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yon

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第33話

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久しぶりに、百合子と会った。



徐々に大きくなりつつあるお腹を眺めると、



巡る命を考えさせられる。



私たちは、何のために生まれてきたのだろうな、と。



子孫繁栄を何のためにするのだろうか?



宇宙の約束の全てに意味はあるのだろうか。



あらゆる快楽、欲望のためにあるような気がするのは人間だけなのではないか。


私たち以外の生物は生き延び、子孫繁栄することに必死なのに

人間は娯楽を憶えている。なぜ、いつこの歯車はおかしくなったのだろう。



私は、撫でていい?と聞き了承を得てから百合子のお腹を撫でた。


…あたたかい、この膨らみ。



百合子は、母になるのだ。


百合子の腹の中で百合子ではない何かが住んでいるのだ。


百合子の結晶と、百合子の旦那さんの結晶。



愛の結晶なんてよく言うが、まさにその言葉に等しい。



愛に包まれ、生きる種。


子供が出来る。という事に不純な感情を抱く者も少なからずいるだろう。



だが、この新しい命の前では ただ、ただ清らかで美しい心でいれる。



素晴らしい。巡る命のバトンを受け継ぐ者がこの腹の中にいる…。


一種の美学のようにも思えた。



やはり、愛は必要なんだ。愛があるからこそ人間は子孫繁栄する気になれるんだ。


私もいつか…青川くんと子孫繁栄するのだろうか…。


なんて、夢を見るけれどまだ若すぎる。


私は20。彼は22。


単純に言ってしまえばガキだ。


ガキが子供の世話をすることが出来るのだろうかという話になると、不安にもなる。


まあそれは、いろいろな親たちが最初に抱えた不安なのだろうけれど、私のような子供だとさらに不安になる。



そんな中で百合子は出産、結婚を決意したのかと思うと、


百合子を尊敬してしまう。私と歳が一緒なのに…不安が見えない。


元々の性格から、やるといえばやる!という強気な女性だったが、


母親になる決意は相当なのだと思う。



百合子にはこれから色々な大変なことが起こるのだろう。


…でも一筋の光。すなわち、彼らの間に宿った新しい命が彼らを微笑ませ、忘れさせてくれるはずだ。



私は、美しい未来を信じる。この私が触れているこの世を将来動かしていかなければならない者が未来を支えてくれることを。


今の子供達が、今大人が支えている全てを知らず知らずのうちにバトンタッチしていくのだ。


私たちは、今の子供たちのために頑丈な社会を作り、支えていかなければならないのだ。



それが、私達、社会人の出来るプレゼントなのだ。


貪欲でみすぼらしい、愛の無い世界を作ってはいけないよ。子供達よ。


私達は、愛を持たなければならない。


たとえ、憎いやつでもいいところはあるさ。


自分が、しょうがないやつだ。ここは、私が大人になって大目に見てやろうという気持ちをもたくては


愛のある世界からは、程遠いだろう。



いじめなんてしている場合では無い。武器を捨てろ。部屋の隅にいるな。布団の中から出てこい。酒に浸かっている奴は、あと一杯飲んだら店を出ろ。

世界のみんながよく眠れる日が来るまで働こうじゃ無いか。
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