5 / 21
一章 幼少期
家族だから
しおりを挟む
クラーク先生とハデスから聞いた昔話。
それは、とても辛く悲しいお話で、数日経った今でも暗い気持ちが尾を引く。
ベッドに横たわったまま天を仰ぐ。
(ハデスがその末裔かもしれない、のよね……)
恐怖は全くなかったが、その事がハデスを落ち込ませている原因なら、どうにかしたいと思った。
ゴロリと自室のベットの上を転がって顎に手を当てる。ふむ。
(今後私が平穏に過ごす為にも、そういうのはきちんとしておかないとね……!それに家族には笑っていて欲しいもの!)
そうと決まれば、行動あるのみ。
まあノープランだけど。ハデスに会えば何かいい案が浮かぶかもしれないし……!
それに、顔を合わせて話をするだけでもきっと良いはず……!まあなんとかなるでしょう!
普段の私なら、朝食後はまだもう少しベッドでゴロゴロとしてから部屋を出るのだが、今日は大事な予定があるから、早々に部屋を出る。
(ハデスに会いに行こう……!)
そう思い立った私は、アビーを引き止めて部屋に引き込む。
ハデスがくれた首飾りを着けて、アビーに頼んでその首飾りに合う服を見繕ってもらった。私って可愛い……!
「お嬢さまは可愛すぎます……!あぁ……愛らしい……」
アビーは拝みそうな勢いで私を見つめている。
そんなアビーは置いておいて、私は鏡の前でクルリと一回転。オフホワイトのスカートのレースがふわっと舞って可愛らしい。
「最高に可愛らしいです」
拝み出してしまったアビーは置いておいて。
ハデスがくれた空色の首飾りに合わせてくれたのは、淡い色のワンピース。レースをふんだんに使って可憐なお嬢さまみたい。
背中には手触りの良い大ぶりのリボンが、更に可愛らしさを演出している。
思わず自画自賛してしまったけど、だって本当に可愛いんだもの。前世の自分と違って、ふわふわの銀髪に大きな目、色白な肌に華奢な手足。
そして大抵の色は似合う可愛らしい見た目。
自分じゃなければもっと褒め称えただろうにと、少しだけ残念。
「誰も見せたくないくらい素敵ですわ……」
アビーの目が段々と獲物を狙う獣の様なものに変わってきて怖い。放置ね。
可愛い服を着てご機嫌な私は、スキップでもしてしまいそうなくらいに軽やかな足取りで長い廊下を歩く。
もちろんアビーは部屋に置いて来た。だってなんか怖いんだもん……!
ハデスの部屋の前までやって来た。
この時間なら、ハデスは部屋にこもって本を読んでいるはず。それも何か難しそうな本。
そう思ったけれど、とりあえず扉をノックしてみる。
……返事がない。まあ本に熱中していたら、周りの音なんて耳に入らないわよね。
そう思って、もう一度ノック。
次は慌てた様な様子で、本だろうか重い物が落ちる様な物音がして、すぐに扉が開いた。
「お、お姉さま……?!」
落としたものは大丈夫なのかしら。
慌てていたからか、いつもならしっかりと結ばれている首元のリボンが歪んでいた。
その様子があまりにも可愛らしかったので笑ってしまった。そのままリボンを直してあげたら、ハデスは真っ赤な顔で「すみません」と謝った。
ハデスが部屋に招き入れてくれる。
私の部屋と違って、とてもシンプルな部屋。というか物がない。
ベッドにソファー、テーブルにクローゼットのみ。これは初めに両親がハデスにと用意したもの。
それ以外にも色々と買おうとしていたが、ハデスが断ったのだっけ。
私なんて、本が欲しいだとか、可愛らしい服が欲しいだとか、色々と強請ったのに。無欲なのかしら。
そのせいもあって、とてもシンプルすぎる部屋になっているのか。生活感ゼロなんだけど。
それでもハデスは幸せそうに笑っているから、まあいいかと思い直す。
「今日はハデスがくれた首飾りに合う服にしてみたの。……どうかしら?」
直接問うのは恥ずかしかったが、思い切ってハデスに感想を求めた。
片手で首飾りを示して、もう片手でスカートの裾を軽く摘まみ上げる。
ハデスは、真っ赤な顔のまま視線を彷徨わせていた。
「……すごく、似合っています……。綺麗、です……」
ハデスの言葉に嬉しくなって、その場でクルリと華麗なターンを決めてしまった。こんな愛らしい子に綺麗って言われたよ。嬉しすぎる。
ガッツポーズをしたくなったが、それはやめておいた。せっかく可愛らしくオシャレをしたんだもの、はしたない事はしない方がいいものね。
そんな私の奇行に、ハデスは目をまん丸くさせていた。なんかごめん。
ちょっと浮かれちゃったのよ。猛省。
小躍り(奇行)はやめて、ずっと気になっていた事を問う。
「……そういえば、ハデスはどうして私に対しても丁寧に話すの?」
私がそう尋ねると、ハデスは困った様な表情を見せる。
「失礼があっては、いけませんから……。だから、その……、丁寧に話さなくてはと……」
(失礼?何に対して?)
というか家族なら多少の失礼や迷惑なんてあって当然だ。何も気にする事なんてないのに。
せっかく家族になったのに、まだ遠慮をするのかと、ほんの少し悲しくなる。
私は大きな目いっぱいに涙を溜めてハデスを見つめる。
「私たち、家族になったのよ?迷惑なんていくらだってかけてくれていいし、話し方だって、もっと砕けた口調でいいのよ。だって、それが家族というものでしょう」
仲良くなりたいとこちらがいくら思っても、相手が応えてくれなければ意味がない。
家族になったんだから、仲良くなりたいしたくさん笑って欲しい。これは私のわがままだ。
私がボロボロと大粒の涙を零した事で、ハデスは大慌てだった。
あわあわを慌てた様子で、ハンカチを引っ張り出して私の目を抑えてくれる。少し痛い。
不器用な優しさに笑みが零れる。
当初はてっきり、ハデスは私たち家族と親しくなりたくはないのかと思っていたのだが、それは杞憂だった様だ。だってこんなにも優しい。
泣くつもりは毛頭なかったのだけれど、そのお陰で珍しいハデスが見られたから良しとしよう。
「急に泣いてしまってごめんなさい」
私が謝罪すると、ハデスはお姉さまは何も悪くないですと困り顔。
「僕の方こそ……ごめんなさ……」
「許さないわ」
「え」
ハデスの謝罪を私は遮る。きっと謝るだろうと思っていたから、即座に言葉を吐く。
私の言葉に、顔色がみるみる青白くなっていくハデス。ああ違うのよ、困らせたい訳ではなくって。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ言葉を続ける。
「丁寧な話し方と遠慮をやめる事」
「……え?」
そう言って私がにこーっと笑うと、ハデスは青白くしていた顔色を朱色に染め上げていく。天使かしらね。
「この二つをここできちんと誓ってくれるのなら、許すわ」
どう?と私が言葉を重ねる。
「わかりました……。いや、えっと……わかっ、た……」
「それと、お姉さまだなんてイヤよ。姉さんと呼ぶくらいにしてちょうだい。いっそ名前だけ呼ぶとか、ね」
少しだけわがままを言ってみる。ウインク付き。多分上手くできたはず、多分。
軽くハデスが吹き出していたから、もしかしたら両目を閉じてしまって、ウインクが失敗してしまっていたのかしら。前世からウインクだけは苦手なのよ。
ハデスは何度も首を縦に振り、わかったと言ってくれた。
ハデスが落ち着くのを待っていると、ハデスが私の手をそっと握った。
「姉さん……」
ハデスの上目遣いの破壊力がすごい。可愛すぎる。
「その……、ありがとう」
真っ直ぐに私の目を見て話す。こんなに真っ直ぐと話をするなんて初めてじゃないかしらと、嬉しくなる。
「お礼を言われる様な事、私してないわ」
ちょっと恥ずかしくなってツンとした態度を取ってしまう。
そんな私にはにかんだ笑顔を浮かべるハデス。だから可愛すぎるのよ、貴方はもう。
「そういえば、私、ハデスに聞きたいことがあったのよね」
と私が言うと、なぁに?と首をコテンと傾ける。可愛すぎだって。
あざとい仕草も、あざとさなんて感じないくらいに可愛らしい。
「魔術の使い方を教えて欲しいの」
「魔術?」
花を咲かせたり、その花をアクセサリーにしたりと、かなり使ってみたい素敵な力だもの。
「私も花を咲かせてみたいの」
私がそう言えば、ハデスは蕩ける様な笑顔を向けてくれた。
(美少年の笑顔は眩しすぎて目が潰れそうだわ……!)
