蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

文字の大きさ
16 / 125
獣人の国と仕立て屋ドワーフ

第11話

しおりを挟む
 大迷宮地下三十層にある獣人たちの国、そこに古くから店を構えるドワーフの仕立て屋がある。『仕立て屋ジャッドゥ』この店は迷宮が出来て約二千年の間、ロロルーシェの専属と言って良い程に繊細で精巧な装備を作ってきた。
 三年前の『メイド服』と呼ばれる服もそうだ、ロロ様の従者ノル嬢とメル嬢が着る正装で近接戦闘にも十分耐えれる代物が作れたと『仕立て屋ジャッドゥ』の十代目店主『マコチー・ジャッドゥ』は誇らしく話していた。
 だが、今回依頼された服にはどうしても納得が出来ない。リリルカ様の魔法衣は、完成している。風の魔法を編みこんだ糸で刺繍を施し、風に舞う葉を表現した緑色の魔法衣。火の魔法を編みこんだ糸で刺繍を施し、炎が燃え上るさまを表現した赤色の魔法衣。この二つに関しては、申し分ない出来だ。
  悩んでいるのはもう一つ、ロロ様曰く『防御力は要らないから破れなくて動きやすい服』だそうだ。

 「防御力が必要のない・・それでも破れない服・・・なんだそれは・・・・」

 冒険者が装備するなら必ずと言って良いほど、防御力があるに越したことはない。追加で指輪や首輪などを、大金を払ってでも防御力を補うなんて良く聞く話だ。
 服の寸法を聞いたが、ロロ様やリリルカ様が着るよりも一回り大きかった、従者二名でもないだろう。分からない限り作れない。これは長年の拘りでもありプライドでもある。

 「どのみち、今日来ると言っていたな・・・見極めねばなるまい・・その服を着る者を!」

*
*

 ゴウン ゴウン
 
 昇降機が三十層にゆっくりと下りて行く。

 「そういえば、異世界から来たときに読んだメールの文章は絶対ルルルが書いたよな。ロロルーシェがあんな軽い書き方はしないだろう」

 ふと疑問に思ったので、イサムは増えていく数字を見ながら話す。

 「恐らくそうだと思います。そのメールを私達は見れないですが、ルルルは昔から明るいですが限度が過ぎる時もあります」

 ノルも扉上の数字を見ながら答える。

 「やっと服が着れるな」

 あまりにも沈黙が続くので、脈絡の無い会話をついしてしまう。

 「そういえば、こちらに来られた時は全裸でしたね。今着てるローブもリリルカのですから、かなり小さいのでは?」

 膝丈裸足のローブを着ているイサムを見てメルは言う。昨日の夜居なかったのでリリとルカの区別はないのだろう。しかし、可愛い顔をしてサラリと言われると流石にイサムも凹んでいる。

 「一応、私がリリで」
 「私がルカって事になってるよ」

 二人が答える。

 (ホントに髪色が金と銀に完全に分かれたな、俺が同時に蘇生したばっかりに・・・)

 いくら後悔しても、蘇生してくれた事に感謝はしても、誰も責めようとはしない。

 「そうですか・・私にとってはどちらもリリルカで良いのですが」
 「メルは本当にリリとルカを大事にしてるんだな」
 「もちろんです。家族ですから」

 ノルは上を見ながらも、うんうんと頷いている。

 そして三十層に到着し扉が開くと、一面緑の草原が続いている。昼のように明るいのは魔法だろう。ノルは遠くに見える壁に指刺しながらイサムに話す。

 「向こうの壁まで歩きます。その先の扉から獣人の国へ入りますので」

 (そういえば直径一キロは壁に覆われていると言ってたな)

 「了解、楽しみだなーネコ耳とかいるんだろ?」
 「ネコ耳?さぁ聞いた事ありませんが・・・・」

 さらっと否定する。

 「おいおいマジかよ・・・」

 楽しみが一つ減ったと思ったが、ネコと言う種族が居ないだけでそれに似た種族はいるらしい。壁まで近づくと、ノルが壁に触れる。どうやら魔法で仕掛けをしているらしく、すぅっと人が通れるほどの壁が消える。

 「魔法すごいな」
 「蘇生魔法使うあなたの方が凄いと思いますが?」
 「いやあれは魔力じゃなく体力だし・・・魔法といえるのか・・スキルじゃないかな・・・」

 壁を抜けると、民家のような家の中にでる。外から出入りが分からないようにする為のカモフラージュらしい。三十層で日をまたぐ場合などは、ここで寝泊りしていると言う。

 「では仕立て屋に向いましょう」

 ノルが早速と案内をする。民家の扉をでると、小路が続いておりその先に大きな繁華街が見える。

 「おー随分にぎやかだなぁ」
 「ここは獣人の国の中心街ですからね、それに冒険者がこの迷宮で到達する初めての街です。食べ物なども豊富に揃っていますよ。甘いお菓子などもありますから、エリュオンあとで一緒にいきましょう」
 「甘いお菓子!食べたい!」

 リリも何度か来ている様で、色々面白い店も知っているみたいだ。エリュオンもワクワクしている感じが見ただけで伝わる。
 
(やはり子供だな・・・)

 周りを見ると、随分と屈強そうな戦士風の人や魔法使いも目に付く。もちろん獣人も沢山居る、ネコ耳ぽいのも居るが犬耳とか色んな耳がいる。

 「獣人でも獣よりと人よりがいるんだな」
 「そうですよ、獣人さんたちも古い歴史があるので、その過程に分かれていったとおばあちゃんから聞きました。今はどちらの獣人さんたちも偏り無く居ますが、昔は獣型が少なかったらしいです」

 リリが教えてくれる。

 「へー歴史があるんだなぁ・・」
 「そろそろ仕立て屋につきますよ」

 繁華街から少し入った路地に『仕立て屋ジャッドゥ』の看板が見える。

 (そういえば、異世界なのに文字が読めるのは魔法なのか)

 古びた看板に、その店の歴史を感じる。ノルが扉を開けると、カウンターらしき物の前に一人の小柄な髭を相当生やした男性が座っていた。店主のドワーフ族『マコチー・ジャッドゥ』である。

 「まっていたぞ」
 「イサム、こちらは仕立て屋のマコチー・ジャッドゥよ」

 ノルが丁寧に紹介してくれる。

 「は・・はじめまして」

 小柄ながらも伝わってくる、雄々しい威圧感に少したじろぐイサム。

 「おう、マコチー・ジャッドゥだ、宜しくな青年。リリルカ様の品は出来てるぜ」
 「イサムの服は出来てないのですか?」
 「それだ・・・ロロ様からの連絡で聞いたが、どうしても着る人間を見なきゃ作れないと思ってな」
 「本当に拘りますね・・・そこまで気を使わなくても良いと思いますが」
 「ノル嬢!俺ぁ中途半端なものを作ったことは一度も無いぜ!そのメイド服もそうだ!」
 「はぁ・・そんな事はわかっております。ですが、裸にローブのままでは移動に不便です」
 「そんなことぁ分かってるわ!おい、俺の服もってこい!」

 マコチーは裏に居る弟子に自分の服を持ってこさせた。

 「おい青年!一応これでも着とけ!」

 そう言うと、自分の服をイサムに手渡す。

 「いや・・でも背丈があわないんじゃ・・」
 「つべこべ言うんじゃねぇ!そのまま裸でいたいのか!」
 「わ・・わかったよ・・こえぇなドワーフ族・・・」
 「ふん!文句を言わずに着れば良いものを!」

 頑固ジジイとはこの人の事を言うのだろう。イサムは渋々マコチーから受け取った服を試着室に持っていく。

 「あいつが着替えている間に、リリルカ様の服は渡しとくぜ。これは良い出来だ!」

 そういうと、奥から弟子が緑と赤の魔法衣を持ってくる。

 「そういや、リリルカ様はいつから二人になったんだ?」
 「いやぁ色々ありまして・・魔法で今は二人なんです」

    リリがそれとなく答える。

 「そうかぁまぁ魔法は色々あるから、俺にもわからんわ!がははは!」

 まぁ二着あるから丁度良かったなと言いながら、豪快な笑い声が試着室まで聞こえる。

 試着室で着替えたイサムは案の定だと言う位の格好で、試着室から出てくる。肩幅と腰周りは問題ないが、シャツは肘までズボンは膝丈までしかない。

 「イサム、ローブより良いわよ!」

 親指を立ててエリュオンが冷やかす。

 「また膝丈かよ・・まぁ・・予想はしてたけどな・・・」

 着替えを済ましたイサムに、マコチーが立ち上がり近寄ってくる。

 「まずはお前さんを知らん事には始まらない、今から二人で飲みにいくぞ!」
 「は?飲み?」
 「飲みって言ったら酒場だろうが!他の奴らは、そこらへんで時間でも潰しとけ!」
 「ちょっおい!まだ昼間だろ、酒飲んでいいのかよ!」

 そう言うイサムの腕を掴み、店から出て行く。他のメンバーは唖然としている。

 「ふぅ・・・頑固者のドワーフは十代目になっても変わらないのね・・・そう思うでしょメル?」
 「そうですね、お姉様。ではどうしましょうか?」
 「じゃぁお菓子食べに行きましょ!」

 エリュオンが言うとリリもルカも賛成と手を上げる。

 「まぁ殺される事はないでしょ」

 イサムの後に店を出る他の五人は、そんな冗談を言いながら甘いお菓子の店に向う。

 そしてイサムは、マコチーの後ろを嫌そうに、でも離れないように付いていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...