水晶の夜物語

あんのーん

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#13 暗転3

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「…………」
 スハヤが話し終えても、誰も口をきかなかった。
 谷の陽が落ちるのは早い。
 いつの間にか空は茜色に染まりはじめていたが、男たちはそんなことにも気づかずにいた。
「ゴトウは殺され、兎馬も金も奴らに奪われたのか……」
「くそっ!」
 ややあってそんな声が上がりはじめた中、ひとりが不安と苛立ちを隠さぬ声で言った。
「どうするんだ、おい、どうするんだよ。あの乞食が余計なことをするから──」
 厳しい表情でそれまで黙って聞いていたイハサヤが、最後の言葉を聞いて顔色を変えた。
「それじゃおまえは、スアンがおとなしくやられとけば良かったと言うのか?」
 うっ、と男が息を吞む。イハサヤは畳みかけるように声を荒げた。
「ふざけるな! スアンはまだ十五にもなってないんだぞ……! おまえは自分の娘が強姦されても、同じことが言えるのか」
 互いに掴みかからんばかりになっているふたりの間に、別の男が割って入った。
「やめろ、許してやれ……! こいつも口が滑っただけだ。わかるだろう、今俺たちが争っても、なんの解決にもならない。それよりもどうするかを考えないと──」
「わっしを街の連中に引き渡してください」
 戸口から声がし、屋内にいた男たちが一斉に振り返った。
 ヨウが立っていた。先刻戻ったヨウはそのまま祭殿へスアンを送り届けた後、それをスアンの父親であるイハサヤに報せに来たのだが、思いがけぬ話に図らずも事情を立ち聞きするかたちになってしまったのだ。
「何を言うんだ」
 イハサヤはヨウの言葉に驚いて言った。
「連中に嬲り殺しにされるぞ」
 ヨウはかすかに口の端を上げた。
「わっしなら大丈夫です」
「大丈夫なワケがあるか! ゴトウも殺されたんだぞ……あんたは娘の恩人だ、その恩人を売るようなマネができるか──」
 イハサヤの言葉を最後まで聞かず、ヨウは続けた。
「それで時間が稼げる。ほんの少しでも……」
「……時間……?」
「みなさんが逃げるための時間です」
 ざわっ、とその場がどよめいた。
「やつらがここまで襲ってくると……? まさか……そこまで」
「連中はここのおひとの血を見て気がたかぶっている……そうした時には、人の心はたやすく闇に呑まれてしまう。わっしはよく知っています」
 来るなら来い、返り討ちにしてやる、とか、この際だ、はっきり白黒つけてやる……などという勇ましい声が男たちの間から上がったが、ヨウの
「ここには女の人もいるし、身体のよく動かない年寄りも年端もいかない子供もいる……そういった、自分の身を自分で守ることもできないおひとはどうするんで」
 という言葉に、再び押し黙った。
「……鉱山はどうするんだ、奴らに取られるぞ」
 誰かが不安げに言ったその時。
 激しく打つ半鐘が谷に響き渡った。
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