水晶の夜物語

あんのーん

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#11 暗転

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 ふたりが帰る数刻前。街へ出かけていた男がひとり、半死半生のていで戻り、集落は騒然となった。
 報せを聞いて鉱山にいた大人たちも慌てて帰って来た。
 鉱山へは仲買人が採掘した水晶を買うために、山を越えた大きな街から毎週やって来る。彼らはずっと昔からの商売相手であって、水晶が間違いなく買えれば取引相手が町の者だろうが水晶谷のカナルの民だろうが気にしなかったから、水晶谷の住人も安心して採掘に励むことができたのだが、生活のためには受け取った金を物品に替える必要がある。険悪になっていた町の人々との係わりは極力避けたかったが谷で全てを賄えるのではない以上、定期的に町へ出て行かないわけにはいかなかった。
 もともとは買い出しは女の仕事だったが、町で嫌がらせをされたり襲われたりすることが増えたため、近頃は男たちが代わりに、用心のためにふたりで出かけていた。それでこの男も今朝、もうひとりとともに町へ買い出しに出かけたのだった。

「一体何があったんだ、ゴトウはどうした?」
 イハサヤの家に担ぎ込まれた男は手当を受けながら、荒い息を継いで言った。
「ゴトウは捕まった……多分もう、生きてないかもしれない……」
「なんだと……?」
 信じられない言葉を聞き咎め、誰かが声を尖らせた。
「俺は……、俺だけ、なんとか逃げおおせたんだ……」
「仲間を見捨てたのか……?」
「やめてくれよ……! しかたなかったんだ……!」
 男は表情をゆがめると悲鳴をあげるように言った。その頬を涙が汚しているのは、痛みのためだけではあるまい。
「こいつの言うとおりだ、ひとりだけでも帰って来られて本当に良かった……そうでなければ、町で何が起こったかすら俺達は知りようがない」
 イハサヤはそう言うと傷ついた男に向き直り、続けた。
「何があったんだ、詳しく話してくれ」
 男は途切れ途切れに、町での出来事を語りはじめた──。
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