蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

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フェアリーの国と古の女王

第50話

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 ゴンドラの中でオベロにこの国について詳しく聞く。オベロはパックの中に居た時は白髪に鼻ひげと顎髭をちょこっと生やした、紳士風のタキシードを着た男性フェアリーだったが、イサムのコアになった事により見た目が若くなり、黒髪や黒ひげに変わっていた。

「そうか…ティタが一人で始めた場所なんだな。それでここまで大きな国になったのか」
「そうじゃな。彼女はこの国の土台を百年かけて作ったのじゃが、勿論多くのフェアリー達の協力があったからこそなんじゃ」
「苦労して国を造り上げたのに子孫は追放され、階級制度が設けられて同じフェアリー同士で虐げたり虐げられたりしてるのを見れば、腹が立つのも当たり前か…」
「だが、人が増えれば自ずと偏見や不満も出てこよう。我らは一度死んだ身だ、今更この国の内政をとやかく言う筋合いはない。それに、シム族との闘いが無くなった今…当時を知らない世代も多いはずだ」

 それを聞いて、ベルも話に入る。

「私もシム族との戦争を知らない一人だ。ただシム族は怖いと言う事だけ、小さな頃から教えられてきた」
「なるほどな、だからタチュラを見てあれ程怖がったわけだ。じゃぁ闘技場に残したのはまずかったかな…」
「恐らくは、大騒ぎになっているかもな」
「ま…まぁメル達が何とかしてくれるだろ…」

 そしてイサム達が国の生い立ちの話をしながらで闘技場に向かっている頃、念話を終えたメルが、ティタにオベロも向かっていると伝える。

「千年も行方不明だった奴が今更じゃのぅ」
「ジャイアントパックに食べられていたらしいですよ」
「食べられてた? そのジャイアントパックとは魔物か?  湖にそんな生き物は居なかったからはずだが…。誰かが放ったのかもしれないのぅ」
「では二千年前以降に住み始めたって事でしょうね」
「本当にオベロは昔から阿呆じゃからのぅ…後で下の女王に聞いてみようかのぅ」

 ティタが座っている【二層式洗濯機】の中には現女王が未だに閉じ込められており、時折小さな泣き声が聞こえる。そんな中イサム達が到着したとタチュラが答える。

「このシム族は異界の男のコアであろう? シム族は嫉妬が強い者が多い、良く大人しくさせておるのぅ」
「この子はイサム様に従順ですね。大迷宮八十層のあの子がロロ様に懐くのと同じようなものでしょうか」
「なるほどのぅ、八十層とはわしも話をたまにするがアイツは良い奴じゃのぅ」

 八十層のフロアを守る巨大なシム族、ムカデ型タイプのオートマトンとはティタも時々話をしているらしい。二十年前リリルカの母親リリィにあっけなく倒された時は、その悔しさを永遠に聞かされ本当に困ったなとティタが思い出し笑いを浮かべる。そこへメルが声をかける。

「ティタ、イサム様達が来ましたよ」

 集まった兵士達が綺麗に半分に分かれ道が出来ている、その中からイサム達が現れた。その瞬間、イサムの隣に居たオベロが吹き飛んだ。

「なっ! どうしたんだ!」

 一瞬だったので全く見えなかったが、ティタがオベロの顔面に膝蹴りした様だった。そのままヒラヒラと羽根を動かし着地するティタを見ると彼女もイサムを見上げる。

「お主がイサムじゃのぅ? 待ちくたびれたぞ」
「あんたがティタか、オベロとは夫婦なんだろ? 珍しい挨拶だな」

 かなりの距離を飛ばされたオベロはまだ起き上がってくる気配はない。それでも、そんな挨拶をする人達かもしれないので、イサムはあえて蹴り飛ばしたとは言わない。

「はっはっは! 中々肝も座っておる様じゃのぅ。どれ、メル達の所へ戻ろうか」
「そうだなって! 何であんな所に洗濯機があるんだ?」
「あれで来たからのぅ。異界の形を模している物だとは知っておるが、あれはそう言う物ではないのか?」
「いや…どうだろうな、俺の居た世界では移動には使われてなかったぞ」
「まぁ今は女王が入っているがのぅ」
「ん? 女王?」

 メル達の場所まで来てみると、洗濯機の中から泣き声が聞こえる。

「まさか中に人を入れっぱなしにしているのか?」
「そうじゃ、現女王に腹が立ってのぅ。怪我はリリルカに治してもらったから、恐ろしくて泣いておるのじゃろうなぁ」
「おい、現女王は酷い奴なのかもしれないが、同じ事をそいつにしたら意味ないだろう」

 イサムは洗濯機の蓋を開け、屈んで泣いている金髪のフェアリーに声をかける。

「大丈夫か? ここから出ても良いぞ」
「で……でたら…ヒック…ティタニア様に殺される……ヒック」

 女王は泣き過ぎたのだろう、過呼吸でうまく息が出来ていないらしい。

「反省はして貰う。だが、殺す様な事は俺がさせない」

 フェアリー族は成人してもイサムのへそ位しか背丈が無い。イサムは洗濯機から女王を出し、そのまま抱きかかえると女王は抱き付いたまま離れようとしない。この女王はまだ若くテテルと同じ位だろうか。

