207 / 266
閑話2 蛍招き
7 魂兮帰来
しおりを挟む
「流石にさっきの話と合わせるのはわかった? うん、まあ、そういうこと。死後の魂を現世に呼ぶのが招魂、魂招き。逆にまだ生きている人の魂を呼ぶのは、魂呼びとか、魂呼ばいと言って、特に対象者が危篤の時に行う、死んで抜け出そうとする魂を呼び戻す所作になる。招くと呼ぶの違い、ということだね」
「……一応、留める、のもあるんですよね?」
そう、最初この人は魂は「呼ぶか、招くか、留めるもの」と言ったのだ。
じゃあ、当然留めるものもあるのだろう。
「うん、ある。魂結び。あ、裁縫の玉結びじゃなくて、魂を結ぶ魂結び。あくがれいづ魂、遊離魂を防ぐお呪いで、本来は呪い歌を唱えて着物の裾、褄を結ぶんだけど、現代だと無理だね」
そこまで聞いて、奈月は首を傾げる。
青年の方はその意味がわからないらしく、同じように首を傾げた。
「呼ぶのと、留めるのの目的はわかったんですけど、招くのにも、目的、あるんですよね?」
「うーん、あるか、ないか、だと、ある、ねえ」
ただなー、今回なー、と何やら呟きつつ、青年は渋っている。
「……うん、あるんだけど、まあ、お盆みたいなものなので」
何やら歯切れも悪い。
じっと見ていると、困惑した顔が諦めを浮かべて、それから今までで一番冷えた鋭い視線がこちらに向けられた。
「……好奇心は、九つの命を持つ猫をも殺す、よ?」
美しすぎるのは普通の域に収まらない。
――と、唱えた張本人の凄みに奈月は背筋がぞっとする。
とはいえ心配してくれたのか、思わず足を止めた奈月の顔色を窺うように、打って変わった優しい目つきで覗き込んできた。
「脅すのは性に合わないんだけど、ごめんね、今は知らない方がいい」
「……わかりました」
また、どちらともなく歩き出して、それから奈月は青年を見上げて、ずっとつきまとっていた疑問を口にする。
「それで、その……私は、どうしたらいいんですか?」
「うん?」
「だって、この道から舗装されてる辺りまで、こんな長くないはずですもん」
そう口にして、今まで気にしないようにしていた事が、全然些細でなかったことに気が付く。
自然と、肩に提げていたトートバッグを握りしめていた。
「流石に気付くかあ。まあこの辺りの子だもんねえ」
返ってきた声は予想外に腹が立つほど呑気だった。
何本めかわからない、本当に存在してるか怪しい街灯の下で青年は立ち止まる。
「あの」
「うん、キミはマロンちゃんを呼んで、招いてあげて」
街灯を見上げて、こちらを見ずに青年は言うと、すうっと大きく息を吸った。
「ほーたるこーい、やまじをこーい、あんどんのあかりをちょいとみてこーい」
独特な節の付け方から、それが歌だということが奈月には分かった。
最初の部分がほんの少しだけ、一般的に言う蛍の童謡とも似ている。
それから、青年が奈月の方を見る。
その意を理解して、奈月は困惑しつつも後ろを振り返らないようにしながら、口を開いた。
「マロン」
生まれた時から一緒で、頭が良くて、怒られるのをわかってても、悪戯をしてはしょげていた。
でも、取り返しの付かない悪戯はしたことがなかったのは、やっぱり賢い子だったんだろう。
何度となく飛びつかれて、涎でべたべたにされたけど、それだって今は懐かしくて。
滲んだ暗闇を一条の蛍光が、まっすぐ奈月の方に飛んできて、肩に止まった。
「マロン……?」
返事をするようにちかちかと肩の蛍が点滅する。
それからふらりと一度飛び立って、向かっていた方向へ直径五十センチばかりの円を描くと、また奈月の肩に止まった。
まるで、はしゃいだ勢いでぐるりと回ってそのまま飛びつく犬のように。
「それじゃ、行こうか」
「は、はい」
目を細めた青年に、また促されて、奈月は歩を進め出した。
「……一応、留める、のもあるんですよね?」
そう、最初この人は魂は「呼ぶか、招くか、留めるもの」と言ったのだ。
じゃあ、当然留めるものもあるのだろう。
「うん、ある。魂結び。あ、裁縫の玉結びじゃなくて、魂を結ぶ魂結び。あくがれいづ魂、遊離魂を防ぐお呪いで、本来は呪い歌を唱えて着物の裾、褄を結ぶんだけど、現代だと無理だね」
そこまで聞いて、奈月は首を傾げる。
青年の方はその意味がわからないらしく、同じように首を傾げた。
「呼ぶのと、留めるのの目的はわかったんですけど、招くのにも、目的、あるんですよね?」
