勇気をください。

橘 志摩

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1.被った仮面

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 苦しみの殻から抜け出せなくて。
 でも、そこから抜け出したいと望んで。

 それでもどうにもならなかった。
 どうすればいいかわからなかった。

 心を取り巻く黒いモヤはいつまでも自分の中に残っていて、それを取り除く術が見つからなかった。

 もう、あの頃の私じゃない。
 そう思ってるのに。そう言い聞かせているのに。
 どうしても、どうしても、まとわりつく嫌な記憶が身体を固くする。

 浮かべた笑顔はちゃんと笑えてるのか。
 周りの話にちゃんと合わせてられるのか。

 そんなことばかりが気にかかる。

 前を、向きたいのに。
 自分の足で進みたいのに。

 何もできなくて、何も変わらなくて。

 変わったつもりでいるのに、何も変えられていなくて。


 誰か、助けて。
 私をここから引き上げて。

 いつだって心のどこかで、そう、祈ってた。



【勇気をください。】



「―――ねーあそこの新作買った?」
「買った買った! すごい可愛いの~!」

 女子更衣室はいつもお祭りのように騒がしい。
 周りをみればおしゃれに精一杯気を使った女子社員達。
 有名なブランドの化粧品が出たなんてはしゃいで、口紅を見せ合っていた。

 制服から着替えたことで、少しだけ乱れた髪の毛を整えて、ロッカーについている小さな鏡で顔色を確認する。
 少しだけ緊張しているけれど、顔色が悪いわけじゃない。
 大丈夫。私は大丈夫。
 心の中でそう言い聞かせて、笑みを浮かべて後ろを振り向いた。

「なになに、どこの新作?」
「あ、萌、レッドムーンの新作だよ。アクセと化粧品の新作が一気に出たの! 化粧品はファスティナとコラボしてるやつ」
「えっうそ! 知らなかった! みせてー!」
「ほらこれー」

 見せてもらった口紅を、さも興味があるように覗き込んで、笑みを浮かべた。

 ―――本当は、化粧品なんて、それほど興味ない。
 アクセサリーも、服も、そんなに興味ない。こだわりなんかそれほどない。
 それでもそれは、彼女達にとって、歪な存在として映るのだ。

 うまくやるためにはまず私がうまくその波に乗れるようにならないといけないのだと悟ったのは高校生の頃。

 こういうのが流行るのか。へぇそうなんだ。でも私はいいや、別に欲しくないし。

 そう言えたらどんなに楽だろうか。
 女の子らしく身なりを整えるのが面倒だと、億劫だと言えたら、あなたたちの噂話が一番退屈なんです。その輪に入りたくないんです。
 私は私が好きな人とだけ好きな話をできたらそれでいいんです。

 そう、言えたらどんなにいいか。
 でもそれでは立ち行けなくなることも知っていた。
 それでは私はこの世界から弾かれて、攻撃を受けてしまう事を、ちゃんとわかっていた。

 だから私は今日も、仮面をかぶるのだ。
「流行りものが好きで、ノリがよくて、面白い、よく喋る、七種萌(さえぐさもえ)」というその人格を。

 もう過去の記憶だと、そうわかっているのに、もう周りはみんな大人だからとそうわかっているのに。
 どうしてもその一歩が踏み出せない。
 本来の自分を、どうしても表に晒せない。

 本来の七種萌は、ファッションにも化粧品にも興味はない、ただただ地味で冴えない女の子。趣味は読書と庭いじり。
 華やかな人達に混ざるのは、苦痛で仕方なかった。

 それでも。
 それでも、自分の身を守るためにはこうすることしか選択出来なかったのだ。

 私は過去、小学校1年生から中学校3年生まで、酷いいじめを受けていた。




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