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暗躍
面談の裏で
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イタリア製のストライプのスーツに長めの茶髪のカツラを被り、エディントン・ホテルに着いたのは予定時刻の一時間前。目的のカフェに入り、店内の様子を隈なくチェックした。
ビジネスSNSで俺の––––杉原尚史のプロフィールで彼女のアカウントと相互フォローをした。逐一彼女の動向をチェックすると、公開後一週間以内にある人物のアカウントと相互フォロー状態となった。
ジョン・キンバリー。中堅ヘッドハンティング会社、エバンス・ソリューションズのヘッドハンター。現在の会社に勤め始めてからは五年ほど。それ以前は英会話学校で講師を務めていた。アメリカ国籍。ノースカロライナ出身。地元のコミュニティカレッジを卒業後、アメリカの州立大学に編入、卒業している。
(調べた限りでは不審な点は今の所ない。よくあるパターンの経歴だ)
本当はもうちょっと幅広く会って欲しかったが、用心深い彼女のことだ。声をかけられた中でも彼女なりに厳選したのだろう。その相手が、当たりだといいのだが。
スマートフォンをチェックする。予定時刻の十五分前だ。そろそろ現れてもおかしくない。カフェの入り口にあるカウンター下に小型の盗聴器を仕掛けてある。耳にbluetooth型のイヤホンを装着し、パソコンで仕事をするふりをして、音声に意識を向ける。
五分ほど経過したのち、ようやく目的の音声をキャッチすることができた。
『いらっしゃいませ』
『予約のジョン・キンバリーです』
『お待ちしておりました。こちらへどうぞ』
(––––あいつだ)
怪しまれないよう、顔はパソコンを向いたまま、少しだけ視線を目当ての男に向ける。間違いない。ビジネスSNSの写真通りだ。金髪のオールバック、たしか年齢は三十代後半。
そして程なくして、山並美冬が現れた。
(さて、そろそろ店を出るか)
山並が席に案内されてすぐ、テーブルチェックを済ませ、店を出る。彼らの席はカフェをぐるっと囲む植木に面した場所だ。去り際に彼らの席の間近の樹木に回収した盗聴器を設置し直した。そのままホテルを出て、向かいの建物にあるファミリーレストランにベースを構える。
『……今回の異動は新しいキャリアの機会と捉えれば非常に良い機会だと思うのですが、専門性を高めたいという気持ちが……』
気の強そうな彼女の声が、イヤホン越しに聞こえてきた。やはりキャリアについて相当悩んでいたようだ。先日くだを巻いていた彼女を思い出し、直接的には自分のせいではないが、多少申し訳ない気持ちになった。
(まあ、運悪く巻き込まれているだけだもんな)
がむしゃらに仕事を頑張っているのに、よくわからない理由で左遷まがいの人事を言い渡された彼女のことを考えれば、腐ってしまう気持ちもわかる。本当だったらこのまま逃してやりたいところだが、そうもいかない。
うっかり感傷に浸っていたら、知らぬ間に貧乏ゆすりをしていたらしい。自分の背中側の客に文句を言われ、「すんません」と申し訳なさそうな顔を作って謝った。
(そろそろ面談も佳境だな。ここまでは一般的な面談と変わらない。今回はハズレかもしれねえな)
油断して頬杖をついていたが、後半の一言を耳が捉えた。
『……お願いがあるのですが。御社の会社概要のパンフレットをいただくことは可能でしょうか』
テーブルに出しておいたスマートフォンで、即座に「笹嶋」へあらかじめ決めておいた文字を送る。
「限りなく黒に近いグレーだな」
ヘッドハンターが求職者に対して、会社概要のパンフレットを要求することなどあり得ない。それ自体を提供することが何か問題があるわけではないが、これをきっかけに何かをしようとしている気配がある。
(さあ、お前は誰と繋がっている。ジョン・キンバリー)
ビジネスSNSで俺の––––杉原尚史のプロフィールで彼女のアカウントと相互フォローをした。逐一彼女の動向をチェックすると、公開後一週間以内にある人物のアカウントと相互フォロー状態となった。
ジョン・キンバリー。中堅ヘッドハンティング会社、エバンス・ソリューションズのヘッドハンター。現在の会社に勤め始めてからは五年ほど。それ以前は英会話学校で講師を務めていた。アメリカ国籍。ノースカロライナ出身。地元のコミュニティカレッジを卒業後、アメリカの州立大学に編入、卒業している。
(調べた限りでは不審な点は今の所ない。よくあるパターンの経歴だ)
本当はもうちょっと幅広く会って欲しかったが、用心深い彼女のことだ。声をかけられた中でも彼女なりに厳選したのだろう。その相手が、当たりだといいのだが。
スマートフォンをチェックする。予定時刻の十五分前だ。そろそろ現れてもおかしくない。カフェの入り口にあるカウンター下に小型の盗聴器を仕掛けてある。耳にbluetooth型のイヤホンを装着し、パソコンで仕事をするふりをして、音声に意識を向ける。
五分ほど経過したのち、ようやく目的の音声をキャッチすることができた。
『いらっしゃいませ』
『予約のジョン・キンバリーです』
『お待ちしておりました。こちらへどうぞ』
(––––あいつだ)
怪しまれないよう、顔はパソコンを向いたまま、少しだけ視線を目当ての男に向ける。間違いない。ビジネスSNSの写真通りだ。金髪のオールバック、たしか年齢は三十代後半。
そして程なくして、山並美冬が現れた。
(さて、そろそろ店を出るか)
山並が席に案内されてすぐ、テーブルチェックを済ませ、店を出る。彼らの席はカフェをぐるっと囲む植木に面した場所だ。去り際に彼らの席の間近の樹木に回収した盗聴器を設置し直した。そのままホテルを出て、向かいの建物にあるファミリーレストランにベースを構える。
『……今回の異動は新しいキャリアの機会と捉えれば非常に良い機会だと思うのですが、専門性を高めたいという気持ちが……』
気の強そうな彼女の声が、イヤホン越しに聞こえてきた。やはりキャリアについて相当悩んでいたようだ。先日くだを巻いていた彼女を思い出し、直接的には自分のせいではないが、多少申し訳ない気持ちになった。
(まあ、運悪く巻き込まれているだけだもんな)
がむしゃらに仕事を頑張っているのに、よくわからない理由で左遷まがいの人事を言い渡された彼女のことを考えれば、腐ってしまう気持ちもわかる。本当だったらこのまま逃してやりたいところだが、そうもいかない。
うっかり感傷に浸っていたら、知らぬ間に貧乏ゆすりをしていたらしい。自分の背中側の客に文句を言われ、「すんません」と申し訳なさそうな顔を作って謝った。
(そろそろ面談も佳境だな。ここまでは一般的な面談と変わらない。今回はハズレかもしれねえな)
油断して頬杖をついていたが、後半の一言を耳が捉えた。
『……お願いがあるのですが。御社の会社概要のパンフレットをいただくことは可能でしょうか』
テーブルに出しておいたスマートフォンで、即座に「笹嶋」へあらかじめ決めておいた文字を送る。
「限りなく黒に近いグレーだな」
ヘッドハンターが求職者に対して、会社概要のパンフレットを要求することなどあり得ない。それ自体を提供することが何か問題があるわけではないが、これをきっかけに何かをしようとしている気配がある。
(さあ、お前は誰と繋がっている。ジョン・キンバリー)
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