で、指示通りに晴が試着した服はどれもよく似合っていた。

 ひとしきりショッピングを堪能し、ジルは新しいベルト、セオシュはワンピースをカファーに見繕ってもらった。2人もすっかり上機嫌である。晴もたくさん服を買ってもらい、配送サービスに預けた。持ち運ぶには嵩張りすぎる荷物を城まで届けてくれるのでありがたい。



 服屋を出ると、不意にセオシュのポケットが振動した。携帯電話に連絡が入ったのだ。

「あ、すみません」

 セオシュは短い通話で言葉を交わした後、とても残念そうな顔で晴たちに向き直った。

「急な仕事が入ってしまったので、私はここで抜けますね……。いつ終わるかわからないので、続きは3人で楽しんでください」

 城からの呼び出しだ。晴たち3人もガックリと肩を落とした。

「え~っ、そんな……」
「急だな。気をつけて行ってこいよ」
「気をつけてね」

 セオシュは名残惜しそうに頷き、人混みの中に消えて行った。鎧やその弟子という立場の性質上、このような急な呼び出しも珍しくないのだ。



 大通りに戻って歩いていると、だんだんと景色が変わってきた。

「あ、そろそろ『小さな町』だね」

 華やかな商店街が終わり、落ち着いた雰囲気の住宅地に差し掛かってきた。少し先に『小さな町』が見えてきている。晴たちはその手前の十字路で立ち止まった。

「あの町の住民が外に出てくることは基本的にない。住む場所を区別されているからな」

 晴はなんとも形容し難い嫌な気持ちになった。

「その人たちが実験の失敗作だから……?」

 カファーは軽くため息をついた。

「そうだよ。後遺症が残った人は基本的に戦力にならないから城には残れない。施設から直接『小さな町』に移ることになるんだ。……でも、セオはその常識を打ち破ったんだよ!」
「あいつはずっと立派に城で生きている」

 彼らはセオシュという友人が誇らしくてたまらず、隙あらばすぐに自慢する。晴の表情も少し緩んだ。

 晴たちはここで折り返すことにして、城に向かって来た道を戻り始めた。
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