BEST TIME

第13話

飲み会も終わり帰ろうとしていたら

坂口さんに

「鈴ちゃん、ちょっといい？」

と、止められた。


一体何の用だろうと足を止めると


「今日、たくさん話せて楽しかったよ。」


「私も、たくさん話せて楽しかったです。」


「本当に鈴ちゃんって可愛いね。優しいし、いい子だし。青川さんが羨ましいよ…。」

そういうとじりじり詰め寄ってきた。

「そんな事無いですよ。坂口さんもいい人です。あの、どうかされましたか？」




すると、私をいきなり抱きしめた。

「鈴ちゃん。僕は…僕は、鈴ちゃんの事が好きになった。本当に可愛い。好きなんだ。付き合って欲しい。」


私は目の前が真っ暗になりかけた。
男性に抱きしめられた事は初めて
それも本当にいきなりで
恐怖が身体を包み込んだ。
突き放したくても震えと硬直で突き放せない。
怖い、怖い。
声にならない叫び声をあげた。
声にならない恐怖が体の中を荒れ狂った。

「はっ…」

私は無理やり引きつった笑顔を作った。

「あの、まだ今日知り合ったばかりですし、その…ごめんなさい。」


すると、坂口さんはするっと腕を緩ませ


「そうか…残念だな。でも、またチャンスはあるよね。また遊ぼうね。」

そう言うと手を振り帰っていった。


私は、固い笑顔を作り手を振った。


坂口さんが見えなくなると急に寒さが身体を襲って腰が抜けそうだった。


恐かった。悲しい。
えもいわれぬ残酷な感情が心を締め付けた。
涙をこらえるのに必死だった。



「…鈴ちゃん。」



後ろから声が聞こえた。
１番そばに来て欲しかった人の声だった。


「青川さん…！」

私は振り返った。


「最初から見てたよ。抱きしめられて…どう思った？」


「恐かった…恐かったです…。」

そう言うと涙が溢れてしまい泣いてしまった。


青川さんは酷く傷ついた顔をした。



すると、私を抱きしめた。


強く、優しく。


すごく暖かくて、安心した。幸せ

「ごめん。防げばよかった。なぁ、俺に抱きしめられて恐くない？」

「恐く…ないです。青川さん…。ありがとう…。」

そしてしばらく青川さんの胸の中で泣かせてもらった。





「鈴… 


俺は生きる意味も 忘れちまった

お前と 分かり合えるだろうか…。」


そう呟き始めた。




「誰か俺を呼んでくれ 魂を呼び戻しておくれ…

知ったかぶりの little girl

似てない2人は 霧にまぎれて 

お互いを探し合うのだけれど…。」




間違いなくあの曲だった。

私も一緒に歌った。

「 答えなんて見つからないから

いつまでもさまよっている…。」


ハモった。私の耳元で歌ってくれた。
私と彼だけの歌だった。

「泣き止んで、鈴。俺は鈴の悲しそうな顔を見ると悲しくなる。」

そう言ってまた、強く抱きしめた。