蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

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腐敗した国とメルの涙

第29話

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 馬車で城に連行される二人だが、一階の兵士待機所の様な場所まで来るとイサムだけ降ろされ、馬車はその奥へ進む。

  「ん?なんで別々なんだ?」
  「うるさい!ついて来い!」

  そう言うと兵士はイサムの手を縛った縄をぐいっと引っ張り移動させる。それに我慢して、イサムは兵士について行くと地下に続く階段へと進み始める。
  薄暗い奥まで来て錆びた鉄格子を兵士が開けその中に入れられた。なかは四帖位だろうか、寝具とトイレがあるだけの殺風景な牢屋だ。地下だが少し天井が盛り上がってる場所から外が見える。

  (空気を入れ替える場所だな、あそこからは出られないか・・・)

 とりあえずはどうする事も出来ないと、ベッドに横になってメニューを開きマップを見る。
  イサムは、迷った時に説明書を開くタイプらしく、必要な物や便利な機能等を後々気付く事が多い。マップは今まで使っていなかったなと思いながら、確認していくと階層ごと上から見下ろす形でスワイプして個別に見れるらしい。
  そこには自分は青い丸で表示され、兵士は緑丸だ。さっきメルと離れた場所から、馬車が走っていった方向を確認していくと、水色の丸が緑丸に連れられて動いているので、これがメルだろう。イサムは、無事かどうかを念話チャットでメルに話しかける。

  (メル、大丈夫か?)

 声には出さず、心の中で話しかけて伝わるかを試してみる。

  『はい、問題ありません。イサム様は今どちらですか?』
  (今地下一階の牢屋だな、声を出さなくても使えるんだな)
 『はい、そうですね。私は今、城の二階を進んでいる様です』
  (ああ、確認している。どうやら、マップで構造や人の場所が分かるらしい)
 『そうなんですか、便利ですね。それは助かります』

  とりあえず通信はそのままで、メルが何処に連れて行かれるのか調べる為に城のマップをスワイプしていく。
  三階を見て問題が無いと確認して四階を見る、すると一箇所赤い色の丸が一つに緑丸が三個ある部屋を見つけた。そしてその部屋を過ぎた奥の部屋には灰色の丸が部屋中に埋め尽くされていた。

  (この赤って敵か?だとしたらこの灰色の丸は・・・まさか死体か!)

  イサムはメルに確認した事を伝える。

  (メル、四階に敵が居るかもしれない。もしかしたらその部屋に向ってるのか?)
  『分かりませんが、兵士の会話を聞く限りではそのようですね』
  (どうにかここを抜け出してそっちに行く方法を考えなきゃな・・・)

  そう言っていると、先程の赤丸の部屋に居る緑丸が一つ灰丸に変わった。

  (おいおい、メルその敵に居る部屋に他三人居たんだが、一人は死んだかもしれない)
  『おそらく獣人の奴隷を殺したのではないでしょうか?』
  (ありえるな・・・てことは、その奥の部屋に見える大量の灰丸は全部死体で間違いないな・・・・凄い数だぞ)
  『おかしいですね・・・・もし今まで殺した奴隷を放置していたとしても七日で消えてしまうはずです。死亡したまま魔物にもなっていないなんて・・・』
  (奴隷を買い付けしたとしても七日間で集めたとは考えられないな)

  そして予想通りメルは三階を進み四階へと上がっていく。そしてその赤丸へと徐々に向かっていくのが見える。

  (やはり、敵が居る部屋だな。恐らくは皇太子の部屋だろう)
  『そうです。相手の出方を見て迎撃致します』
  (そうだな、取り合えずここから出る方法を考えてる、待っててくれ。気をつけろよ!)
  『はい、たぶん大丈夫ですよ。そん・・・・・』

  突然通信が切れた。赤丸の部屋に入ったようだ。

  (メル!おい?聞こえるか?)

