ブラインド・デイティング

春日あざみ

文字の大きさ
14 / 29
暗躍

面談の裏で

しおりを挟む
 イタリア製のストライプのスーツに長めの茶髪のカツラを被り、エディントン・ホテルに着いたのは予定時刻の一時間前。目的のカフェに入り、店内の様子を隈なくチェックした。

 ビジネスSNSで俺の––––杉原尚史のプロフィールで彼女のアカウントと相互フォローをした。逐一彼女の動向をチェックすると、公開後一週間以内にある人物のアカウントと相互フォロー状態となった。

 ジョン・キンバリー。中堅ヘッドハンティング会社、エバンス・ソリューションズのヘッドハンター。現在の会社に勤め始めてからは五年ほど。それ以前は英会話学校で講師を務めていた。アメリカ国籍。ノースカロライナ出身。地元のコミュニティカレッジを卒業後、アメリカの州立大学に編入、卒業している。

(調べた限りでは不審な点は今の所ない。よくあるパターンの経歴だ)

 本当はもうちょっと幅広く会って欲しかったが、用心深い彼女のことだ。声をかけられた中でも彼女なりに厳選したのだろう。その相手が、だといいのだが。

 スマートフォンをチェックする。予定時刻の十五分前だ。そろそろ現れてもおかしくない。カフェの入り口にあるカウンター下に小型の盗聴器を仕掛けてある。耳にbluetooth型のイヤホンを装着し、パソコンで仕事をするふりをして、音声に意識を向ける。

 五分ほど経過したのち、ようやく目的の音声をキャッチすることができた。

『いらっしゃいませ』

『予約のジョン・キンバリーです』

『お待ちしておりました。こちらへどうぞ』

(––––あいつだ)

 怪しまれないよう、顔はパソコンを向いたまま、少しだけ視線を目当ての男に向ける。間違いない。ビジネスSNSの写真通りだ。金髪のオールバック、たしか年齢は三十代後半。

 そして程なくして、山並美冬が現れた。

(さて、そろそろ店を出るか)

 山並が席に案内されてすぐ、テーブルチェックを済ませ、店を出る。彼らの席はカフェをぐるっと囲む植木に面した場所だ。去り際に彼らの席の間近の樹木に回収した盗聴器を設置し直した。そのままホテルを出て、向かいの建物にあるファミリーレストランにベースを構える。

『……今回の異動は新しいキャリアの機会と捉えれば非常に良い機会だと思うのですが、専門性を高めたいという気持ちが……』

 気の強そうな彼女の声が、イヤホン越しに聞こえてきた。やはりキャリアについて相当悩んでいたようだ。先日くだを巻いていた彼女を思い出し、直接的には自分のせいではないが、多少申し訳ない気持ちになった。

(まあ、運悪く巻き込まれているだけだもんな)

 がむしゃらに仕事を頑張っているのに、よくわからない理由で左遷まがいの人事を言い渡された彼女のことを考えれば、腐ってしまう気持ちもわかる。本当だったらこのまま逃してやりたいところだが、そうもいかない。

 うっかり感傷に浸っていたら、知らぬ間に貧乏ゆすりをしていたらしい。自分の背中側の客に文句を言われ、「すんません」と申し訳なさそうな顔を作って謝った。

(そろそろ面談も佳境だな。ここまでは一般的な面談と変わらない。今回はハズレかもしれねえな)

 油断して頬杖をついていたが、後半の一言を耳が捉えた。

『……お願いがあるのですが。御社の会社概要のパンフレットをいただくことは可能でしょうか』

 テーブルに出しておいたスマートフォンで、即座に「笹嶋」へあらかじめ決めておいた文字を送る。

「限りなく黒に近いグレーだな」

 ヘッドハンターが求職者に対して、会社概要のパンフレットを要求することなどあり得ない。それ自体を提供することが何か問題があるわけではないが、これをきっかけに何かをしようとしている気配がある。

(さあ、お前は誰と繋がっている。ジョン・キンバリー)


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...