「な! イサムから離れなさいよ!」
「そうです! 貴方がしてきた報いを受けなさい!」
「私も許せません! フェアリー族の恥だと思いなさい!」
「妾も抱っこしてくださいご主人様!」
 
 他の女性達が、イサムから離れない女王に不満を言う。それに怖がり余計に離れない。

「怖がらせたら解決出来るものも出来なくなるだろうが! 少し大人しくしてくれ!」
「ほう? 解決と申したな。お前はどうやって解決するつもりかのぅ?」

 庇うイサムに苛立ちを見せるティタは、いつイサムに襲い掛かるか分からない程にイライラしている様子が見える。

「ここに来る時にオベロから聞いたが、この国を造った立派な人なんだな。それがこんな事になれば俺も腹が立つよ」
「じゃぁそいつを殺して、この国をもう一度平和な国にするべきじゃろう?」
「そうだな、でもそれはティタがする事なのか?」
「なんじゃと? それはどういう意味じゃ?」

 イサムの言葉に対して、明らかに敵意を表すティタ。それでも冷静にイサムは話を続ける。

「ティタやオベロは、すでに国を離れ一度命を落としてオートマトンになったんだろ? その時に国の未来は子孫に託した筈だ。たとえその未来が悪い道だったとしても、それを今更出てきて理想と違うから壊しますじゃ誰も納得いかないだろ」
「ほぅ、生意気な奴じゃと思っておったが、今までのわしの苦労を忘れろと言うのか!」

 片足を上げ地面を蹴る。その場所は大きなクレーターが出来上がる。

「ひぃ!」
「力ずくでは駄目だと言ってるんだ! 力で抑制しても、また同じ奴が出て来るぞ!」
「じゃぁどうしろと言うのじゃ! このまま放置して崩壊の道を辿らせるのか!」
「それで崩壊する国ならその程度だって事だろ! ティタが残した、意思を継ぐ者が出て来るかも知れないだろ!」

 そしてイサムは女王に抱き付かれたまま広い場所に向け手を伸ばす。アイテムをタップして、パックの中で拾った礎を取り出す。巨大な黒い石で出来た礎は光を放ち、その場所に現れる。

「これは! お主これを何処で…!?」
「パックに喰われた時に、腹の中にあったんだ。触れたら俺のボックスに入ってしまったんだ」

 そこへ蹴られたオベロがやって来る。

「流石に効いたわい。久しいのティタ」
「ほほぅオベロまだ生きていたか」
「儂はお前が死ぬまで死なんよ。この礎探してあの怪物に喰われたんじゃ千年前にな」
「探したってのはどうしてだ?」
「千年前にロロ様に許可を貰い一度この地に来たのだ、子孫達の様子も見たかったからな。しかし子孫達はもうイフリ山の麓の町へと追放されておった」

 オベロが話始め、ベルが隣に来る。

「ほほぅお主はわしの子孫じゃな。わしに良く似ておる」
「ティタニア様! お会いできて光栄で御座います!」

 ベルはティタに深々と頭を下げる。そしてオベロが話を続ける。

「儂も酷く驚いた、そこで思い出したのが礎だ。国中探しても見つからず、もしやとおもい湖の中を探していたらあいつに喰われたのだ。もう一度この礎を見て思い出して欲しかった…」
「オベロ…おぬし…」
「ティタ、ここにも書いてあるじゃないか。【道外れるとも見捨てず】と、これを造った本人がこいつらを見捨ててどうするんだ」
「そっそれは……」
「イサムの言う通りじゃよティタ…儂らは既に死んだ身、これ以上国に深く関わってもこの子等の為にはならん! 見捨てず見守るのが儂らの役目じゃろう」
「……」

 ティタは何も言えなくなる。そしてイサムは島の話を聞いてみる事にする。

「それで、この浮遊島の事だが…」
「ああ、リリルカから聞いておる。それが幸せに繋がるのならば致し方あるまいのぅ」
「そうか! 良かった…その後は、この国の人達が変えていくはずだ。ただきっかけが必要だと思うから島の事を頼んだんだ」
「そうじゃろうと思ったよ。この国に関係のないお主がここまで考えてくれたんだからのぅ、わしもそれに答えねばなるまい」

 イサムはそれを聞くと、抱きかかえている女王に話す。

「おい女王! 話を聞いていたか?」
「ディアナと申します…はい……聞いておりました……」
「この国の島々を下ろしても良いな?」
「はい…勿論で御座います……」

 イサムに抱き付いたまま、顔を上げずに答える現女王のディアナ。イサムはそれを聞き、リリルカに頼む。

「リリルカ、頼めるか?」
「うん、大丈夫。おばあちゃんから解除方法も聞いてあるから」
「そうか。でも疑問に思ったんだが、この湖の水が溢れるんじゃないか?」
「それならば、わしに考えがある。この美しい光景が消えるのだ、少しは何か残してやらないとのぅ」
「分かった、頼むよ」

 リリルカとティタは魔法の準備にかかる。イサム達は少し離れてそれを見つめる、いまだに抱き付いている女王ディアナをエリュオンとテテルが軽く引っ張るが、離れようとしないのを見てメルもため息をつく。
 闘技場にいる人達は兵士達は、理解できずに声を出す事すら忘れただ見ている事しか出来ない。これから起こるこの国の歴史に残る新たな出来事を、訳も分からずただ括目しているのだった。
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