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#12 暗転2
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男の名はスハヤという。スハヤは今朝、ゴトウという年かさの男とともに荷を積む兎馬を引いて買い出しに出かけたのだが、町へ着くとすぐに異様な雰囲気に気がついた。
人々の、彼らを見る目の色が違う──。
ふたりはさっさと用事を済ませて帰ろうとしたが、最初の店ではあからさまに拒否された。二軒目でも嫌な目に遭いスハヤは抗議しかけたが、ゴトウが店の外に連れ出した。
「やめとけスハヤ、こいつはまずい……今日はもう帰ろう」
建物の陰にスハヤを押し込んだゴトウが諭すように言った。だがスハヤは不満げに応えた。
「なんでだよ? 何一つ用は済んじゃいないぞ? 俺たちは客だ、タダでよこせと言ってるわけじゃ──」
「おまえはあの連中の目の色に気がつかないのか!?」
とうとうゴトウが声を荒げた。
「絡まれる前に帰ろう、まだ村には備蓄がある。出直そう……とにかく今日はダメだ」
だが果たして時はすでに遅かったのである。
物陰から出てきたふたりに往来にいた男たちが気づき、彼らをぐるりと取り囲むように立ちはだかった。
「…………」
ふたりの腋を冷たい汗が流れたが、ゴトウは努めて冷静に
「そこをどいてくれ」
と言った。だが男たちは立ち塞がったまま、
「おまえらカナルだろう、余所者が俺たちの町に何の用だ」
「この人殺しめ」
「泥棒」
などと、口々に罵ってきた。
「何のことだ……?」
「こないだから立て続けに強盗があったんだ。殺された者もいる……おまえたちの仕業だろう?」
「そんなことは知らない……!」
ふたりは心底驚き、思わず声を上げた。
往来の人々が足を止め、いつの間にか人だかりができている。
「なんで俺たちが強盗なんかするんだ──ましてや──殺しなど」
「まだあるぞ」
ふたりにみなまで言わせず、男が言い募った。
「こないだおまえらの仲間が町のをフクロにしただろう。……かわいそうに、ひとりは一生女を抱けない身体にされちまった。まだ若いのに……」
男たちの話に覚えのあるふたりは一瞬言葉に詰まったが、スハヤが言い返した。
「それはそいつらが悪いんだろうが! 村の女を犯そうとしたくせに──それに奴は俺たちの仲間じゃない、たまたま通りかかった旅芸人だ──」
「んなこたどうでもいいんだよ!」
ひとりが声を荒げた。
「どれもこれも俺たちへの仕返しだろうが!」
「……仕返しされるようなことをやってきた自覚はあるんだな……」
ゴトウが小さく呟いたが、それを聞き咎めたひとりが
「なんだと!?」
と詰め寄り、ゴトウを突き飛ばした。
これが端緒となり、男たちは口々に罵りながらふたりを殴ったり蹴ったりしはじめた。
男たちの形相が変わっていくのがわかる。ゴトウは殴られながら兎馬の手綱を放すと、いきなりその脇腹を蹴りつけた。
馬はいななきとともに後足立ちになり、男たちの輪に突っ込んだ。わっ、というどよめきが起こり、幾人かは引っかけられて倒れ、その他の男たちは飛び退いた。
「走れ、スハヤ! 逃げるんだ!」
「……!」
弾かれたようにスハヤが駆けだした。
怒号とともに男たちが襲いかかってきて、ゴトウの姿が見えなくなった。
「くそ……っ、くそお……っ」
追いすがる男たちともつれ合い、ふりほどきながら、スハヤは駆け続けた。
人々の、彼らを見る目の色が違う──。
ふたりはさっさと用事を済ませて帰ろうとしたが、最初の店ではあからさまに拒否された。二軒目でも嫌な目に遭いスハヤは抗議しかけたが、ゴトウが店の外に連れ出した。
「やめとけスハヤ、こいつはまずい……今日はもう帰ろう」
建物の陰にスハヤを押し込んだゴトウが諭すように言った。だがスハヤは不満げに応えた。
「なんでだよ? 何一つ用は済んじゃいないぞ? 俺たちは客だ、タダでよこせと言ってるわけじゃ──」
「おまえはあの連中の目の色に気がつかないのか!?」
とうとうゴトウが声を荒げた。
「絡まれる前に帰ろう、まだ村には備蓄がある。出直そう……とにかく今日はダメだ」
だが果たして時はすでに遅かったのである。
物陰から出てきたふたりに往来にいた男たちが気づき、彼らをぐるりと取り囲むように立ちはだかった。
「…………」
ふたりの腋を冷たい汗が流れたが、ゴトウは努めて冷静に
「そこをどいてくれ」
と言った。だが男たちは立ち塞がったまま、
「おまえらカナルだろう、余所者が俺たちの町に何の用だ」
「この人殺しめ」
「泥棒」
などと、口々に罵ってきた。
「何のことだ……?」
「こないだから立て続けに強盗があったんだ。殺された者もいる……おまえたちの仕業だろう?」
「そんなことは知らない……!」
ふたりは心底驚き、思わず声を上げた。
往来の人々が足を止め、いつの間にか人だかりができている。
「なんで俺たちが強盗なんかするんだ──ましてや──殺しなど」
「まだあるぞ」
ふたりにみなまで言わせず、男が言い募った。
「こないだおまえらの仲間が町のをフクロにしただろう。……かわいそうに、ひとりは一生女を抱けない身体にされちまった。まだ若いのに……」
男たちの話に覚えのあるふたりは一瞬言葉に詰まったが、スハヤが言い返した。
「それはそいつらが悪いんだろうが! 村の女を犯そうとしたくせに──それに奴は俺たちの仲間じゃない、たまたま通りかかった旅芸人だ──」
「んなこたどうでもいいんだよ!」
ひとりが声を荒げた。
「どれもこれも俺たちへの仕返しだろうが!」
「……仕返しされるようなことをやってきた自覚はあるんだな……」
ゴトウが小さく呟いたが、それを聞き咎めたひとりが
「なんだと!?」
と詰め寄り、ゴトウを突き飛ばした。
これが端緒となり、男たちは口々に罵りながらふたりを殴ったり蹴ったりしはじめた。
男たちの形相が変わっていくのがわかる。ゴトウは殴られながら兎馬の手綱を放すと、いきなりその脇腹を蹴りつけた。
馬はいななきとともに後足立ちになり、男たちの輪に突っ込んだ。わっ、というどよめきが起こり、幾人かは引っかけられて倒れ、その他の男たちは飛び退いた。
「走れ、スハヤ! 逃げるんだ!」
「……!」
弾かれたようにスハヤが駆けだした。
怒号とともに男たちが襲いかかってきて、ゴトウの姿が見えなくなった。
「くそ……っ、くそお……っ」
追いすがる男たちともつれ合い、ふりほどきながら、スハヤは駆け続けた。
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