蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

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フェアリーの国と古の女王

番外編 マコチーの夢と至高の食材

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 ロロの大迷宮三十層に店を構える【仕立て屋ジャッドゥ】の設立者【ジャッド・ジャッドゥ】は、二百歳の時に二代目へと店を譲った。
 彼曰く生涯を仕事に捧ぐのも悪くは無いが、残りの人生を新しい夢の為に費やすのも面白い、と言って姿を消したらしい。
 それ以降、この仕立て屋ジャッドゥでは二百歳の時に次の代に譲る決まりになったらしい。ある者は迷宮を離れ、別な国で仕立て屋を続ける者。ある者はこの世界の謎を追う冒険者になった者もいる。
 十代目のマコチーも二百歳を迎えて、新しい夢を追いかける準備をしていた。

「師匠! 本当に行かれるのですか?」

 十一代目を継いだ若いドワーフ【ソウ・ジャッドゥ】は、不安な言葉をマコチーにこぼす。

「何を言っている! 俺お前もう五十じゃねーか! 俺は三十五で店を継いだがこれっぽっちも不安なんてなかったぞ!」
「仕事の事ではありません! 師匠がこれから行く場所の事を言っているのです!」

 マコチーは残りの人生を何に費やすかずっと考えていた。イサムの服を作り、仕立て屋として十分満足し次の代へと店を譲った。その時に思い出した若い頃の記憶。

「俺はな、美味い物が好きなんだ! それを自分で取りに行きたい! 金じゃぁ買える事の出来ない達成感を味わいたいんだよ!」
「その気持ちは分かります! ですが、引退後初めての冒険で【メメルメー】は危険過ぎます!」
「馬鹿野郎! 初めだからじゃねーか! あの肉を喰うからこそ俺の第二の人生が始まる!」

 はぁとため息をつき、首を振るソウ。この人に何を言っても自分で決めた事は押し通す、そんな迷いの無い人だから今まで自分もついて来れたのだ、と渋々諦める事にした。

「ですが…良いですか師匠! 決して無理はなさらないで下さい!」
「そんな事で美味い物が手に入るか! 危険を承知で挑むから、その食材も格別なものになるもんだろ!」

 そんな言い合いの中、一人の客が店に入って来る。

「ミャコチー、服出来たニャン?」
「おうミケット! 俺はもう服は作らねーって言ったじゃねーか! 今度からはソウに言いな!」
「そうだったニャン、ところでこれからどこかに行くニャン?」
「良く聞いてくれたな! 俺は引退して、食材を自分で採りそして喰う旅に出る!」」
「それは面白そうニャン! で、何を取りに行くニャン?」

 目を輝かせマコチーの言葉を待つミケット。それを待ってましたと口を開くマコチー。

「初めての獲物はメメルメーだ!」
「にゃふー! メメルメー! あれは美味いニャン!」
「そうだろう! そうだろう! お前も分かるかミケット!」
「分かるニャン! 想像するだけで涎が出てくるニャン!」

 二人ともメメルメーを想像して唾飲み込む。勿論加工された部位のみを想像しているのは明らかである。

「ミケも行きたいニャン…でも勝手に迷宮を離れたら怒られるニャン…」
「まぁしょうがないわな、お前の分も採って来てやるから安心しろ!」
「期待してるニャン!」
「まぁ大半は現地で食べるがな! がはははは!」

 羨ましそうにプクット膨れるミケット。そこにソウが服を持ってくる。

「お待たせしました、タダルカスから移った方々の服の準備が出来ました。量が多いので、他の職人たちと一緒に【イサム長屋】までお持ちします」

 タダルカスから救われた奴隷だった獣人達も大分落ち着きを取り戻し、この国での生活も慣れてきた。イサムが提案した土地の購入だったが、獣王の計らいのより土地と住む家が提供され今に至る。そしてその長屋の名前を感謝の気持ちを込めて、イサム長屋と呼んでいるらしい。

「分かったニャン! じゃぁミケも長屋に戻るニャン! ミャコチーも頑張るニャン!」
「おう! ありがとうよ! 長屋の奴らにも宜しくな!」

 ミケはお辞儀をぺこりとすると、名残惜しそうにマコチーを見ながら店を出た。マコチーもロロルーシェから昇降機の使用許可を貰っていたので、そこへ向かう事にする。

「じゃぁ俺も行くぞ! くれぐれも心配なんかするんじゃねーぞ!」
「いや普通しますよ…お気を付けて下さいね!」
「土産を楽しみにしときな!」

 マコチーは笑いながら長年働いた店をでる。この冒険の為に収納ボックスを手に入れていたマコチーはその中からゴーグルのついたヘルメットを取り出し、意気揚々と頭に乗せる。

「がははは! さらばだ仕立て屋ジャッドゥ!」

 悠々と昇降機のある家へと向かうマコチー。新しい門出に気分も上がり鼻歌なんかを歌いながら、家の前に着く。すると家の前に誰か立っている。

「ミャコチー! やっぱりミケも行くニャン!」
「それは心強いが、連絡はしたのか?」
「長屋にメモは残したニャン! イサム達には内緒で後で驚かしたいニャン!」
「がはははは! そうかそうか! それは喜ぶな!」

 二人意気投合し家の中にはいる。昇降機でロロの家までは上がらずに地下一階で降り、ここからまずは徒歩で北出口を向かう。

「北の町【ダリオ】から魔導列車に乗り、そこからジヴァ山脈へと向かうぞ」
「分かったニャン! 楽しみニャン!」

 北の土地はエルフが多く住んで居るが、勿論他の種族も沢山いる。その中で向かうジヴァ山脈は、極寒の地として有名であり観光でもあまり行かない場所である。マコチーが求めるメメルメーが生息している場所は、その山脈の奥にある凍った大きな滝が見える場所だったと、うっすらとだが若い頃に見た記憶を思い出す。

