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第4章 王さま修行 / 教会編
第37話 地獄の入り口
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そして、作戦実行の日。
晴、ティナ、リグロ、セオシュ、カファー、ジルの6人は、教会の入口までやってきていた。全員変装はしていないが、望まないトラブルを避けるために晴だけはフードを被っている。ついにそれも外すと思うと、緊張で口から心臓が飛び出そうだった。
教会の敷地は広大だ。高い壁で囲われており、唯一の入口である重々しい門の前には、兵士に弾かれて中に入れない人々がたくさんいた。
「どうしたんですか?」
何度も挑戦し入場を拒まれている女性に晴が声をかけると、彼女は目を潤ませて言った。
「中に父と兄がいるんです。半分連れ去られるようにして教会に行ってしまったの。今ごろどんな目にあっているかも分からなくて、心配で……」
彼女もフィオナと同じ状況なのだ。そして同じ人はこの場にも多くいた。もうこんな悲劇を繰り返させるわけにはいかない。晴の決意はさらに固くなった。
「晴、本当にいいの?」
心配と緊張で硬い表情のカファーが言った。晴はみんなを振り返って目を合わせる。
「大丈夫。万が一襲われても、みんなが守ってくれるから」
とても晴の口から出たとは思えない台詞だった。弟子たちは口をあんぐりと開け、リグロは小さく笑い、ティナは自信満々に胸を叩く。
「もちろんだ」
「……ふっ」
「言うようになったねぇ晴!!」
そう頼られると応えないわけにはいかない。カファーも覚悟を決めた。
門番の前に進み出て、晴がフードに手をかける。深呼吸してフードを取り払うと、以前より少し増えた銀髪の束が露わになった。
「私はボンド王の娘です。中に入れてください」
門番は若い兵士と年配の兵士だ。若い兵士が吹き出し、馬鹿にしたように笑った。
「何言ってんのお前!! そんなんで通せるわけないだろ!!」
「この髪見ても何もわかんねぇのかよ?」
その態度にイラッとしたリグロが言うと、若い兵士は表情を歪め、唾を飛ばしながら悪態をついた。
「んだよおっさん。その髪がなんだってんだよ? あぁ?」
「おっさんて呼ぶな」
しかし若い兵士がそんな調子なのに対し、老兵士は血相を変えて晴の髪を凝視していた。そして絞り出すような声で言う。
「……お前は知らないだろうが、これは王族の髪だ。キレウィ様もこの銀髪を受け継いでいた……」
ボンドが銀髪を持っていなかったので、キレウィの生きた時代にいない若者は銀髪の意味を知らないことも多い。老兵士は門を開くスイッチを押した。
「仕方ない。ザキ様の指示を仰ぐ。通れ」
そして若い兵士に指示を出す。
「お前はザキ様に連絡をしろ。王族の末裔とボンドの鎧が現れたとな」
「はっ、はい!」
無事に第一関門クリアだ。晴たちは恐る恐る中へ進んだ。
中は、地獄だった。
敷地内には、体育館のように大きな聖堂をはじめとして様々な建物がある。庭や道に多くの教徒が行き交っているが活気はなく、重苦しい雰囲気だ。
あちこちで怒号が飛び交い、ゴミが散乱し、地面に血が飛び散っている。何より晴を震え上がらせたのは、あちこちにボンドの顔写真が貼られていて、それらに大きくバツ印がしてあったり、破かれていたりすることだ。
「ひでぇな、こりゃ」
リグロも思わず声が漏れた。
教会全体でボンドを罵り傷つけている。ボンドが死んでもなお続く憎しみが教徒を突き動かしていた。
晴たちはなるべく周りに目を向けず、兵士に案内された聖堂へ早足で移動した。
聖堂に入り、ジルは素早く隅々を見渡す。そして中に立つ人物の存在に気付き、警戒を強めた。
(……誰かいるな)
中にいたのは、リグロより少し若いくらいの男性だった。暗い緑色の髪の奥から細い目が覗いている。彼の左右には兵士が1人ずつ立っていた。
「鎧の方々がこんなところまで何の用です?」
険しい表情で出迎えた彼こそ、現在の教会を束ねる『教祖』のザキだった。
その邪悪な雰囲気と蛇のような鋭い目に絡めとられるようで、晴は思わず後ずさりした。そんな晴の背中に手を添えてセオシュが支える。
「久しぶりだなザキ。エミレラのやつを探してるんだが」
ザキはかつて城にいたことがある。そのため見知った仲のリグロが親しげに話しかけたが、ザキは冷たく返した。
「彼女が城に戻るとでも?」
「いいから一度会わせてくれ」
