1 / 40
1.被った仮面
しおりを挟む苦しみの殻から抜け出せなくて。
でも、そこから抜け出したいと望んで。
それでもどうにもならなかった。
どうすればいいかわからなかった。
心を取り巻く黒いモヤはいつまでも自分の中に残っていて、それを取り除く術が見つからなかった。
もう、あの頃の私じゃない。
そう思ってるのに。そう言い聞かせているのに。
どうしても、どうしても、まとわりつく嫌な記憶が身体を固くする。
浮かべた笑顔はちゃんと笑えてるのか。
周りの話にちゃんと合わせてられるのか。
そんなことばかりが気にかかる。
前を、向きたいのに。
自分の足で進みたいのに。
何もできなくて、何も変わらなくて。
変わったつもりでいるのに、何も変えられていなくて。
誰か、助けて。
私をここから引き上げて。
いつだって心のどこかで、そう、祈ってた。
【勇気をください。】
「―――ねーあそこの新作買った?」
「買った買った! すごい可愛いの~!」
女子更衣室はいつもお祭りのように騒がしい。
周りをみればおしゃれに精一杯気を使った女子社員達。
有名なブランドの化粧品が出たなんてはしゃいで、口紅を見せ合っていた。
制服から着替えたことで、少しだけ乱れた髪の毛を整えて、ロッカーについている小さな鏡で顔色を確認する。
少しだけ緊張しているけれど、顔色が悪いわけじゃない。
大丈夫。私は大丈夫。
心の中でそう言い聞かせて、笑みを浮かべて後ろを振り向いた。
「なになに、どこの新作?」
「あ、萌、レッドムーンの新作だよ。アクセと化粧品の新作が一気に出たの! 化粧品はファスティナとコラボしてるやつ」
「えっうそ! 知らなかった! みせてー!」
「ほらこれー」
見せてもらった口紅を、さも興味があるように覗き込んで、笑みを浮かべた。
―――本当は、化粧品なんて、それほど興味ない。
アクセサリーも、服も、そんなに興味ない。こだわりなんかそれほどない。
それでもそれは、彼女達にとって、歪な存在として映るのだ。
うまくやるためにはまず私がうまくその波に乗れるようにならないといけないのだと悟ったのは高校生の頃。
こういうのが流行るのか。へぇそうなんだ。でも私はいいや、別に欲しくないし。
そう言えたらどんなに楽だろうか。
女の子らしく身なりを整えるのが面倒だと、億劫だと言えたら、あなたたちの噂話が一番退屈なんです。その輪に入りたくないんです。
私は私が好きな人とだけ好きな話をできたらそれでいいんです。
そう、言えたらどんなにいいか。
でもそれでは立ち行けなくなることも知っていた。
それでは私はこの世界から弾かれて、攻撃を受けてしまう事を、ちゃんとわかっていた。
だから私は今日も、仮面をかぶるのだ。
「流行りものが好きで、ノリがよくて、面白い、よく喋る、七種萌(さえぐさもえ)」というその人格を。
もう過去の記憶だと、そうわかっているのに、もう周りはみんな大人だからとそうわかっているのに。
どうしてもその一歩が踏み出せない。
本来の自分を、どうしても表に晒せない。
本来の七種萌は、ファッションにも化粧品にも興味はない、ただただ地味で冴えない女の子。趣味は読書と庭いじり。
華やかな人達に混ざるのは、苦痛で仕方なかった。
それでも。
それでも、自分の身を守るためにはこうすることしか選択出来なかったのだ。
私は過去、小学校1年生から中学校3年生まで、酷いいじめを受けていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる