ブラインド・デイティング

春日あざみ

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暗躍

ヘッドハンティング

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「結構ガッツリみんな書いてるなあ。やっぱりこれくらい書かないとダメだよねえ」

 カタログ整理以外は今のところやることがないので、ほとんど定時で上がれている。今日も六時前には家に着いていて、七時はご飯も食べ終えて暇を持て余していた。

 早く帰れるということは、ワークライフバランス的にはありがたいといえばありがたいのだが。仕事にやりがいを求めるタイプの人間にとって、この状況はかなりきつい。

 浮いた時間を無駄にしまいと、私は今、ビジネスSNSの経歴づくりに勤しんでいた。杉原さんとSNS上で繋がったので、彼のプロフィールを参考にしてみている。

「んー、こんなもんでしょ。よし、保存っと」

 卒業大学、新卒から今までの経歴をざっと要約して書いた。ほとんど職務経歴書みたいで、他のライトなSNSに比べると、プロフィールの作成にかなり骨が折れる。なんだかぐったりしてしまって、自宅の机からベッドに移動し、ゴロゴロし始めた。

(さあ、これでどれくらいのオファーがくるのかな。でも、大した経歴でもないし、そこまでいい提案もないだろうなあ)

 杉原さんの経歴は、非の打ちどころのないものだった。海外のロースクールを出て、大手弁護士事務所に所属、その後大手企業の法務部門に転職。あの若さでマネージャーとして数年の経験を持ち、法務担当者としての実績は輝かしいものばかりだった。

(あんな経歴見せつけられたら、自信もなくなるわ。やっぱり、あんまり好きになれないや、あの人)

 踏ん切りのつかないまま、もやもやした気持ちを誤魔化すように顔を枕に押し付けた。オファーが来なかったら、残念ながらSNSでの需要はないと判断し、転職サイトへ踏み出そう。

 ––––そう思っていたのだが。

 プロフィールを更新してから一週間。しばらくビジネスSNS見ることもなく、放置していた。会社の昼休み、社食で昼食をとりながらスマホでビジネスSNSを開くと、六件ほどメッセージが来ていた。

(え、めっちゃ来てるじゃない)

 連絡をくれたヘッドハンターのメッセージは英語、日本語が半数ずつ。杉原さん曰く、こうしたヘッドハンティングを行う会社は外資が多く、利用する会社も外資が多いため、ヘッドハンターに英語話者が多いらしい。初段階で英語での対応能力を見ているのもあるのかもしれない。

(結構具体的に会社名上げてくるんだなあ、どれどれ)

 たいして私の経歴も読まずに送ってきたであろう求人案件が二件、私の経歴からしたらちょっとレベルが高すぎる案件が二件。逆に少しキャリアダウンするものが一件。なかなかすぐ「これこれ」っていうものは来ないものだな、と思った。

 ただ、ある程度こちらの経歴や希望を伝えることが次の案件の提案の素地になると聞いている。悪くない提案をしてきたヘッドハンターとは、会って話してみるのも手だとも言われた。

 最後の一件のメッセージを開いてみる。そこには英語で、こう書かれていた。

『山並様 あなたのご経歴を拝見し、ご連絡いたしました。弊社では、財務部門のプロフェッショナルに特化した求人情報を多く取り揃えております。もしご転職をお考えのようであれば、一度お話を伺うことは可能でしょうか。ご希望に沿った案件を二、三提案させていただきます』

 悪くないメールだな、と思った。他のヘッドハンターは、おそらく自分が消化したい案件を提案してきているのだろうというのが透けて見えた。

 ヘッドハンターは成果報酬制らしい。内定が決まった段階でマージンが企業から支払われる仕組みなのだ。そのため、高単価の案件を、無理くり内定まで持っていこうとしたり、転職者の要望よりも自分の利益を優先する者もいる。

 最後のメッセージのヘッドハンターは、きちんと相手の意向を聞こうという姿勢があった。そして、財務部門のプロフェッショナルに特化しているというのも魅力的。自分の求める方向性に絞って転職市場の情報も集めることもできそうだ。

「会ってみるか……」

 私は、SNSの返信ボタンを指先で押し、先方への返答を打ち始めた。
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