  返答が無い。マップを見ると、赤丸と緑丸が二つありそこへ水丸が居るのが分かる。

  (まずいな、どうする・・・考えろ・・・・・)

  そして、イサムは考えに考え抜いた末に無謀かもしれないが、行けるかも知れない作戦を考えていた。

  (よし、一応試してみよう。それしか思い浮かばない)

  そう言うとイサムはメニューを開き、『コア』タチュラを呼び出した。すると小さいままでタチュラが直ぐに現れた。

  「ご主人様如何致しました?」」
  「しっ・・声が大きい。今牢屋に居る」
  「はっ・・失礼しました・・・でも何故牢屋に・・・」
  「説明は後だ、出来るかどうか先に聞きたい。タチュラは俺を口の中に入れたまま、小さくなって移動出来るか?」
  「愚問で御座います。ご主人様の為であれば如何様にもできます」
  「良かった。城の四階にメアが連れて行かれた。助けに行きたいんだ」
  「さすがご主人様お優しいですわ」
  「じゃぁばれない様に、身代わりでミケットをここに置いておくか・・・」

  イサムは先程と同様にミケットを呼び出した。

  「にゃ?お呼びですかニャン?」
  「しっ静かにしろ!見つかるだろ」

  急いでミケットの口を押さえる。柵の外を見るが、距離が遠かったらしく兵士には聞こえていない様だ。

  「ミケット!事情は後で話すから、このコートを着て寝た振りしていてくれ。俺達は外に出てくる」
  「わかったニャン・・・・」

  イサムは自分が着ている商人コートをミケットに渡すと、大きくなったタチュラの口に入る。

  「タチュラ、あそこの空気口から外に出られる。急いでくれ」
  「畏まりました。では失礼して」

  空気口から通れるほど小さくなったタチュラは、イサムを口に入れつつも器用に糸を吐き出し、空気口から外に出る。

*
 *

 一方、皇太子『アートルフィット』の部屋に入ったメルは、その光景に眉をひそめる。部屋の中央に置かれている大きなベッドの下に獣人の女性が倒れ動いていない。それにも拘らず、ベッドの上ではアートルフィットと獣人の奴隷女性が肌を重ねている。
  メルは手を縄で縛られているが、簡単に引き千切る事が出来る。営みの最中でも攻撃は出来るが、女性に怪我をさせる可能性があるのでそのタイミングを見計っていると、アートルフィットは途中で動くのをやめ傍にあった短剣で当たり前の様に女性の首を斬った。

  「なっ!なにをしているのですか!」

  すぐさまアートルフィットを止めようと、縄を引き千切る為力を入れるが体が動かない。

  「ふふふふふ、邪視と言うものらしい。体が動かないだろう」

  アートルフィットはベッドから降り、メルに近づいてくる。勿論服などは着ていない。

  「やはり闇に侵食されているのですね」
  「はははは、侵食?違うな俺はあの女に協力してるだけだ」
  「協力?もしや黒髪の女!?」
  「ほう、知っているなら話は早いな。ならこれからお前がどうなるかも分かるだろう」

  アートルフィットは話しながら、メルの髪を撫でる。メルは感覚を遮断しているので肉体的は不快感は無いが、気持ち悪いのは変わらない。

  「お前を今日奴隷屋の近くで見たときに、まさかと思ったよ。親父の部屋に飾ってあった大昔の肖像画に描かれている、双子の女にそっくりだったからな。そして思い出したんだ・・・黒髪の女がいずれ魔法使いの人形が邪魔をしにくる可能性がある、と言っていた事にな」
  「くっその手を離しなさい」
  「はははは、まさか本物だったとわな。前王国の生き残りメルフィ王女・・・ノルファン王女は一緒じゃないのか?」

  髪を撫でる手を離さず、そのまま頬を触るアートルフィットは卑猥な笑みを絶やさず更に話しかける。

  「俺はガキの頃にあの絵を見たときに恋をしたんだ、そうメルフィ王女・・アンタにだ。いつか本物に触れてみたいと思っていた、まぁ四千年前の絵と知った時は流石に落ち込んだが・・ふふふ、ついにこの日が来た!」

  片手でメルの服の一番上のボタンを一つ外した。

  「いやいや、夢の様だよ。初恋の女性など居ないと思っていた俺の目の前にこうして現れたのだから」
  「あなたは恥ずかしくないのですか!タダルカスは光の国と言われていたはずです!」
  「は!何が光の国だ!子供の頃から聞かされて、吐き気がする!」

  さらに二つ目のボタンを外す。

  「そう言う事を言ってるから、闇に狙われて滅んだんじゃないのか?あんた等のレイモンド王国は!」
  「ちがう!闇に対抗できる手段がまだ足りなかっただけだわ!」
  「それでも光の国と名乗らなければ、救える国民も大勢居たんじゃないのか?だからだよ!闇に力を貸せば奪う側に回れる!見てみろ!お前らは手も足も出せない!」

