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シェリの嘘
しおりを挟む── 雨の中の待ち合わせ ──
シェリは突然降りはじめた雨に顔をしかめた。
通り雨だろう、多分。
周りを見回すと、広場の様子を中から見渡せそうなガラス張りのカフェがあった。
小走りにカツカツと石畳を鳴らして駆け込み、ホットチョコレートを注文する。
テーブル席に腰掛けると、さっきまで待ちぼうけをくらっていた広場中央がよく見えた。
広場の古い時計の下は、恋人たちの定番の待ち合わせ場所だ。
あぁ…、今日はせっかくとっておきのワンピースにおろしたてのハイヒールにお化粧だって、ヘアスタイルだって、パーフェクトだったのに。
……完璧に綺麗な私をみて欲しかったのにな。
「……嫌いよ………、バカ….、
イーサンなんかっ、大っ嫌いっ」
シェリの勝気な美しい顔がくしゃりとゆがみ、涙がひとつぶポロリとこぼれた。
そのとき。
パサラ、
小さな花束がふわりと雨まじりのいい香りをさせてシェリに捧げられた。
「遅れてごめんよ、シェリ」
彼、イーサンはスッと真面目な顔になると、姫君に仕える騎士のようにシェリの目の前に片膝をついた。
驚いて声も出ないシェリに彼は言う。
「シェリ、僕の宝物……どうか、
僕と結婚してくれないか」
シェリは雨に降られて、確かにパーフェクトな格好とはいえなかった。
けれど、世界一大好きな男からのプロポーズを受けたその瞬間————胸の奥の奥で喜びが爆発した。
もう、抑えることなんてできなかった!
イーサンはこの瞬間を生涯忘れることはないだろう。
シェリこそが、イーサンにとって世界でいちばん眩ゆい存在だった。
「ええ…なるわ……私、
あなたの花嫁になるわ!!」
シェリは子供のような無邪気さで愛しい彼の腕の中へ飛び込んでゆく。
カフェの窓越しの空も明るくなってきた。
シェリは心の中でポツリとつぶやいた。
(あなたが嫌いだなんて、嘘よ)
かたく抱きしめ合う恋人たちの背後で、窓をつたう雨が静かに世界を滲ませていた。
(……そうよ、あんな嘘、雨に流してしまえばいいのだわ)
fin
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