ただのモブなので、お気になさらず。

空酉(ことり)

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三章 前学期

中庭にて

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中庭のベンチで和やかに談笑していたらしいタルタロスとヘルメス、アテネにアレス、タナトスは、私たちに気付くと話をやめてこちらへ視線を向けた。
美形集団との対面に思わず癒される私。
サナもアルテミスもハデスも同様に癒されているのだろう、穏やかな笑みを浮かべている。景色も良くて、さらに美形集団だからね、余計に癒されるよ。
「随分と沈んだ顔をしているな。何かあったのか?」
心配そうな声色のアレスがハデスに声をかける。ハデスは気にしないでくださいと言って、頭を抱える。いやいや、そんなことされたら余計に気になるわ。
タルタロスに至っては、私たちが沈んでいる原因を知っているのであろうか、静かで哀れむような笑みを浮かべていた。
「少し苦手な方がいらっしゃっただけですわ」
アルテミスが目を伏せながら言葉を濁す。
「ふぅん?」
楽しそうに返事を返したのは、タルタロスだった。のんきにどんな人なのなんて聞いてくる。こっちはそんな気分ではないというのに。
「そんな事よりも、どうして皆さまお揃いで中庭にいらっしゃるのかしら。私はそちらの方が気になりますわ」
若干引きつったような笑顔でアルテミスが話題を変える。少し強引だけれど仕方ない。
「特に集まろうと言った訳ではなかったんだけれどね。初めは僕とアレスが中庭で景色を眺めて座っていたんだ。それからタルタロスがアテネとヘルメスを連れて歩いていたから、一緒に過ごさないかと誘ったんだ」
「僕は二人からアリエスの話を聞かされながら中庭を散策していたんだよ」
タルタロスが笑顔のままで付け足す。
私の話?
私の疑問には答えないままニコニコと笑顔を浮かべるタルタロス。
「アリエスは随分と愛されているね」
なんて意味深な笑みを浮かべて私に囁いた。

「そんな事よりも、君たちが沈んでいる理由が知りたいのだけれど」
アルテミスが流したはずの話題を笑って戻すタルタロス。
せっかく笑顔だったアルテミスが虚無の表情になっている。美少女がしていい顔ではないわよ。
「先ほども言いましたが、苦手な方がおりまして、今日一日その方といたので疲れただけですわ」
「君たちが苦手と言うような方がいるなんて、驚きだよ」
苦手な相手を聞きたそうな表情のタルタロスに、タナトスが手で制する。え?天使?
「疲弊している彼女たちに、そんなに絡んではいけないよ。僕もその相手が気になるところではあるけれども。それでも今はゆっくりしてもらうべきだよ」
タナトスのありがたい言葉に私たちはほっと息を吐く。
「ずっと立っていても疲れるだけだろう。座ってくれ」
どうぞと言って、空いているベンチを示す。
その言葉に甘えて腰を落とす。

「それで?」
タルタロスの言葉に一瞬思考が止まる。
「君たちに苦手な相手がいるという話だよ。教えてはくれないのかな?」
至極楽しそうな表情で言葉を紡ぐ。その話はさっきタナトスにうやむやにされたのではなかったか。
「…………エレボス先生よ」
サナが、名前を呼ぶことすら苦痛だと言うように苦い顔をして言葉を絞り出す。
「……ああ。あの方か」
アレスが納得したような表情を浮かべる。アレスも苦手なのか。
「僕もあまり彼は得意ではないな」
少し困ったような顔でそう返したヘルメス。
アテネも同意見だったのだろう、困ったような顔で笑った。
おそらく全員が苦手だと感じているのだろうことが伝わった。
きっと悪い方ではないのだろうけれど、どうしても苦手なのよね。


みなが一様に沈んだ表情をしていた。そんなしんみりとした空気を壊したのは、サナのお腹の音だった。
元気いっぱいに空腹を訴えたサナの腹の音に、思わず笑いがこみ上げる。当の本人は恥ずかしさで耳まで真っ赤に染めていたのだけれど。
サナのお陰で、沈んでいた雰囲気が和やかなものに変わった。
「食堂へ行きましょうか。私もお腹が空いてしまって……」
アルテミスが恥ずかしそうな笑みを浮かべながら提案する。みなその提案に賛成だったので、全員で食堂へ向かう。
(空腹だったから余計に嫌な事を考えてしまったり、気分を害してしまったりしてしまっていたのね)
そういう事にしておく。というか、全員エレボスが苦手なのね。わかるわ。


食堂に着くと、人はまばらで座る場所も選び放題だった。
それぞれが食べたい物を頼み、奥の広い席へ着いた。
「あーもう!お腹空いたぁ……!」
サナが我慢できないと言うようにお腹を撫でる。
目の前に並んだ食事に、サナのお腹がまた空腹を訴えた。
「もー我慢できないっ!いただきますっ!」
サナの言葉に皆が食事を始める。うん、今日もご飯が美味しい。
サナは幸せそうにご飯を頬張る。リスみたいで可愛らしい。
頬にパンくずが付いているサナの頬にそっと手を伸ばす。
そんな私に気がついたのか、私が手を伸ばすよりも先にアルテミスがサナの頬を取った。
「サナ様、頬にパンくずが付いていましたわ」
アルテミスの言葉に、サナは顔を赤くさせて、小さな声でありがとうと呟いた。

その後みんなで和気あいあいと談笑しながら楽しい食事の時間が過ぎて行った。
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