思わず目眩がしそうなほどの笑顔で口元が緩みそうになるのを、必死に直す。
「どうやったらハデスの様にあんなに綺麗な花を咲かせる事ができるの?」
「ええっと……。『花よ、咲け』って、花壇に向かって念じて、気が付いたら花が咲いてて……」
なるほど、念じるのか。
ファンタジーとかによくある、中二病臭い詠唱はしなくてもいいのね。正直言うと、ああいう長ったらしい詠唱って言うの恥ずかしいのよね。
(念じる……。念じるんだ……)
両手を真っ直ぐ前に伸ばして、目をぎゅうっと瞑って念じる。何を念じるんだっけ。
(ええっと……。ああもう何でもいいから出て来い……!)
ポンっという間の抜けた音がしたかと思えば、テーブルに何かが現れた。
「姉さん、これはなぁに?」
困惑した様な声色で私に問いかけるハデス。恐る恐る目を開けると、そこにはふわふわと柔らかそうな真っ白なテディベアが。
「え?」
何でもいいから出て来いって念じた、のよね……?でもなんでテディベア?
しかも私の髪の色とお揃いの銀色のリボンをしている。
(ハデスは自分の瞳と同じ色の首飾りを、お守りと言ってくれたんだっけ)
なら、このテディベアはハデスに渡さなければ。
「ハデスにあげるわ」
「でも……」
「ハデスは自分の瞳と同じ色の首飾りをくれたでしょう?だから私も、自分の髪と瞳と同じ色のものを渡したくて」
だから魔術を教わりたかったのよと付け加えると、ハデスははわはわとゆでダコの様に真っ赤になってしまった。
ハデスとテディベア。可愛すぎるコンビね。
ここにアビーがいたら「あああああなんて可憐な組み合わせなんでしょうか……!本当に素敵すぎます!はあ……尊い……」なんて言って。
ってなんでいるのよ。両膝を床につけて両手を組んで頭上に掲げて祈りのポーズ。怖いわよお姉さん。
ハデスはもっと恐怖を感じているらしく、小さく「ひぃっ」という悲鳴をあげて、私にしがみついていた。
それは、とても辛く悲しいお話で、数日経った今でも暗い気持ちが尾を引く。
ベッドに横たわったまま天を仰ぐ。
(ハデスがその末裔かもしれない、のよね……)
恐怖は全くなかったが、その事がハデスを落ち込ませている原因なら、どうにかしたいと思った。
ゴロリと自室のベットの上を転がって顎に手を当てる。ふむ。
(今後私が平穏に過ごす為にも、そういうのはきちんとしておかないとね……!それに家族には笑っていて欲しいもの!)
そうと決まれば、行動あるのみ。
まあノープランだけど。ハデスに会えば何かいい案が浮かぶかもしれないし……!
それに、顔を合わせて話をするだけでもきっと良いはず……!まあなんとかなるでしょう!
普段の私なら、朝食後はまだもう少しベッドでゴロゴロとしてから部屋を出るのだが、今日は大事な予定があるから、早々に部屋を出る。
(ハデスに会いに行こう……!)
そう思い立った私は、アビーを引き止めて部屋に引き込む。
ハデスがくれた首飾りを着けて、アビーに頼んでその首飾りに合う服を見繕ってもらった。私って可愛い……!
「お嬢さまは可愛すぎます……!あぁ……愛らしい……」
アビーは拝みそうな勢いで私を見つめている。
そんなアビーは置いておいて、私は鏡の前でクルリと一回転。オフホワイトのスカートのレースがふわっと舞って可愛らしい。
「最高に可愛らしいです」
拝み出してしまったアビーは置いておいて。
ハデスがくれた空色の首飾りに合わせてくれたのは、淡い色のワンピース。レースをふんだんに使って可憐なお嬢さまみたい。
背中には手触りの良い大ぶりのリボンが、更に可愛らしさを演出している。
思わず自画自賛してしまったけど、だって本当に可愛いんだもの。前世の自分と違って、ふわふわの銀髪に大きな目、色白な肌に華奢な手足。
そして大抵の色は似合う可愛らしい見た目。
自分じゃなければもっと褒め称えただろうにと、少しだけ残念。
「誰も見せたくないくらい素敵ですわ……」
アビーの目が段々と獲物を狙う獣の様なものに変わってきて怖い。放置ね。
可愛い服を着てご機嫌な私は、スキップでもしてしまいそうなくらいに軽やかな足取りで長い廊下を歩く。
もちろんアビーは部屋に置いて来た。だってなんか怖いんだもん……!
