狼少女のタカラモノ

橘 志摩

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28.想い

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「…ゆうちゃ…悠一…」
「…後悔、すんなよ」
「し、しないもん…っ悠一こそ…」
「俺がする訳ねぇだろ」

 どんだけ我慢してたと思ってんだ。今日だってこんな風に抱くつもりじゃなかった。

 少しだけ掠れた声で、彼はそう口にして、もう黙れとでも言うように、菜摘の唇を塞ぐ。
 その熱くて激しいキスで彼女の意識を翻弄とさせている間にスキンを被せ、熱く潤んだその場所に、己の楔を押し当てた。

 重なった唇の隙間から息を呑む感覚が伝わってきたが、悠一はそれに構わず、腰を推し進める。
 瞬間、彼女の足が彼の身体を挟んだが、大した抵抗にもならない。

 熱くうねる壁がそれを包み、言いようのない快感を彼にもたらして、唇は重ねたまま、熱い息をこぼす。
 ビクビクと震える菜摘の身体を宥めるように撫でながらゆっくりと推し進めて、漸く到達したその奥に、漸く唇を解放すると、菜摘は涙をいっぱいに溜めて、微かな吐息をこぼした。

「…ゆ、いち…っ」
「…っ…は…っやべぇ、…菜摘、お前、本当、手ごわいなぁ…っ」
「ああっ、あ、んっ、だめ、まだ、あ、うごいちゃ、あ」
「馬鹿言うな…っ、我慢なんか、できるわけねぇだろ…っ」

 熱い壁が、悠一のそれを締め付ける。
 止まっていることなど不可能で、最初から菜摘の身体を穿って、責め立ててしまう。
 最初は、優しく、ゆっくり、そんなことを考えていたのはすべて吹き飛んだ。

 奥を強く穿って声を上げさせているのは悠一なのに、快感を追い詰めているのは菜摘のような感覚に陥って、悠一は息をつめた。
 油断すれば、菜摘の身体に酔いしれている声がこぼれてしまいそうで、菜摘を心から求めていることが気がつかれてしまいそうで、必死で声をこらえた。

 揺さぶられてガクガクと震える菜摘の身体を抱きしめて、いっそう強く腰を打つ。
 まだすべてを脱がせていない彼女の服が、悠一にとって、今一番邪魔だった。

「…は、菜摘…」
「ぅ、あっん…っ」

 背中に回った腕が彼女の身体を抱き起こしてチャックを下ろすと、その腕から素早く彼女が着ていたワンピースを取り払ってしまう。
 下着のホックを外して、それすらも腕から取り払うと、菜摘は一糸まとわぬ姿にされている。

 恥ずかしくて、胸を腕で隠そうとした瞬間、悠一はその身体を強く、強く抱きしめた。

「…ゆ、ゆう、いち…?」
「…この方が、菜摘とくっついてられる」
「…っ…ひぁっ、な、なんで、おっきく…っ」
「お前がかわいすぎるのが悪いんだろ、諦めろ」
「いいい意味が、意味がわかんないよ! あっ! も、ああっ」

 火傷しそうなほど熱いその熱に奥を穿たれて、菜摘はただただ、彼に身を委ねることしかできない。

 耳に響く掠れた声。
 肌に落ちる汗の粒に、抱きしめられる腕の強さが、身体に強く残る。

 ふるりと震えた身体に促されるように、菜摘は甲高く、艶めいた声をあげて、その波に意識を預けた。

 ◇◇◇◇◇


 ふっと、浮上した意識に重たい瞼を持ち上げると、目の前には鍛えられた男性の肌があって、一瞬だけ驚いた。
 だがすぐにそれが誰か思い出して、菜摘はほっと息をついてその胸に額をつける。
 背中に回った腕が、菜摘の身体を抱きしめているから、その腕の中から抜け出せはしない。もっとも、彼女も抜け出そうとは思っても望んでもいなかった。

「――起きたのか?」
「…うん」

 問いかける声に答える声は、出しすぎたせいか、微かに枯れている。
 水を飲みたいと思った時、そっと悠一が腕を解いて、サイドボードから水の入ったペットボトルの蓋を開けて、菜摘に差し出した。

「起きれるか? ちょっと無茶したな。ごめん」
「…へっ平気…っ」

 労わるように背中から抱き起こされて、思いがけない謝罪に頬が熱くなる。
 悠一はベッドのヘッドボートに背中を預けて、後ろから菜摘の身体を抱きしめるような体勢をとって座った。

 何も着ていない彼の身体に抱きしめられるように座らされた菜摘としては落ち着かないのだが、嫌だとは思わない。
 恥ずかしさを覗けば穏やかな安堵と喜びだけが残るのだ。あえてその体勢を崩したいとも考えなかった。

 かけられていた布団を胸元まで引き上げて、彼が渡してくれたペットボトルの水を飲むと、冷たく冷えたそれが喉を潤してくれた。

「…なぁ菜摘」
「…何?」
「お前、さ。…本当に俺でいいの。俺もう、お前のこと離す気ないけど」
「…っ…」
「お遊びじゃない。お試しでも、リハビリでもない。俺もう、お前のこと、本気の彼女だって思うけど、それでいいの」
「…い…いいよ。…じゃなきゃ、…こ、こんなこと、頼んでない。触ってなんて、自分から、お願いなんて、しない」

 顔が熱い。
 しどろもどろになってしまった言葉は、ちゃんと悠一に伝わってくれたらしい。
 言葉なく、後ろから強く抱きしめられて、菜摘はほっと息を着いた。

「…私ね、ずっと信じられなかったんだと思うの」
「何を?」
「好きな人の、気持ち。でもね、…悠一は、ずっと一緒にいて、ずっとそばにいて、信じたいって思ったの。悠一が、私のことどう思ってても、どう見てても、それでも、私のこと大事にしてくれる、悠一の気持ち、信じたいって、そう思った。…単純だって、自分でも思うよ。でも、…悠一のこと、私も、大事にしたいって、思ったよ」
「…菜摘」
「…もう子供じゃないって、ゆうちゃんが言ってくれたんだよ。だから、妹みたいだって思われるのも、家族だからって、気を使って距離を取られるのも、嫌。ゆうちゃんが他の女の人と楽しそうに笑ってるのも、嫌。…悠一が、私が他の人と幸せになるようにって、祈るのも、すごく嫌」

 お腹に回されていた彼の手に、自分のそれを重ねて、菜摘は悠一の身体に寄りかかる。
 背中から伝わる温もりは、昔から知っていて、だけど、今初めて感じた、暖かさだった。

「私が素直になれるのは悠一の前だから。嘘つかなくても、黙ってても悠一は気がついてくれるから、だから、嘘つかなくても、変な気を回さなくても平気なの。悠一は、ちゃんと、私の心事受け止めてくれるって、そうわかったから。…私の宝物なの、悠一が、宝物になってたの」
「…よく言うよ、お前、ついこの間まで俺のことなんとも思ってなかっただろ」
「いやそれはだって、悠一が手加減してくれなかったから混乱してたんだよ! そ、そりゃ、…す、…好きだって、気がついたの、さ、さっき、だけど…」
「ふーん」
「…ほっほ本当だから! ちゃんと、好きだから! 男の人として!」

 訝しがっているような悠一の声に慌てて振り返って伝えた言葉に、悠一と視線がかち合って、やられた、と思った。
 彼は嬉しそうに笑って、菜摘の名前を呼ぶ。

 苦しいくらいに抱きしめられて、耳元で、悠一の声が「俺も好き。心底惚れてる」と呟いた。


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