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閑話2 蛍招き
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◆
「あの、ありがとうございました」
「どういたしまして。今度からもっと気を付けるんだよ」
そう言って、紀美と弘は少女が家に入るのをしっかりと見届けてから、踵を返した。
そのまま暫く二人で歩く内に、弘が口を開く。
「で、先生?」
笑みの含まれた弘の声には、本来そぐわないはずの底冷えがどこかつきまとっている。
「……はい」
「危ない橋、渡りましたね?」
最早事実を確認するトーンだった。
答えるにしても答えないにしても、行き着く先は決まり切っている袋小路。
それでも紀美が答えないので、痺れを切らした弘が呼びかける。
「せーんせ」
「……じゃあ、見捨てる?」
拗ねたような顔の紀美の言葉に、弘は見るからに渋い顔を作る。
「それしたら、先生のアイデンティティ、揺らぎません?」
「わかってるじゃないか」
「まあ、そんなアイデンティティなんぞ捨ててしまえってのがわたしとロビンとの総意ではありますよ?」
それを聞かされて紀美は困ったように笑う。
「ひどいなあ」
「……まあ、それでわたしとロビンが助けられたのも事実だから困るんですよねえ」
諦め半分のため息混じりで弘が呟く。
弘もロビンも、紀美のお節介焼きのお人好しな性分に助けられたようなものだからこそ、こうして諦め半分に苦言を呈するのだ。
「だから、下手に否定もできやしない。けど、わたしたちは先生を祭壇に上げる気もなければ、聖別するつもりもないですから、報連相ぐらいはしてもらわないと」
遠回しに犠牲にするつもりはない、と言いながら、弘は道端の石を蹴り飛ばした。
かつ、かつん、と音を立てながら跳ねていった小石を追って少し前に出た弘は、下校中の小学生のようにその小石をまた蹴飛ばして追う。
「うーん、良い弟子を持ったって言うべきかな?」
「ロビンははぐらかせても、わたしははぐらかされませんからねー、それ」
かっ、と小石を蹴っ飛ばしながら、弘は紀美の魂胆を見抜いてすっぱりと切り捨てた。
「それは、ロビンにも手厳しいなあ」
「ロビンは先生のことが一番ですからね。なんだかんだ先生に甘いですもん、あの人。なので、わたしが鞭です」
「ロビンのアレが飴って言うのは……英国のリコリス菓子かな?」
「確かにクセが強いのは同意です」
紀美の言葉に、弘はからからと笑いながら、また小石を蹴った。
すると、笑いながら蹴ったせいか、かつかつとアスファルトを跳ねた小石は道の脇の用水路に落ちてしまう。
ふわりと一匹の蛍が飛び立った。
「……魂は見つ 主は誰とも知らぬとも 結び留めよ したがひの褄」
足を止めた紀美の唱えた魂結びの呪い歌を聞いて、弘はくるりと紀美の方を向いた。
「なるほど、そういうのが必要な局面だったわけですか……言っときますけど、わたしたちは先生が思ってるより、ずっと先生のことが大事なんですからね?」
そう弘に言われて、ぱちくりと瞬きをした紀美は苦笑しながら、頬を掻く。
「そう面と向かって言われると……面映ゆいなあ」
それを少しじとりとした目で見て、弘は自惚れないでくださいね、と言いながら、またくるりと前を向いて、紀美を先導するように歩き出したのだった。
「あの、ありがとうございました」
「どういたしまして。今度からもっと気を付けるんだよ」
そう言って、紀美と弘は少女が家に入るのをしっかりと見届けてから、踵を返した。
そのまま暫く二人で歩く内に、弘が口を開く。
「で、先生?」
笑みの含まれた弘の声には、本来そぐわないはずの底冷えがどこかつきまとっている。
「……はい」
「危ない橋、渡りましたね?」
最早事実を確認するトーンだった。
答えるにしても答えないにしても、行き着く先は決まり切っている袋小路。
それでも紀美が答えないので、痺れを切らした弘が呼びかける。
「せーんせ」
「……じゃあ、見捨てる?」
拗ねたような顔の紀美の言葉に、弘は見るからに渋い顔を作る。
「それしたら、先生のアイデンティティ、揺らぎません?」
「わかってるじゃないか」
「まあ、そんなアイデンティティなんぞ捨ててしまえってのがわたしとロビンとの総意ではありますよ?」
それを聞かされて紀美は困ったように笑う。
「ひどいなあ」
「……まあ、それでわたしとロビンが助けられたのも事実だから困るんですよねえ」
諦め半分のため息混じりで弘が呟く。
弘もロビンも、紀美のお節介焼きのお人好しな性分に助けられたようなものだからこそ、こうして諦め半分に苦言を呈するのだ。
「だから、下手に否定もできやしない。けど、わたしたちは先生を祭壇に上げる気もなければ、聖別するつもりもないですから、報連相ぐらいはしてもらわないと」
遠回しに犠牲にするつもりはない、と言いながら、弘は道端の石を蹴り飛ばした。
かつ、かつん、と音を立てながら跳ねていった小石を追って少し前に出た弘は、下校中の小学生のようにその小石をまた蹴飛ばして追う。
「うーん、良い弟子を持ったって言うべきかな?」
「ロビンははぐらかせても、わたしははぐらかされませんからねー、それ」
かっ、と小石を蹴っ飛ばしながら、弘は紀美の魂胆を見抜いてすっぱりと切り捨てた。
「それは、ロビンにも手厳しいなあ」
「ロビンは先生のことが一番ですからね。なんだかんだ先生に甘いですもん、あの人。なので、わたしが鞭です」
「ロビンのアレが飴って言うのは……英国のリコリス菓子かな?」
「確かにクセが強いのは同意です」
紀美の言葉に、弘はからからと笑いながら、また小石を蹴った。
すると、笑いながら蹴ったせいか、かつかつとアスファルトを跳ねた小石は道の脇の用水路に落ちてしまう。
ふわりと一匹の蛍が飛び立った。
「……魂は見つ 主は誰とも知らぬとも 結び留めよ したがひの褄」
足を止めた紀美の唱えた魂結びの呪い歌を聞いて、弘はくるりと紀美の方を向いた。
「なるほど、そういうのが必要な局面だったわけですか……言っときますけど、わたしたちは先生が思ってるより、ずっと先生のことが大事なんですからね?」
そう弘に言われて、ぱちくりと瞬きをした紀美は苦笑しながら、頬を掻く。
「そう面と向かって言われると……面映ゆいなあ」
それを少しじとりとした目で見て、弘は自惚れないでくださいね、と言いながら、またくるりと前を向いて、紀美を先導するように歩き出したのだった。
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