「お断りします。他に用がないのならお帰りください」
会話をする気もないようだ。カファーは拳を握り締め、声を張り上げた。
「姉さんを王にしようとしてるんでしょ。そんなことさせるかよ!」
「王ならここにいるからな」
ジルが晴の肩に手を置く。ザキは冷めた目で晴を見据えた。蛇に睨まれた蛙のように晴の身がすくむ。
「……王族が来たとの報告は本当だったんですね。ようやくボンドを殺すことができたのに。あの愚弟の他にも、まだ生き残りがいたとは驚きです」
「お前の目的は何だ? キレウィ様の名前まで持ち出して好き勝手やってるみたいだが」
きつく睨みつけるリグロに対し、ザキは涼しい表情で言った。
「私の目的はヴィーゼルを根絶やしにし、この手でコワを掌握することです」
晴たちは息を呑んだ。
「……今までの教会の方針と真逆だな。それでどうやって教徒たちを従えている?」
「今のは教徒を前にしては言いませんよ。ものは言いよう、というやつです。彼らは自分たちがキレウィ様のご遺志に従っていると思っています。……死人を信仰させるというのは名案でした、教徒を私の好きに動かせる」
ザキのその表情は狂気すら感じさせた。
「まるで魔法の言葉ですよ、『キレウィ様のご遺志』というのはね」
(なんだこいつ。胸糞悪い)
ティナは苛立って眉間に皺を寄せた。
「そこにいるのも教徒じゃねぇのか?」
リグロがザキの横の兵士を顎で指す。
「これは私の忠実な僕ですので。ただ私の命令に従って動く人形です」
そして再び晴に視線を戻した。
「そちらの王族さんは鎧の承認を目指しているのでしょう? 先日のボンド死亡に伴ってコワに来たばかりでしょうから、国民の票を得るのは難しいでしょうしね……」
こちらの行動はお見通しというわけだ。ザキは小さくため息をつくと、気味の悪い笑顔を浮かべた。
「そういうことであれば、鎧の方々諸共死んでもらうだけです。私たちは鎧のあなた方も、死に損ないの王族も必要としていないので」
次の瞬間、聖堂の入口から武装した教徒が大勢飛び込んできた。そして入り切った途端にバタンと扉が閉まる。
(うげっ、まじかよ!)
彼らは本気で晴たちに殺意を向けていた。
もう逃げることはできない。リグロは鎌を、カファーは槍を、ジルは斧を、セオシュは銃を、ティナは拳をそれぞれ構えた。
一瞬の睨み合いの後、激しい戦いが始まった。
晴、ティナ、リグロ、セオシュ、カファー、ジルの6人は、教会の入口までやってきていた。全員変装はしていないが、望まないトラブルを避けるために晴だけはフードを被っている。ついにそれも外すと思うと、緊張で口から心臓が飛び出そうだった。
教会の敷地は広大だ。高い壁で囲われており、唯一の入口である重々しい門の前には、兵士に弾かれて中に入れない人々がたくさんいた。
「どうしたんですか?」
何度も挑戦し入場を拒まれている女性に晴が声をかけると、彼女は目を潤ませて言った。
「中に父と兄がいるんです。半分連れ去られるようにして教会に行ってしまったの。今ごろどんな目にあっているかも分からなくて、心配で……」
彼女もフィオナと同じ状況なのだ。そして同じ人はこの場にも多くいた。もうこんな悲劇を繰り返させるわけにはいかない。晴の決意はさらに固くなった。
「晴、本当にいいの?」
心配と緊張で硬い表情のカファーが言った。晴はみんなを振り返って目を合わせる。
「大丈夫。万が一襲われても、みんなが守ってくれるから」
とても晴の口から出たとは思えない台詞だった。弟子たちは口をあんぐりと開け、リグロは小さく笑い、ティナは自信満々に胸を叩く。
「もちろんだ」
「……ふっ」
「言うようになったねぇ晴!!」
そう頼られると応えないわけにはいかない。カファーも覚悟を決めた。
門番の前に進み出て、晴がフードに手をかける。深呼吸してフードを取り払うと、以前より少し増えた銀髪の束が露わになった。
「私はボンド王の娘です。中に入れてください」
門番は若い兵士と年配の兵士だ。若い兵士が吹き出し、馬鹿にしたように笑った。
「何言ってんのお前!! そんなんで通せるわけないだろ!!」
「この髪見ても何もわかんねぇのかよ?」
その態度にイラッとしたリグロが言うと、若い兵士は表情を歪め、唾を飛ばしながら悪態をついた。
「んだよおっさん。その髪がなんだってんだよ? あぁ?」
「おっさんて呼ぶな」
しかし若い兵士がそんな調子なのに対し、老兵士は血相を変えて晴の髪を凝視していた。そして絞り出すような声で言う。
