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暗躍
会社概要
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地下鉄の駅の出口を出ると、陽の光が目を刺した。まだ穏やかさを残してはいるが、着々と夏に向かって日光の強さが増している。
先週までは落ち込みがちだった気持ちも、安定感を取り戻した。杉原さんの勧め通りヘッドハンターに会ってみるというのは、凝り固まった自分の頭に別の視点を加えるという意味で良い機会になった。
(転職活動、うまくいくといいなぁ)
「山崎さん、うちの会社概要のパンフってどこにありましたっけ」
「え? 何に使うんですか?」
今日は葛木さんが有休を取っているので、山崎さんと二人きりでの作業だ。あれだけあった製品パンフの山たちも、残りわずかとなっている。
「友達で、うちを受けたいって人がいて。それで一部だけいただきたいんです」
嘘は言っていない。ヘッドハンターという言葉に触れることは避けたけれど。そもそも会社概要のパンフは外部向けに配布するために作られているものなので、用途としては問題ないはずだ。
「ああ、なるほど。基本的にストックは広報が保管してますが、僕の方でも部署用に持ってるものがあるのでお渡ししますね。ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、山崎さんは薄暗い倉庫の部屋を出て、すぐに一冊のパンフを持って戻ってきた。
「たまに、誰かが使おうとしてやっぱり戻したとかで、一般には出しちゃいけない資料が挟み込まれていることもあるので、よく見てくださいね。うちの男性陣、たまにそういう適当なことするんで」
そう苦笑しながら、山崎さんはパラパラと会社概要のパンフをめくり、何も挟まっていないことを確認した上で、私に差し出した。
「ありがとうございます! 無くしちゃうといけないので、デスクに置いてきます」
「この部屋パンフだらけですからね……。そうしてください。あ、そういえば」
「なんでしょう?」
「廊下に出た時部長に会いまして、山並さんに部屋に来るように伝えてほしいとおっしゃってました」
「げ!」
⌘
「どうだ」
「杉ちゃんほんとせっかちよねぇ。わたしほどのハッカーでない限り、そんなにバンバンハッキングできないんだからねぇ? しかもこのヘッドハンティング会社、この規模の会社としては相当セキュリティ堅いよぉ」
頭がおかしいとしか思えない、悪趣味なレースをふんだんにあしらったピンクのワンピースを身に纏った彼女の名は、「マリン」という。名前までキラキラしているので、もはやどこから突っ込んだらいいのかわからない。
ただ、彼女はこんななりだが、優秀なハッカーでもある。子どもの頃は数々のハッキングコンテストで賞を総なめにしていたらしい。
「会社の方に怪しい動きはないなぁ。ジョン•キンバリーのアカウントに入り込んで、過去の求職者とのメールとかも見てたけどぉ。単なるビジネスメールだし」
「すると、会社自体が黒っていうより、本人単体が外部の組織と繋がってる可能性の方が高いってことか」
一通り見るべきものを見終わったのか、マリンは机を腕で押し、ローラースケートのごとくデスクチェアを滑らせてこちらへやってきた。
「なんだよ。っていうか椅子で遊ぶなよ、お前」
「視野は広く持て、よぉ。決めつけは良くないわぁ。尾行の結果と、今後の美冬ちゃんとのコミュニケーションの感じも踏まえて、総合的に判断しないとだよぉ」
子どものようなナリで、足をぶらぶらさせながらそうたしなめられると、なんだか納得いかない。だが、確かに勇み足になっている節はある。
「……わかってるよ」
山並美冬がジョン•キンバリーと再度接触するのは金曜日。鬼が出るか蛇が出るか。
冷静さを忘れないようにしつつ、初めてのでかいヤマらしきものを前に、俺の興奮は高まっていた。
先週までは落ち込みがちだった気持ちも、安定感を取り戻した。杉原さんの勧め通りヘッドハンターに会ってみるというのは、凝り固まった自分の頭に別の視点を加えるという意味で良い機会になった。
(転職活動、うまくいくといいなぁ)
「山崎さん、うちの会社概要のパンフってどこにありましたっけ」
「え? 何に使うんですか?」
今日は葛木さんが有休を取っているので、山崎さんと二人きりでの作業だ。あれだけあった製品パンフの山たちも、残りわずかとなっている。
「友達で、うちを受けたいって人がいて。それで一部だけいただきたいんです」
嘘は言っていない。ヘッドハンターという言葉に触れることは避けたけれど。そもそも会社概要のパンフは外部向けに配布するために作られているものなので、用途としては問題ないはずだ。
「ああ、なるほど。基本的にストックは広報が保管してますが、僕の方でも部署用に持ってるものがあるのでお渡ししますね。ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、山崎さんは薄暗い倉庫の部屋を出て、すぐに一冊のパンフを持って戻ってきた。
「たまに、誰かが使おうとしてやっぱり戻したとかで、一般には出しちゃいけない資料が挟み込まれていることもあるので、よく見てくださいね。うちの男性陣、たまにそういう適当なことするんで」
そう苦笑しながら、山崎さんはパラパラと会社概要のパンフをめくり、何も挟まっていないことを確認した上で、私に差し出した。
「ありがとうございます! 無くしちゃうといけないので、デスクに置いてきます」
「この部屋パンフだらけですからね……。そうしてください。あ、そういえば」
「なんでしょう?」
「廊下に出た時部長に会いまして、山並さんに部屋に来るように伝えてほしいとおっしゃってました」
「げ!」
⌘
「どうだ」
「杉ちゃんほんとせっかちよねぇ。わたしほどのハッカーでない限り、そんなにバンバンハッキングできないんだからねぇ? しかもこのヘッドハンティング会社、この規模の会社としては相当セキュリティ堅いよぉ」
頭がおかしいとしか思えない、悪趣味なレースをふんだんにあしらったピンクのワンピースを身に纏った彼女の名は、「マリン」という。名前までキラキラしているので、もはやどこから突っ込んだらいいのかわからない。
ただ、彼女はこんななりだが、優秀なハッカーでもある。子どもの頃は数々のハッキングコンテストで賞を総なめにしていたらしい。
「会社の方に怪しい動きはないなぁ。ジョン•キンバリーのアカウントに入り込んで、過去の求職者とのメールとかも見てたけどぉ。単なるビジネスメールだし」
「すると、会社自体が黒っていうより、本人単体が外部の組織と繋がってる可能性の方が高いってことか」
一通り見るべきものを見終わったのか、マリンは机を腕で押し、ローラースケートのごとくデスクチェアを滑らせてこちらへやってきた。
「なんだよ。っていうか椅子で遊ぶなよ、お前」
「視野は広く持て、よぉ。決めつけは良くないわぁ。尾行の結果と、今後の美冬ちゃんとのコミュニケーションの感じも踏まえて、総合的に判断しないとだよぉ」
子どものようなナリで、足をぶらぶらさせながらそうたしなめられると、なんだか納得いかない。だが、確かに勇み足になっている節はある。
「……わかってるよ」
山並美冬がジョン•キンバリーと再度接触するのは金曜日。鬼が出るか蛇が出るか。
冷静さを忘れないようにしつつ、初めてのでかいヤマらしきものを前に、俺の興奮は高まっていた。
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