怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話2 弘の話

犬神 1

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犬神いぬがみは大陸の蠱術こじゅつを起源とする、とも言われる獣を使った蠱物まじものの一種とも考えられるものである。
同じく蠱術こじゅつを起源とするものといえば、蠱毒こどくも有名ではあるが、両者の特徴としては実際の獣や虫を利用して成り立つところ、だろうか。
なお、この場合の「利用して」は、「犠牲として」に置き換えられるものである。

飢え死にするまでに追い込んだ犬の前に餌を置き、餌に食らいつこうとした瞬間の首を落とし、その首を辻に埋めて十二分に通行人に踏ませた後、掘り返してこれをまつる。
――というのが、知りうる限り一番長い手順の犬神いぬがみ製造方法かもしれない。
とはいえ、製造方法ないし由来には諸説ある。

そこで諸説が生まれるということは、その実態の論理は逆、とも考えられる。
すなわち、「犬神筋いぬがみすじの者に呪われたから不幸があった」のではなく、「不幸があったのは犬神筋いぬがみすじの者に呪われたから」、「あいつは犬神筋いぬがみすじだから栄えている」のではなく、「栄えているのだからあいつは犬神筋いぬがみすじだ」という理論立てにおける順序の倒置。
実体がなく、実態の保証されないどころ
別名、理不尽の万能の受け皿。

これが西洋だと魔女という生者や、吸血鬼という死者になるのだけど、まあ、どんな人間も、綺麗事だけでおのが現実を成り立たせられるわけではない、という話である。



「……中学に入ってから」

そんな出だしで始まったひろの話は、余りにもありふれていて、僕自身も心当たりがあるようなものだった。

小学校よりも学区範囲が広くなった中学校。
異なる文脈コンテクストと生じる軋轢あつれき
思春期特有の異質への過敏さ。それとは相反するとも思える異質への憧憬しょうけい
多くが、自分は何者かになれると何故か思い込んで、争うようにもがいて足掻あがき、足を引っ張り合う。それで何者になれるわけでもないのに。

そういう意味では、唐国からくにひろという少女は、大人び過ぎている一方、子供のように純粋だったのだと思う。
まあ、そうだ。早い話が、いじめ関係である。

「最初は、かばっただけだったんです」

ノブレス・オブリージュ特権にともなう義務と言えばそこまで。
僕らにとっての特権とは、所謂いわゆるところの霊能力者である、ということでしかないのだが、唐国からくに家の場合、古くから続く旧家という側面もある。

「そしたら、矛先ほこさきが向いた?」
「何度か、かばったら、そうなってました」

そう言って、力なく困ったようにひろは笑った。というか、笑ってみせた。
ロビンが少しばかり顔をけわしくしたのだから、間違いない。

「まあ、よくある、と簡単に言ってしまうのもよくないんだけど、そういうの、あるよね、うん」
葛城かつらぎさんも、あったんですか?」
「うーん、まあ、ねえ」

あったと言えば、あったんだけど、なおくんも巻き込んでやらかしてから、不可侵アンタッチャブルに思われたっぽいからなあ。
なおくんがいたから、所謂いわゆるぼっちにはならなかったんだけど、もともとこの変人あつかいがあるから、別にぼっちとか気にしないんだよなあ。

「センセイ、遠い目になってる」
「ああ、うん、ごめん、その、昔からこういうあつかいだったから、そうだったと明確に言えるのかなって……」
「……なんか、すみません」

ひろからもロビンからも、可哀想かわいそうなものを見る目を向けられた気がした。
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