  三つ目のボタンを外し、メルの下着が少し見える。怒りが込み上げるが動けないメルは睨みつける事しか出来ない。

  「やはり綺麗だ・・・想像以上に綺麗だ・・獣人どもなんぞ足元にも及ばない・・・・」

  アートルフィットは指先で服の上から胸をなぞる。しかしそこから離れて、そのまま立ち続けている残り一人の獣人の女性の方へ歩いていき、そのまま壁に掛かっている剣を取る。そしてそのまま獣人の女性へと向きなおす。

  「そうだな、いつもは無理やりしているのが楽しいのだが。初恋の女性にまで、そんな事はしたくない。指だけ動かせる様にした、自分でスカートを持ち上げろ」
  「くっ・・・なんと卑劣な!必ず貴方は報いを受けるわ」
  「なんとでも言え、無理やりが良いのか?それとも同意の上で、愛し合うのかどちらか選べ!」

  (イサム様・・・・・・・・助けて下さい・・・・)

*
 *

 イサムを口に入れて颯爽と壁を登るタチュラ。とにかく急げと言われているので急いでいるが、主人を咥えているので興奮が収まらない。

  「おい!タチュラお前涎出してないか!?俺を食うなよ!」
  (分かっております・・・・しかし、妾を頼ってくれるご主人様を口に入れているのです!)
  「おいおい・・・到着するまでに食われたら、俺はマジで腹を突き破るからな」
  (それはそれでご褒美です!)
  「勘弁してくれ・・・・・」

  話しながらも急いでくれているタチュラは4階まで直ぐに辿り着いた。イサムはマップを確認しているが、緑丸が後一つになっている。

  「やばいな、赤丸が水丸の周りを回っていたが緑丸へ向ったぞ」

  そしてその窓へと到着する。タチュラの口の中から窓を覗くと、メルの服が肌蹴て少しだけ下着が見えている。そして指だけを動かしスカートを持ち上げようとしていた。

  「なにやってんだ!タチュラ早く中に入れ!」 
  (わかりました!暴れないで下さい!)

  タチュラは更に小さくなり窓の隙間をすり抜けて中に入った。そこからアートルフィットの声が聞こえる。

  「焦らしているのか?早くあげないとこいつは死ぬぞ?その二人みたいにな」

  その光景を見てイサムの怒りも頂点に達する。

  「てめぇ!絶対ゆるさねぇ!」
  「何!?」

  突如聞こえる男性の声に、アートルフィットが驚いて周りを見るが誰もいない。

  「タチュラ!早く吐き出せ!」
  (わ・・・わかりました・・・残念です・・・・・んべっ)

  べちゃっ

 全身ずぶ濡れの状態でイサムが目の前に現れる。

  「おいおい唾液まみれじゃないか!カッコいい登場シーンだろ・・・普通・・・・」
  「イサム様!」
  「誰だ!貴様!」
  「タチュラ!他の奴が部屋に入らない様に入り口に糸をかけろ!」
  「お任せ下さい」

  タチュラは大きくなり、糸を入り口の扉に吐き人が入れないようにした。

  「くっシム族までいるのか」
  「いや、お前の相手は俺だけだ。ぜってぇ許さねぇぞ」
  「ふん、何が許さないだ。恋人と営みの邪魔をしやがって」
  「何が恋人だ、その子は俺の大事な仲間だ。お前には見せるのも勿体無い」
  「イサム様・・・・・」
  「生意気だな、それが何処まで通用するかな」

  アートルフィットは傍に居た獣人の女性を斬り付けた。

  「ぎゃぁぁぁ!」
  「何してんだ!やめろ!」

  イサムはアートルフィットに向かい走り出す、そしてボックスから剣を取り出すと斬り付けた。

  ギィイイン

 アートルフィットは平然と受け止め、そのまま押し返す。

  「ふん、口の割には剣に腰が入ってないな、まるで素人の様だ」
  「何を言ってる、様だじゃなくて素人だ!」
  「馬鹿にしてるのか」
  「お前なんぞ素人の俺一人で十分って事だよ」
  「ぐぬぬぬ、馬鹿にしおって!」

  イサムとアートルフィットの決闘が今始まった。 
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