ハデスの部屋の前までやって来た。
この時間なら、ハデスは部屋にこもって本を読んでいるはず。それも何か難しそうな本。
そう思ったけれど、とりあえず扉をノックしてみる。
……返事がない。まあ本に熱中していたら、周りの音なんて耳に入らないわよね。
そう思って、もう一度ノック。
次は慌てた様な様子で、本だろうか重い物が落ちる様な物音がして、すぐに扉が開いた。
「お、お姉さま……?!」
落としたものは大丈夫なのかしら。
慌てていたからか、いつもならしっかりと結ばれている首元のリボンが歪んでいた。
その様子があまりにも可愛らしかったので笑ってしまった。そのままリボンを直してあげたら、ハデスは真っ赤な顔で「すみません」と謝った。
ハデスが部屋に招き入れてくれる。
私の部屋と違って、とてもシンプルな部屋。というか物がない。
ベッドにソファー、テーブルにクローゼットのみ。これは初めに両親がハデスにと用意したもの。
それ以外にも色々と買おうとしていたが、ハデスが断ったのだっけ。
私なんて、本が欲しいだとか、可愛らしい服が欲しいだとか、色々と強請ったのに。無欲なのかしら。
そのせいもあって、とてもシンプルすぎる部屋になっているのか。生活感ゼロなんだけど。
それでもハデスは幸せそうに笑っているから、まあいいかと思い直す。
「今日はハデスがくれた首飾りに合う服にしてみたの。……どうかしら?」
直接問うのは恥ずかしかったが、思い切ってハデスに感想を求めた。
片手で首飾りを示して、もう片手でスカートの裾を軽く摘まみ上げる。
ハデスは、真っ赤な顔のまま視線を彷徨わせていた。
「……すごく、似合っています……。綺麗、です……」
ハデスの言葉に嬉しくなって、その場でクルリと華麗なターンを決めてしまった。こんな愛らしい子に綺麗って言われたよ。嬉しすぎる。
ガッツポーズをしたくなったが、それはやめておいた。せっかく可愛らしくオシャレをしたんだもの、はしたない事はしない方がいいものね。
そんな私の奇行に、ハデスは目をまん丸くさせていた。なんかごめん。
ちょっと浮かれちゃったのよ。猛省。
小躍り(奇行)はやめて、ずっと気になっていた事を問う。
「……そういえば、ハデスはどうして私に対しても丁寧に話すの?」
私がそう尋ねると、ハデスは困った様な表情を見せる。
「失礼があっては、いけませんから……。だから、その……、丁寧に話さなくてはと……」
(失礼?何に対して?)
というか家族なら多少の失礼や迷惑なんてあって当然だ。何も気にする事なんてないのに。
せっかく家族になったのに、まだ遠慮をするのかと、ほんの少し悲しくなる。
私は大きな目いっぱいに涙を溜めてハデスを見つめる。
「私たち、家族になったのよ?迷惑なんていくらだってかけてくれていいし、話し方だって、もっと砕けた口調でいいのよ。だって、それが家族というものでしょう」
仲良くなりたいとこちらがいくら思っても、相手が応えてくれなければ意味がない。
家族になったんだから、仲良くなりたいしたくさん笑って欲しい。これは私のわがままだ。
私がボロボロと大粒の涙を零した事で、ハデスは大慌てだった。
あわあわを慌てた様子で、ハンカチを引っ張り出して私の目を抑えてくれる。少し痛い。
不器用な優しさに笑みが零れる。
当初はてっきり、ハデスは私たち家族と親しくなりたくはないのかと思っていたのだが、それは杞憂だった様だ。だってこんなにも優しい。
泣くつもりは毛頭なかったのだけれど、そのお陰で珍しいハデスが見られたから良しとしよう。
「急に泣いてしまってごめんなさい」
私が謝罪すると、ハデスはお姉さまは何も悪くないですと困り顔。
「僕の方こそ……ごめんなさ……」
「許さないわ」
「え」
ハデスの謝罪を私は遮る。きっと謝るだろうと思っていたから、即座に言葉を吐く。
私の言葉に、顔色がみるみる青白くなっていくハデス。ああ違うのよ、困らせたい訳ではなくって。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ言葉を続ける。
