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1-2 逆さまの幽霊 side B
4 憶測の余地
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期間を考えるのも馬鹿らしく思う程度に日本に住んで、しかもこんな界隈ですら変人扱いの男を師事しているロビンだ。
真由にしたように、御霊信仰を説明できる程度には、そっち方面の文化を学んでいるし、それらを背景に持った何かを目にもしている。それこそ、住んでる年数以上に数えるのも馬鹿らしい程に。
「……長くて五十ぐらいだったよね?」
「そうだねえ、弔い上げは、長くて大体五十。短い場合は大体三十三……まあ、解釈違いというのはどこでも発生するから、あくまで大方、でしかないけどね」
ぼそりとロビンが零した呟きを、紀美はその意図を正確に拾い上げて、投げ返してくる。
――弔い上げ。
特定の故人に対する追善供養を終え、以降ご先祖様という括りの概念で供養を行うようにすることを指す言葉だ。
宗派だの、そもそもの神道だの仏教だのの違いで年自体に細かい違いがあるのは確かだが、それでも偏りはある。
同時に、日本における神道、仏教――そもそもとして遡れば神仏習合――の根底をなすと考えられる祖霊信仰における祖霊、即ちご先祖様という集合体に加わるために、霊が個を失うのに必要な期間とも見做すことができる。
「こういう場合、観測者の中で多数決に寄る可能性が高いんだっけ……」
「まあ、そうだけど、これは正直今回はあんまり気にしなくてもいいよ。実際、大本はもう薄くなってたんだし」
ひらひらと紀美が手のひらを振って、軽い調子で言う。
わざわざ、頭の中を掘り返したのに、そういうことは最初に言って欲しい。
「え?」
「うん、ちゃんと覚えてるのはよし。でも、今回はそっちじゃなくてね。歴史的背景……というにはちょっとばかり現代的なやつ。しっかり記事を読んでごらん」
まとめてある資料の一ページ目、そこには大本のことを指すだろう昭和五十年半ば頃の高校での飛び降り自殺の新聞記事を蛍光ペンでぐるりと囲んである。
新聞の細かい字を更にコピーした読みにくい文字に目を凝らすも、そこから読み取れるのは、夕方に飛び降りたのは女子生徒だったことだけだ。
「……理由とかは、ないね」
「そう、ちなみにそれね、めちゃくちゃ探したけど、続報見つからなかったんだよね。まあ、良識のある取材をしていたのか、何か妨害が入ったのか、とかそういったことは当事者連中以外にはさっぱりわからんブラックボックスだ」
次のページからは少しずつ年が飛んだ雑誌記事や新聞記事だ。
一見して一ページ目の内容と関係のなさそうなそれらの共通点を拾おうと、目を凝らしていたロビンは、ページを繰る度に、その内容に眉間のしわを深くする。
最後まで目を通し終えて、ロビンは紀美を睨みつけた。
「センセイ、何この悪趣味な事件の山」
ロビンは自分の目つきが悪いという自覚が一応ある。
ただ、今はそれが凶悪と言っていいだろう状況になっているように思えて、眉間を揉むように指を当てた。
「ああ、そうだね、本当に悪趣味な記事は避けたとはいえ、どうしたって悪趣味だろうさ。僕だって好きで集めたわけじゃない」
――だって、全部いじめに関する記事だからね。
紀美は、ため息混じりの割にはわざとらしいほど平静なトーンでそう言った。
真由にしたように、御霊信仰を説明できる程度には、そっち方面の文化を学んでいるし、それらを背景に持った何かを目にもしている。それこそ、住んでる年数以上に数えるのも馬鹿らしい程に。
「……長くて五十ぐらいだったよね?」
「そうだねえ、弔い上げは、長くて大体五十。短い場合は大体三十三……まあ、解釈違いというのはどこでも発生するから、あくまで大方、でしかないけどね」
ぼそりとロビンが零した呟きを、紀美はその意図を正確に拾い上げて、投げ返してくる。
――弔い上げ。
特定の故人に対する追善供養を終え、以降ご先祖様という括りの概念で供養を行うようにすることを指す言葉だ。
宗派だの、そもそもの神道だの仏教だのの違いで年自体に細かい違いがあるのは確かだが、それでも偏りはある。
同時に、日本における神道、仏教――そもそもとして遡れば神仏習合――の根底をなすと考えられる祖霊信仰における祖霊、即ちご先祖様という集合体に加わるために、霊が個を失うのに必要な期間とも見做すことができる。
「こういう場合、観測者の中で多数決に寄る可能性が高いんだっけ……」
「まあ、そうだけど、これは正直今回はあんまり気にしなくてもいいよ。実際、大本はもう薄くなってたんだし」
ひらひらと紀美が手のひらを振って、軽い調子で言う。
わざわざ、頭の中を掘り返したのに、そういうことは最初に言って欲しい。
「え?」
「うん、ちゃんと覚えてるのはよし。でも、今回はそっちじゃなくてね。歴史的背景……というにはちょっとばかり現代的なやつ。しっかり記事を読んでごらん」
まとめてある資料の一ページ目、そこには大本のことを指すだろう昭和五十年半ば頃の高校での飛び降り自殺の新聞記事を蛍光ペンでぐるりと囲んである。
新聞の細かい字を更にコピーした読みにくい文字に目を凝らすも、そこから読み取れるのは、夕方に飛び降りたのは女子生徒だったことだけだ。
「……理由とかは、ないね」
「そう、ちなみにそれね、めちゃくちゃ探したけど、続報見つからなかったんだよね。まあ、良識のある取材をしていたのか、何か妨害が入ったのか、とかそういったことは当事者連中以外にはさっぱりわからんブラックボックスだ」
次のページからは少しずつ年が飛んだ雑誌記事や新聞記事だ。
一見して一ページ目の内容と関係のなさそうなそれらの共通点を拾おうと、目を凝らしていたロビンは、ページを繰る度に、その内容に眉間のしわを深くする。
最後まで目を通し終えて、ロビンは紀美を睨みつけた。
「センセイ、何この悪趣味な事件の山」
ロビンは自分の目つきが悪いという自覚が一応ある。
ただ、今はそれが凶悪と言っていいだろう状況になっているように思えて、眉間を揉むように指を当てた。
「ああ、そうだね、本当に悪趣味な記事は避けたとはいえ、どうしたって悪趣味だろうさ。僕だって好きで集めたわけじゃない」
――だって、全部いじめに関する記事だからね。
紀美は、ため息混じりの割にはわざとらしいほど平静なトーンでそう言った。
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