『Zero Upgrade(ゼロアップグレード)』

アトーニー

文字の大きさ
2 / 2

第2章:疑問の芽生え

しおりを挟む


翌日、街は昨日の違法能力コピー事件の余波でざわついていた。
ホログラム広告はいつも通り光を放っているが、人々の顔には不安が影を落としている。
「新しいスキルを手に入れれば、何もかも簡単になる」——そう信じて疑わない人々の目は、どこか虚ろだった。

ユウタは静かに歩道を進む。
手元には何の高価な能力もない。ただ、自分の判断力と観察力だけが頼りだ。
通りを行き交う人々は、購入した能力を誇示し、他人と比較して優劣を競っている。
ユウタの胸に、昨日見たケイの変化がよぎる。
「みんな、これで本当に幸せになれるのかな…」

カフェに入ると、ケイが窓際の席に座っていた。
表情はどこか落ち着かず、手元のホログラムを何度も操作してはため息をついている。

「おはよう、ケイ」
「…おはよう。昨日のこと、まだ整理できなくて」
ケイの声には、焦燥と戸惑いが混ざっていた。
「能力を手に入れる前の自分と、今の自分…どこか違うんだ」

ユウタは静かに頷く。
「それは自然なことさ。能力は便利だけど、自分を変えるものじゃない。使いこなすには、まず自分を知ることが大事だ」

ケイは俯き、しばらく黙ったままだった。
やがて、ポツリと呟く。
「でも、みんなは簡単に能力で解決してる…俺だけ取り残されたみたいで怖い」

ユウタは微笑む。
「取り残されてなんかないよ。むしろ、自分のままでいる強さを持てるチャンスだ」

カフェの外では、街の喧騒が絶え間なく続いていた。
能力を手に入れた者たちが、小さな成功や失敗に一喜一憂し、日々を追いかけている。
ユウタはふと、遠くの高層ビルの上空に浮かぶ広告を見上げた。
“完璧な自分になれる——スキル購入であなたもアップグレード”
その文字に、ユウタは軽く首を振る。
「完璧になりたい人が多すぎる…でも完璧は幻想だ」

午後、ユウタとケイは街を歩く。
人々は能力を誇示することで自信を得ようとしていたが、その表情は必ずしも幸福そうではない。
ケイはしばらく黙り込み、つぶやく。
「ユウタ…もしかしたら、君の言う通りなのかもな。能力だけじゃ人は変われない…」

ユウタは軽く微笑む。
「変われるのは、自分自身の意志だけさ」

その日の夕暮れ、街の空はオレンジ色に染まり、ビルの谷間に長い影を落としていた。
人々の欲望と不安が混ざり合った街の光景を見つめながら、ユウタは確信する。
「この世界で自分のままで生きる価値は、誰にも奪えない力なんだ」

ケイもまた、ユウタの言葉の意味を少しずつ理解し始めていた。
能力に頼るのではなく、自分の判断で歩む道——
それは、これから訪れる混乱や試練の中で、二人を支える唯一の力になるのだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...