「……お前は知らないだろうが、これは王族の髪だ。キレウィ様もこの銀髪を受け継いでいた……」
ボンドが銀髪を持っていなかったので、キレウィの生きた時代にいない若者は銀髪の意味を知らないことも多い。老兵士は門を開くスイッチを押した。
「仕方ない。ザキ様の指示を仰ぐ。通れ」
そして若い兵士に指示を出す。
「お前はザキ様に連絡をしろ。王族の末裔とボンドの鎧が現れたとな」
「はっ、はい!」
無事に第一関門クリアだ。晴たちは恐る恐る中へ進んだ。
中は、地獄だった。
敷地内には、体育館のように大きな聖堂をはじめとして様々な建物がある。庭や道に多くの教徒が行き交っているが活気はなく、重苦しい雰囲気だ。
あちこちで怒号が飛び交い、ゴミが散乱し、地面に血が飛び散っている。何より晴を震え上がらせたのは、あちこちにボンドの顔写真が貼られていて、それらに大きくバツ印がしてあったり、破かれていたりすることだ。
「ひでぇな、こりゃ」
リグロも思わず声が漏れた。
教会全体でボンドを罵り傷つけている。ボンドが死んでもなお続く憎しみが教徒を突き動かしていた。
晴たちはなるべく周りに目を向けず、兵士に案内された聖堂へ早足で移動した。
聖堂に入り、ジルは素早く隅々を見渡す。そして中に立つ人物の存在に気付き、警戒を強めた。
(……誰かいるな)
中にいたのは、リグロより少し若いくらいの男性だった。暗い緑色の髪の奥から細い目が覗いている。彼の左右には兵士が1人ずつ立っていた。
「鎧の方々がこんなところまで何の用です?」
険しい表情で出迎えた彼こそ、現在の教会を束ねる『教祖』のザキだった。
その邪悪な雰囲気と蛇のような鋭い目に絡めとられるようで、晴は思わず後ずさりした。そんな晴の背中に手を添えてセオシュが支える。
「久しぶりだなザキ。エミレラのやつを探してるんだが」
ザキはかつて城にいたことがある。そのため見知った仲のリグロが親しげに話しかけたが、ザキは冷たく返した。
「彼女が城に戻るとでも?」
「いいから一度会わせてくれ」
「お断りします。他に用がないのならお帰りください」
会話をする気もないようだ。カファーは拳を握り締め、声を張り上げた。
「姉さんを王にしようとしてるんでしょ。そんなことさせるかよ!」
「王ならここにいるからな」
ジルが晴の肩に手を置く。ザキは冷めた目で晴を見据えた。蛇に睨まれた蛙のように晴の身がすくむ。
「……王族が来たとの報告は本当だったんですね。ようやくボンドを殺すことができたのに。あの愚弟の他にも、まだ生き残りがいたとは驚きです」
「お前の目的は何だ? キレウィ様の名前まで持ち出して好き勝手やってるみたいだが」
きつく睨みつけるリグロに対し、ザキは涼しい表情で言った。
「私の目的はヴィーゼルを根絶やしにし、この手でコワを掌握することです」
晴たちは息を呑んだ。
「……今までの教会の方針と真逆だな。それでどうやって教徒たちを従えている?」
「今のは教徒を前にしては言いませんよ。ものは言いよう、というやつです。彼らは自分たちがキレウィ様のご遺志に従っていると思っています。……死人を信仰させるというのは名案でした、教徒を私の好きに動かせる」
ザキのその表情は狂気すら感じさせた。
「まるで魔法の言葉ですよ、『キレウィ様のご遺志』というのはね」
(なんだこいつ。胸糞悪い)
ティナは苛立って眉間に皺を寄せた。
「そこにいるのも教徒じゃねぇのか?」
リグロがザキの横の兵士を顎で指す。
「これは私の忠実な僕ですので。ただ私の命令に従って動く人形です」
そして再び晴に視線を戻した。
「そちらの王族さんは鎧の承認を目指しているのでしょう? 先日のボンド死亡に伴ってコワに来たばかりでしょうから、国民の票を得るのは難しいでしょうしね……」
こちらの行動はお見通しというわけだ。ザキは小さくため息をつくと、気味の悪い笑顔を浮かべた。
「そういうことであれば、鎧の方々諸共死んでもらうだけです。私たちは鎧のあなた方も、死に損ないの王族も必要としていないので」
次の瞬間、聖堂の入口から武装した教徒が大勢飛び込んできた。そして入り切った途端にバタンと扉が閉まる。
(うげっ、まじかよ!)
彼らは本気で晴たちに殺意を向けていた。
もう逃げることはできない。リグロは鎌を、カファーは槍を、ジルは斧を、セオシュは銃を、ティナは拳をそれぞれ構えた。
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