「丁寧な話し方と遠慮をやめる事」
「……え?」
そう言って私がにこーっと笑うと、ハデスは青白くしていた顔色を朱色に染め上げていく。天使かしらね。
「この二つをここできちんと誓ってくれるのなら、許すわ」
どう?と私が言葉を重ねる。
「わかりました……。いや、えっと……わかっ、た……」
「それと、お姉さまだなんてイヤよ。姉さんと呼ぶくらいにしてちょうだい。いっそ名前だけ呼ぶとか、ね」
少しだけわがままを言ってみる。ウインク付き。多分上手くできたはず、多分。
軽くハデスが吹き出していたから、もしかしたら両目を閉じてしまって、ウインクが失敗してしまっていたのかしら。前世からウインクだけは苦手なのよ。
ハデスは何度も首を縦に振り、わかったと言ってくれた。
ハデスが落ち着くのを待っていると、ハデスが私の手をそっと握った。
「姉さん……」
ハデスの上目遣いの破壊力がすごい。可愛すぎる。
「その……、ありがとう」
真っ直ぐに私の目を見て話す。こんなに真っ直ぐと話をするなんて初めてじゃないかしらと、嬉しくなる。
「お礼を言われる様な事、私してないわ」
ちょっと恥ずかしくなってツンとした態度を取ってしまう。
そんな私にはにかんだ笑顔を浮かべるハデス。だから可愛すぎるのよ、貴方はもう。
「そういえば、私、ハデスに聞きたいことがあったのよね」
と私が言うと、なぁに?と首をコテンと傾ける。可愛すぎだって。
あざとい仕草も、あざとさなんて感じないくらいに可愛らしい。
「魔術の使い方を教えて欲しいの」
「魔術?」
花を咲かせたり、その花をアクセサリーにしたりと、かなり使ってみたい素敵な力だもの。
「私も花を咲かせてみたいの」
私がそう言えば、ハデスは蕩ける様な笑顔を向けてくれた。
(美少年の笑顔は眩しすぎて目が潰れそうだわ……!)
思わず目眩がしそうなほどの笑顔で口元が緩みそうになるのを、必死に直す。
「どうやったらハデスの様にあんなに綺麗な花を咲かせる事ができるの?」
「ええっと……。『花よ、咲け』って、花壇に向かって念じて、気が付いたら花が咲いてて……」
なるほど、念じるのか。
ファンタジーとかによくある、中二病臭い詠唱はしなくてもいいのね。正直言うと、ああいう長ったらしい詠唱って言うの恥ずかしいのよね。
(念じる……。念じるんだ……)
両手を真っ直ぐ前に伸ばして、目をぎゅうっと瞑って念じる。何を念じるんだっけ。
(ええっと……。ああもう何でもいいから出て来い……!)
ポンっという間の抜けた音がしたかと思えば、テーブルに何かが現れた。
「姉さん、これはなぁに?」
困惑した様な声色で私に問いかけるハデス。恐る恐る目を開けると、そこにはふわふわと柔らかそうな真っ白なテディベアが。
「え?」
何でもいいから出て来いって念じた、のよね……?でもなんでテディベア?
しかも私の髪の色とお揃いの銀色のリボンをしている。
(ハデスは自分の瞳と同じ色の首飾りを、お守りと言ってくれたんだっけ)
なら、このテディベアはハデスに渡さなければ。
「ハデスにあげるわ」
「でも……」
「ハデスは自分の瞳と同じ色の首飾りをくれたでしょう?だから私も、自分の髪と瞳と同じ色のものを渡したくて」
だから魔術を教わりたかったのよと付け加えると、ハデスははわはわとゆでダコの様に真っ赤になってしまった。
ハデスとテディベア。可愛すぎるコンビね。
ここにアビーがいたら「あああああなんて可憐な組み合わせなんでしょうか……!本当に素敵すぎます!はあ……尊い……」なんて言って。
ってなんでいるのよ。両膝を床につけて両手を組んで頭上に掲げて祈りのポーズ。怖いわよお姉さん。
ハデスはもっと恐怖を感じているらしく、小さく「ひぃっ」という悲鳴をあげて、私にしがみついていた。
39
あなたにおすすめの小説
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる