蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

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腐敗した国とメルの涙

第27話

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 南の町ルンドルから更に南へ三千キロ程進むと見えてくる国、かつて光の国と大陸全土から謳われた、レイモンド王国を継ぐと言われたタダルカス王国。しかし、そう言われていたのは三年前までだ。
 国王は病に伏せ今だ寝所から出てくることは無く、三人の後継者のうち二人は病でこの世を去った。妃殿下も子を二人も失い気が触れた様になり、唯一残った後継者『アートルフィット・ディル・ノス・ドルト・タダルカス』が現在国の政治を行っていた。
だがその非道さに、闇黒の皇太子と呼ばれていた。毎夜獣人の奴隷達を寝所に侍らせ、気に入らないと直ぐに殺す残虐さと、周辺の村や町などに重税を掛け、更に女子供の人質として徴集し町の男達にその圧力で従わせる猾さで、国内外から恐れられていた。

*
 *

 ありもしない様な理由で村が焼き払われ、奴隷となった獣人の女性ククタは、その日初めて寝所へと連れて行かれた。そこで見た目の前の光景に声も出せなかった。そして、心の中で覚悟していた『今日私はここで死ぬのだ』と。
  そう、目の前で皇太子の相手をしているのはククタの幼馴染のケキナだ。無造作に破られた一張羅の服は無残に床に散らばり見る影も無い。そして皇太子が動く度に揺れる綺麗だったオレンジ色の髪も、無造作に掴まれ手綱のように扱われる。
  そして闇黒の皇太子は、耳を塞ぎたくなる様な言葉で罵る。

  「なんだ!もう終わりか!泣き叫べ!死にたくないなら満足させろ!」
  「痛いぃ!も・・もうしわけありまぜん!もうじわけありまぜん!」

  それはそうだろう、男性を喜ばす事など出来るはずがない。そう言う経験の無い者達を集めているのだから。ククタは、幼馴染のケキナが壊されていく様をみながら思い出す。二人で話した夢の話を。

  『わたしはいつか獣人の国に行きたいなぁ!』
  『獣人の国?そんな場所ホントにあるの?』
  『あるよぉ!ロロの大迷宮って所にあるんだって!』
  『そうなんだぁ・・・あるなら行ってみたいねぇ・・・』
  『あるならじゃないよ、あるんだよ!沢山の獣人たちが仲良く暮らしてる国なんだ!』
  『いつか一緒に行きたいね!』
  『うん!絶対!いつか絶対一緒に行こう!』

  だがその夢は唐突に消え始める。皇太子は傍に置いてあった短剣で、ケキナの耳をそぎ落とした。

  「ぎぃぃぃぃ!痛い痛い!」
  「ははははは!良いな!そうだ、もっと泣け!」

  耳から大量に血が流れ、痛みで意識が朦朧としているのだろう。徐々にケキルの声が小さくなっていく。

  「あうぅぅぅぁ・・・」

  それを見て皇太子は、飽きた様にいきなりケキナの胸に短剣を突き立てた。ビクンと二度跳ね、ケキナは動かなくなった。そして皇太子は次の女性を見る。終わりなき深い夜に、彼女達の助けを求める声は闇に消え聞く者は誰も居なかった。

*
 *

 ルンドルの町の南側に駅がある。この大陸全土に広がる『ルサ魔導鉄道』である。全従業員が獣人ルサ族で構成されており、安全安心をモットーに毎日運行しているこの大陸の足であった。

  「へー立派な駅だなぁ」
  「ほんとだねー初めて見たよー」

  イサムとリリルカが感心しながら駅の周りとジロジロ見ている。エリュオンは昨日のミケットの暴走に腹を立てているが、そんな話は後にしろとミケットは二日酔いらしく気分が悪そうだ。昨日の事を知らないタチュラは小さくなり気分良くイサムの肩に乗っていた。
  メルが切符を買いに行って戻ってきた時に丁度リリィとテテルもやってきた。テテルには、この町の復旧の手伝いをイサムが頼んでおり、もしもの時以外は呼び出さないと伝えてある。

  「人数分切符を買ってきました」
  「ありがとうメル」
  「列車の旅かぁワクワクするねー」
  「そう?別に普通よ」
  「うーん、頭が痛いニャン」
  「飲みすぎよぅミケット」

  駅員に切符を見せ、構内へと入る。見送り口にリリィとテテルがやってきてリリルカと話をする。

  「リリルカ、気をつけて行くんだよ」
  「うん!お母さん行ってくるね!」
  「リリルカ様!リリィ様のお手伝いは私にお任せ下さい」
  「お願いね!テテル」
  「イサム様!もしもの時はお呼び下さい!」
  「あぁ、その時は頼むな!」

  そう話していると、蒸気機関車のような姿の列車が入ってくる。

  「おおー凄い!石炭で動いているのか?」
  「そうです、魔石炭で動いています」
  「なるほど!ワクワクするなぁ」

  イサム達は見送りの二人に手を振りながら、列車の中に入っていく。

  「イサム!頼んだよ!」
  「まかせとけ!」
  『ご利用有難う御座いますモン。ルサ魔導鉄道タダルカス行き、タダルカス行きで御座いますモン。間も無く発車しますモン』

  構内アナウンスが流れプシューと扉が閉まり、プルルルルと構内に発車音が鳴り響いた。ゆっくりと蒸気を噴出しながら列車が走り出す。あっという間にルンドルの駅から離れていき、次の駅へと直走る。

  「早いなぁあっという間にルンドルが見えなくなったな」
  「不思議な乗り物よねー」
  「エリュオンさっき普通とか言ってなかったか?」
  「え?そうだっけ?」
  「適当かよ」

  向い合わせ四人座りの椅子に、イサムとエリュオンが座り、向かいにミケットが丸くなって寝ている。そして通路を挟んでメルとリリルカが座っている。タチュラは相変わらず肩が好きなのか、そこから離れようとしない。

  「ちょっとタチュラいつまでそこにいるのよ」
  「いいじゃない、小さくなってるのだから。ご主人様が嫌がらなければ良いのですわ」
  「イサムぅタチュラが肩に居ると嫌でしょ?」
  「大人しくしてるんだから別にいいんじゃないか?」
  「むきー!じゃぁ私も肩に乗る!」
  「おいおい、それは無理だろ!」
  「んーむぅ!ちょっと五月蝿いニャン・・静かにするニャン」

  相変わらず騒がしい三人だが、今回はタダルカスの前の町で待機して貰うつもりだった。ルーシェに顔がばれてるのもあるが、もしもの事を考えてとりあえず商人と従者と言う形で、二人で潜入しようとメルと話して決めたのだ。
  数駅過ぎてイサムは疑問に思った事をメルに尋ねる。

  「なぁ通り過ぎる駅を見ると、活気が全く無いな。人気の無い場所もあるし。」
  「はい、重税により大変苦しい環境にあると聞きます。廃村した所や中には疫病などが蔓延している町もあるとか」
  「酷いなそれは・・・素通りするのは、関わらない為だろうな」
  「おそらくはそうですね・・・・あと、二日程でタダルカスの前の町に到着します。そこで身支度を済ませて対策を練りましょう」
  「そうだな、暫くは怒りを我慢しないとな」

  タダルカス王国前の『リドラン』の町まで列車の中で過ごす事になったが、この運行経路は利用者も少ないらしくイサム達の車両も殆ど人が乗っていなかった。
  暇なのでイサムはエリュオン達に武器の話を聞く事にする。

  「なぁエリュオン、いつも出す武器って大剣だよな。他の武器とか無いのか?」
  「うーん考えた事も無かったわ。一人一人に専用の武器があるみたいなのよね」
  「そうですわね、でも私達は自分の体が武器みたいなものですから特に持っていませんわ」
  「そうなんだな、ミケットは爪を伸ばしたりしてたな。メルは専用武器とかあるのか?」

  通路を挟んで座っているメルにも武器の話を聞いてみる。

  「専用と呼ばれるものは特にもっていません。ルルルに指示し状況に合わせて武器を選択していますが、姉さんは二刀の『うさぎ』と言う武器を良く使いますね」
  「へーお気に入りみたいなものかなぁ、メルにはそう言うの無いのか?」
  「特にはないですね。でも成るべく力強い物が好みではあります」
  「確かにそんな感じだな・・・」

  タチュラ戦で使用した『ゴリラ』と呼ばれた武器は豪快だったとイサムは思い出していた。

  「俺の持ってる武器『エクレア』は実際どれ位強いんだろうな」
  「どんなに良い武器でも、使い手が強くなければ宝の持ち腐れですよ」
  「そうだよなぁ・・・もっと鍛錬しなきゃなぁ」
  「その武器は、ミスリルと魔鉱石を混ぜて作られているようなので魔法を付加しやすい可能性がありますね」
  「ほほーそうなのか」
  「そうです。ですので剣にイサム様の魔法を付加して攻撃する事も出来るはずです」
  「それは良い事聞いたよ、今度練習してみよう」
  「イサム、その時は私も付き合うわよ」

  エリュオンは、イサムに剣術を教えたくてしょうがないという顔をしている。

  「わかった!その時は是非お願いするよ」
  「任せなさい!」

  そんな話をしながら二日が過ぎ、タダルカス王国前の町『リドラン』に到着した。一応活気はあるが、何処となくよそよそしい感じがする町だった。とりあえずリリィの紹介した宿屋へ向かう。
  さほど広い町ではないので、案外直ぐに見つかった。ベッドの書かれた札の扉を開け中に入る。

  「いらっしゃい、何名様でしょ?」
  「泊まるのは四名です」
  「え?そうなの?誰と誰?」
  「それは部屋で話しますので、少し待ってて下さい。手続きをします」

  エリュオンの質問にそう言うと、リリィからの手紙を受付に居た男性に渡す。すると奥から大柄な女性が出てきた。

  「リリィさんの知り合いだってね、あの人には世話になってるから安くしとくよ!ゆっくり休みな!」
  「有難う御座います」

  メルがお礼を言いながら、必要事項を書類に記入し男性に渡す。

  「こっちだついて来な」

  そう言うと大柄の女性は部屋に案内する。六人は部屋に入り先程の話を始めた。

  「今回タダルカスには一応ですが潜入と言う形で入国します。その時に、エリュオンとミケットとタチュラは、黒髪の女性に顔がばれているので一先ず待機です。あとリリルカも待機です」
  「なんですって!じゃぁイサムとメル二人だけでタダルカスに行くの?」
  「そうだ、今回は商人と従者と言う形で入る。少人数の方が動きやすいだろ?」
  「それはそうかも知れないけど、二人だけだと色んな意味で心配だわ・・・」
  「何を心配してるんだ・・・それにもし闇と戦闘になったら、どのみちお前らを呼ぶわけだし」
  「そうニャン、エリュオン大人しくするニャン」
  「ご主人様の命令は絶対よ!エリュオン!」

  リリルカは、いまタダルカスが安全じゃない可能性があるという事で納得して貰った。

  「リリルカは、こちらで待機しつつもし闇が来た場合は防御魔法を展開して連絡を下さい」
  「うん、わかったよ!気をつけてね」

  リリルカは素直に返事をし、イサムとメルの帰りを待つと約束した。他の三人もリリルカを守りながら待機と言うことで渋々納得した。その後、町で商人に見えそうなコートを買い、メルと駅へと向う。

  「メル、気を張るなよ」
  「分かっております、ご安心を」

  そう言うメルだったが、イサムは少し不安だった。
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