BEST TIME

yon

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第8話

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「どう?肉美味しい?」



そう、顔を覗き込んでくる青川さん。

私は口いっぱいに肉を頬張りながら

こくこくと頷いた。



あの日から約1週間経ち 私達はビルの屋上で星空の中バーベキューをしている。

やはり私だけ未成年なので、あちらで成人組が酒を飲み盛り上がっている。

なのに、青川さんは

私の隣に座り、缶ビール片手にずっと思いつめた

ような顔をしていた。






すると、

「なぁ 鈴ちゃんは何であの曲が好きなんだ?」


急に話をふられた。まだ口に食べ物が入ってい

る。急いで飲み込んでいると







「あの曲 そこまで好きな人いないだろう。

みんな、ドラマの主題歌になった曲とか最新の

曲。励ましの曲。そういうのが好きだろう。

けどあの曲は俺が言いたい事だけを詰め込んだ曲 だから誰にも理解されないんだ。

だから、みんな興味をなくすし、気に入らないと思ってた。

なんで鈴ちゃんは…?」



悲しいような、胸が締め付けられるような、真面目な顔で真剣に私を見つめながら青川さんはそう言った。







私は考えた。そして飲み込んでこう言った。





「理解されない。というのは少し違いますね。

理解したいけど理解出来ないから、共感したいと思うのをやめてしまうのです。

あの曲は、

青川さんの中身を知らないとわからない曲だと

思いますよ。あなたの人生を、積み上げた人格を、宇宙を、知ることで初めて理解出来ると思います。



私は理解したいと思い何年間も聴いてきました
がまだ全然共感できていません。あなたの

複雑な言葉が心に残りました。

あの曲から私は青川さんのファンになったんです。

あなたというアーティストをもっと知りた
て。ふふ。」

そういって微笑んでみせた。






青川さんはうつむいいて目をつぶり、

安心したような、解放されたような笑みを浮かべ

手を差しのべ私の頭をくしゃくしゃと撫でると、

次の缶ビールを手にして私から離れ

スタッフさん達の話に加わりに行き笑いあっていた。





なんだったんだろうと苦笑いを浮かべ、撫でられたことに喜び、

私は次の肉を頬張った。
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