怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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閑話2 蛍招き

7 魂兮帰来

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流石さすがにさっきの話と合わせるのはわかった? うん、まあ、そういうこと。死後の魂を現世に呼ぶのが招魂しょうこん魂招たままねき。逆にまだ生きている人の魂を呼ぶのは、魂呼たまよびとか、魂呼たまよばいと言って、特に対象者が危篤きとくの時に行う、死んで抜け出そうとする魂を呼び戻す所作しょさになる。まねくと呼ぶの違い、ということだね」
「……一応、とどめる、のもあるんですよね?」

そう、最初この人は魂は「呼ぶか、まねくか、とどめるもの」と言ったのだ。
じゃあ、当然とどめるものもあるのだろう。

「うん、ある。魂結たまむすび。あ、裁縫の玉結びじゃなくて、たましいを結ぶ魂結たまむすび。あくがれいづたましい遊離魂ゆうりこんを防ぐおまじないで、本来はまじない歌を唱えて着物のすそつまを結ぶんだけど、現代だと無理だね」

そこまで聞いて、奈月なつきは首をかしげる。
青年の方はその意味がわからないらしく、同じように首をかしげた。

「呼ぶのと、とどめるのの目的はわかったんですけど、まねくのにも、目的、あるんですよね?」
「うーん、あるか、ないか、だと、ある、ねえ」

ただなー、今回なー、と何やらつぶやきつつ、青年はしぶっている。

「……うん、あるんだけど、まあ、お盆みたいなものなので」

何やら歯切れも悪い。
じっと見ていると、困惑した顔があきらめを浮かべて、それから今までで一番冷えた鋭い視線がこちらに向けられた。

「……好奇心は、九つの命を持つ猫をも殺す、よ?」

美しすぎるのは普通のいきに収まらない。
――と、となえた張本人のすごみに奈月なつきは背筋がぞっとする。
とはいえ心配してくれたのか、思わず足を止めた奈月なつきの顔色をうかがうように、打って変わった優しい目つきでのぞき込んできた。

おどすのは性に合わないんだけど、ごめんね、知らない方がいい」
「……わかりました」

また、どちらともなく歩き出して、それから奈月なつきは青年を見上げて、ずっとつきまとっていた疑問を口にする。

「それで、その……私は、どうしたらいいんですか?」
「うん?」
「だって、この道から舗装されてるあたりまで、こんな長くないはずですもん」

そう口にして、今まで気にしないようにしていた事が、全然些細ささいでなかったことに気が付く。
自然と、肩にげていたトートバッグを握りしめていた。

流石さすがに気付くかあ。まあこのあたりの子だもんねえ」

返ってきた声は予想外に腹が立つほど呑気だった。
何本めかわからない、本当に存在してるか怪しい街灯の下で青年は立ち止まる。

「あの」
「うん、キミはマロンちゃんを呼んで、まねいてあげて」

街灯を見上げて、こちらを見ずに青年は言うと、すうっと大きく息を吸った。

「ほーたるこーい、やまじをこーい、あんどんのあかりをちょいとみてこーい」

独特な節の付け方から、それが歌だということが奈月なつきには分かった。
最初の部分がほんの少しだけ、一般的に言う蛍の童謡とも似ている。
それから、青年が奈月なつきの方を見る。
その意を理解して、奈月なつきは困惑しつつも後ろを振り返らないようにしながら、口を開いた。

「マロン」

生まれた時から一緒で、頭が良くて、怒られるのをわかってても、悪戯いたずらをしてはしょげていた。
でも、取り返しの付かない悪戯いたずらはしたことがなかったのは、やっぱり賢い子だったんだろう。
何度となく飛びつかれて、よだれでべたべたにされたけど、それだって今は懐かしくて。
にじんだ暗闇を一条の蛍光が、まっすぐ奈月なつきの方に飛んできて、肩に止まった。

「マロン……?」

返事をするようにちかちかと肩の蛍が点滅する。
それからふらりと一度飛び立って、向かっていた方向へ直径五十センチばかりの円を描くと、また奈月なつきの肩に止まった。
まるで、はしゃいだ勢いでぐるりと回ってそのまま飛びつく犬のように。

「それじゃ、行こうか」
「は、はい」

目を細めた青年に、またうながされて、奈月なつきは歩を進め出した。
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