「山脈に登る前に町で防寒用と登山用の装備を買わなきゃな、お前の服だと即死だぞ」
「そうにゃのか…危ない所だったニャン」

 地下一階の迷宮に居るのは雑魚の魔物ばかりで、アクティブな敵も居ないので無視しながら進む。半日程で一階に上る階段に辿り着き、北の入口まで直ぐに出られた。そこから二時間程歩き、北の町ダリオへ到着する。

「この町も中々活気がある町じゃないか!」
「そうみたいニャン、冒険者が集まる場所は活気があるニャン」

 二人は軽めに食事を済ませて、駅へと向かう。

「魔導列車に乗るのも百五十年ぶり位だな! 年甲斐もなく興奮してきた!」
「ミケはこの前初めて乗ったニャン! 便利にゃ乗り物ニャン!」

 そこから何事もなく数駅過ぎて、ジヴァ山脈麓の町に到着する。

「ようやく着いたな! 今日はここの町に泊まって、明日山へ登るか! まずは装備を整えないとな!」
「そうするニャン! ちなみにメメルメーに有効な攻撃は何かニャン?」
「……そうだな…考えてなかった…聞き込みを兼ねて酒場にでも行くか…」

 思い付きで行動している二人は、これじゃぁ危ないと気が付き情報収集と装備を揃える事にした。麓の町であり山登りの装備は充実していたが、やはりメメルメーがレアな生き物の為に攻略する情報は殆ど得られなかった。

「まぁ聞く所によると、山の中にも村があるらしい。そこの住人なら詳しく知っているだろうと言ってたな」
「なら、まずはそこを目指すニャン」
「装備は購入出来た。明日の朝早めに出発しよう」

 二人は打ち合わせを済ませ、宿を取り早朝日が昇り始める頃に行動を開始した。

「天気もいいし、これは山登り日和だな!」
「でも山の天候は変わり易いと言ってたニャン! 気を引き締めて行くニャン!」
「わかった! 最初の冒険で死んでは意味が無いからな!」

 二人は互いに気合を入れて、山を登り始めた。事前に購入した地図を見ながらひたすらに最初に決めた村に向かう。途中大型の魔物などに遭遇するが、ミケットの獣人特有の感覚により難なく回避する。

「お前が居なければ大変冒険になっていたかもな!」
「にゃふふふふ! ミケの鼻は利くニャン! 無理な戦いは避けるニャン!」
「がははは! 目的はメメルメーただ一つだからな!」

 そんな話をしながら、魔物を回避し出発して四時間程経ちようやく村が見える高台の場所まで来た。しかし村に人の気配が無い気がする。

「おかしいニャン…人が居ないような気がするニャン…」
「ふむ…だがそれにしては綺麗に手入れされている様にも見えるが…」
「隠れるニャン! 誰か出て来たニャン!」
 
 人が居ないと思っていたが突然家から人が出て来るのを見て咄嗟に隠れるミケットとマコチー。高台という場所の効果もあり、出て来た村の人には気付かれてはいないようだ。こっそりと覗くミケットが口を押さえ、また隠れる。

「ま…まずいニャン! ミャコチー…あそこの村はダメニャン…」
「ん? どうしたんだ? 何が駄目なんだ?」
「マク族ニャン…獣人の中で野蛮な種族ニャン…見つかれば食べられるかもしれないニャン……」
「なんだと…! それはまずいな…取りあえず別の場所へと移動するか」

 二人が打ち合わせとしている時、ミケットは警戒を怠っては居なかった。しかし高台から覗いているその後ろから声が聞こえる。

『貴様ら! ここで何をしている!』

 二人とも驚き振り返る。そこには紺青色の髪をした綺麗なヒューマンの女性が立っていた。しかし明らかに違うのは、身の丈程の大剣を持ち体に纏う禍々しい闇である。

「な! 何でお前がこんにゃ所に!」
「ミケット? 知り合いか!?」
『裏切り者のお前には関係の無い事だ! 村へと連行する!』

 紺青色の髪の女性は大剣を突き付けた。二人の両手に黒い手枷を付け、村へと連れて行く。ミケットは気付いた、この村は闇の管轄だったのだ。しかしそれも後の祭りである、黒い手枷のせいでイサムにも連絡出来ない。
 ニヤニヤといやらしくミケットと見るマク族の男達に身震いをしながら、山を掘り進んだ洞窟のような場所の牢へと入れられる。

「姉さん! こいつらどうするんですかい? 喰っちまったら駄目なんです?」
『こいつらは囮につかう、此奴の主を誘き寄せる餌だな』
「げはははは、じゃぁ死なない程度に味見しても良いです? 獣人の女なんぞ久しく味見してないもので」
「ひっ」

 ミケットが身を強張らせ、牢の奥へ逃げる。それを庇う様にマコチーが前にでる。

『おい下種! その下の物を斬られたくなければ僕の前でそんな言葉を口にするな!』

 紺青色の髪の女性は、大剣をマク族の下腹部に向け脅す。

「じょ…冗談ですよ…げははは…」
『そうは見えんがな…出ていけ!』

 女性がそう怒鳴ると、渋々と洞窟から出ていくマク族の男。それを確認して、ミケットに話しかける。

『いくらお前が裏切り者でも、僕にも譲れないものがある。ミケット、お前の主を此処に来る様に伝えろ』
「この手枷が邪魔で通じないニャン……」

 女性は手を伸ばし指を鳴らすと、ミケットの手枷が消える。

『余計なことは考えるなよ、このドワーフが死ぬ事になる』
「分かってるニャン……」

 ミケットは泣きそうになるのを我慢して、イサムに念話し始めるのだった。
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