「うーん、あるか、ないか、だと、ある、ねえ」
ただなー、今回なー、と何やら呟きつつ、青年は渋っている。
「……うん、あるんだけど、まあ、お盆みたいなものなので」
何やら歯切れも悪い。
じっと見ていると、困惑した顔が諦めを浮かべて、それから今までで一番冷えた鋭い視線がこちらに向けられた。
「……好奇心は、九つの命を持つ猫をも殺す、よ?」
美しすぎるのは普通の域に収まらない。
――と、唱えた張本人の凄みに奈月は背筋がぞっとする。
とはいえ心配してくれたのか、思わず足を止めた奈月の顔色を窺うように、打って変わった優しい目つきで覗き込んできた。
「脅すのは性に合わないんだけど、ごめんね、今は知らない方がいい」
「……わかりました」
また、どちらともなく歩き出して、それから奈月は青年を見上げて、ずっとつきまとっていた疑問を口にする。
「それで、その……私は、どうしたらいいんですか?」
「うん?」
「だって、この道から舗装されてる辺りまで、こんな長くないはずですもん」
そう口にして、今まで気にしないようにしていた事が、全然些細でなかったことに気が付く。
自然と、肩に提げていたトートバッグを握りしめていた。
「流石に気付くかあ。まあこの辺りの子だもんねえ」
返ってきた声は予想外に腹が立つほど呑気だった。
何本めかわからない、本当に存在してるか怪しい街灯の下で青年は立ち止まる。
「あの」
「うん、キミはマロンちゃんを呼んで、招いてあげて」
街灯を見上げて、こちらを見ずに青年は言うと、すうっと大きく息を吸った。
「ほーたるこーい、やまじをこーい、あんどんのあかりをちょいとみてこーい」
独特な節の付け方から、それが歌だということが奈月には分かった。
最初の部分がほんの少しだけ、一般的に言う蛍の童謡とも似ている。
それから、青年が奈月の方を見る。
その意を理解して、奈月は困惑しつつも後ろを振り返らないようにしながら、口を開いた。
「マロン」
生まれた時から一緒で、頭が良くて、怒られるのをわかってても、悪戯をしてはしょげていた。
でも、取り返しの付かない悪戯はしたことがなかったのは、やっぱり賢い子だったんだろう。
何度となく飛びつかれて、涎でべたべたにされたけど、それだって今は懐かしくて。
滲んだ暗闇を一条の蛍光が、まっすぐ奈月の方に飛んできて、肩に止まった。
「マロン……?」
返事をするようにちかちかと肩の蛍が点滅する。
それからふらりと一度飛び立って、向かっていた方向へ直径五十センチばかりの円を描くと、また奈月の肩に止まった。
まるで、はしゃいだ勢いでぐるりと回ってそのまま飛びつく犬のように。
「それじゃ、行こうか」
「は、はい」
目を細めた青年に、また促されて、奈月は歩を進め出した。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
【最新版】 日月神示
蔵屋
歴史・時代
最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。
何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」
「今に生きよ!」
「善一筋で生きよ!」
「身魂磨きをせよ!」
「人間の正しい生き方」
「人間の正しい食生活」
「人間の正しい夫婦のあり方」
「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」
たったのこれだけを守れば良いということだ。
根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。
日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。
これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」
という言葉に注目して欲しい。
今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。
どうか、最後までお読み下さい。
日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる